「ほら、これで涙を拭きなさいよ」

突然、泣き出した僕を見て、ティルミお嬢様は揺しながらもハンカチを手渡してくれた。

「……ありがとうございます」

そう言って、僕は涙をハンカチで拭く。

「それで、さっきの魔、どうやったか教えなさい！」

「〈必滅魔弾砲〉のこと？」

「そう、それよ！　どの系統の魔かさえ、わからなかったわ！　一、どの系統の魔なの、あれは？」

魔にはおおまかに三つの魔に大別される。

自然魔、神聖魔、古代魔。

さらに自然魔は火、水、風、土の四つの系統にわかれる。

神聖魔は治癒、結界、契約の三つ。

古代魔は強化の一つのみ。

そして、これら８種の魔を系統魔と呼ぶことがある。

そして、僕の〈必滅魔弾砲〉はどの系統にも屬さない。

だから、こう口にした。

「あれはどの系統の魔でもありません」

「え？　どういうこと！？」

彼は驚いたとばかり目を見開く。

えっと、一なにに驚いているんだろうか。実際に、どの系統にも屬さない魔なんてそう珍しくないと思うんだけど。

「僕の魔力容量は他の人よりないから、系統魔だと第一位階の魔までしか覚えることができなかったんです。だから、既存の魔から、さらに質を分割させてより効率的な魔を作る必要があったんです」

「ちょ、ちょっと、待って！　あなた自分がなにを言っているかわかっている！？」

「なにって、〈必滅魔弾砲〉の説明ですけど……」

って、僕もなに真面目に〈必滅魔弾砲〉の説明しているんだろうか。

こんなに近くに殺さなきゃいけない標的がいるっていうのに。橫を見ると、ティルミお嬢様の首が見える。今なら、簡単に殺すことができるな。

けど、もういいかな。

彼を殺す気は失せてしまった。

「いやいや、あなたの言っていることがもし本當なら、あなたは希代の天才魔師よ」

なにを大げさな。

僕の魔は命令を守るために必死に生み出しただけのちょっとした小細工なんだが。

「まぁ、いいわ。それで、あなたの説明を続けてちょうだい」

「えっと、アカシックレコードって聞いたことがありますか？」

「ええと、確か、あらゆる事象が記録されている高次元の領域だっけ。でも、アカシックレコードは仮説上の存在で本當にあるかどうかはわからないはずだけど」

「アカシックレコードは存在する可能が高いと僕は思っています」

「え、えっと……」

アカシックレコード、言い換えると高次元萬記録層域となるわけだが、過去から現在までのあらゆる事象が記録されているとれる仮説上の存在だ。

そして、アカシックレコードには魔に関する記録も刻まれている。

「アカシックレコードは常に、僕たちに干渉しています。そのせいで、魔は本來のものから歪んでしまっている可能が高い」

「えっと、もっと私でもわかるように説明してくれる嬉しいんだけど……」

そう言われてもな……。

僕は今まで、自分の魔を誰かに説明したことがない。だから、なんて言えば伝わるのか見當もつかない。

「〈水球(アクア)〉。これが、水系統で最も簡単な第一位階の魔だけど」

そう言って、僕は指先から水の塊を発生させる。

「一見、この水の塊を浮かせては移させるだけの魔だけど、本來、この魔を一から式を構築して発させようと思うと、非常に高度なことをしていることに気づかされるんです」

「どういうことなの？」

「まず、水の生、これは魔力を水へと現化させるという非常に高度な魔なんです。そうしてできた水の塊を宙に浮かせる。これは重力の作に當たる。それを意のままにかすのは運能力に関與しているということです。第一位階の〈水球〉だけでも、三つの複雑な魔を発させているのに、多くの魔師はそんなこと意識せずに魔を発させています。なぜ、そんなことが起こりえるのか？」

と、僕はここで一息ついてから、こう結論を口にした。

「それは、アカシックレコードに、すでに複雑な式が刻まれてるいるからです。無意識のうちに魔師はアカシックレコードに書かれている式の力を借りるせいで、簡単にできてしまう魔だと錯覚してしまうんです」

と言って、自分勝手に喋りすぎてしまったことに気がつく。

見ると、ティルミお嬢様はぽかんとした表を浮かべていた。

どうやら嫌いでない魔に関しての話になると、僕は饒舌になってしまう癖があるようだ。これからは気をつけていかないとな。

「す、すごいわ……っ」

「え？」

一拍遅れてティルミお嬢様が僕のことを賞賛した。

「あなた、すごいわ！　本當にすごいわ！　これが本當だって証明されたら、あなたは希代の魔師ですよ！！」

ティルミお嬢様が興してなのか、俺に抱きついてきた。

おかげで、らかいが當たり思わずドギマギしてしまう。

「えっと、別に、そこまですごいことじゃないですよ……」

僕の魔なんて、命令を守るために必死に編み出した小細工だ。

僕の魔力容量がないから、こんなことを考える必要があっただけで、魔力が多い人ならこんなこと考える必要ない。

「なにを言っているのよ！　あなたの発見はとても偉大なことよ！」

流石に褒めすぎな気がする。

「決めた。あなた、私のになりなさい！」

「……え？」

なにを言っているんだろうか、このお嬢様は。

「無理ですよ。僕はすでにクラビル伯爵家のガディバ様の奴隷です。契約魔がある以上、僕はガディバ様に逆らうことができません」

「そんなの気にする必要ないわ」

しれっと、ティルミお嬢様はそう言う。

いやいや、そんなわけにはいかないでしょう。

「だって、あなたにかけられた契約魔、私なら簡単に解除できるもの」

そう言って、ティルミお嬢様は僕の首筋をる。

そこには契約の証である痣があった。

「契約魔の強さはその人の魔力量に比例する。私の魔力量はその辺の魔師とは比べものにならないぐらい膨大なのよ」

そう言って、彼は己の魔力を全にまとう。

濃された膨大な魔力を彼が有していることがわかる。確かに、これだけの魔力を持っているなら、僕の契約魔を解除することも可能かもしれない。

「〈解除(リリース)〉。はい、たった今、契約魔を解除したわ。これで、あなたは自由よ！」

〈解除(リリース)〉は契約魔の中でも第五位階に含まれる、超高度な魔だ。

第五位界の魔なんて、並の魔師ができるわけがない。

それを、僕と同い年ぐらいの彼があっけなく発させてしまったのだ。

これで、僕は長い間苦しめていた契約魔がなくなった。

あまりの急展開に僕は呆然とするしかなかった。