《【電子書籍化】婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣國へ行きますね》第八話 初めましてバルクォーツ侯爵

ウィズダム書籍商の商売が軌道に乗るにつれ、さすがに、本を一人で運ぶことは厳しくなってきました。

人を雇えばいいのですが、信用できる人でないとどうにも任せられません。本は高価なものです、それに私の教養や知識への信頼があってり立っている商売ですので、評判に傷をつけられてはたまりません。もっと言うなら——私のすぐ近くに來る人が、私の顔のあざを見て逃げ出さない保証はどこにもないのです。

毎日苦労して本を運んでいると、とある學校でこんな一幕がありました。

市街地の真ん中にある學校の建に、教師たちに協力してもらって運んできた本を納していました。私は納品書を屆けに、校長室へ向かいます。この學校の生徒たちは皆十歳前後で、十五歳までに他の學校へ進級する制度があるのでワグノリス王國で言うミドルスクールに當たります。活気のある廊下を走っていく生徒たちは、スカーフを深く被った私を不思議に思っていたようですが、特に誰もからかってきたりはしませんでした。

校長室の扉をノックします。すぐに返事が返ってきて、私は室しました。

「失禮します。ウィズダム書籍商です、納品書をお屆けにまいりました」

そう言った私の目の先に、ソファに座った校長と、相対する一人のがいました。老齢の男である校長と二十代半ばほどの妙齢の、それも相當の人です。パンツスタイルの裝飾の多い服を著ていることから、カルタバージュに住む貴族なのでしょう。

「ああ、エミーさん。ちょうどご紹介しようと思っていたところなんです。こちら、バルクォーツ侯爵閣下です。カルタバージュの市長ですよ」

校長はそう言いました。カルタバージュ市長、この街の支配者です。バルクォーツ侯爵という名前も聞いたことがあります、カタリナ・バルクォーツ、男勝りの傑と名高い貴族です。

いきなりそんな貴族に何を紹介するというのでしょう。私は頭を下げ、禮儀として自己紹介をします。

「紹介に與りました、エミー・ウィズダムと申します。學校へ本を卸している書籍商です」

バルクォーツ侯爵は機嫌よく、うんうんと頷きます。

「ああ、話には聞いている。最近カルタバージュへ來た才で、二ヶ國語を流暢に扱うと。書籍商でなければ教師に招きたいところだが、どうだ?」

「いえ、私めには誰かにものを教えられるほどの力も才覚もございません。ご容赦を」

「そうか、斷られるとは思わなかった。だが、私が出資しているこの學校の、語學の授業の質が上がったと評判でな。よければ今度、店に行っても? 何か掘り出しがあるかもしれないからな」

バルクォーツ侯爵はどうやら私の店に興味があるようです。突然來た外國人を見張る目的もあるのでしょう、一度くらいなら招いても問題はありません。そもそも探られて痛い腹があるわけでもないので、どうということはないのです。

「では、また近いうちにいらっしゃってくださいませ。事前にご連絡いただければ、よさげな本を見繕っておきますわ」

「うん、頼んだ。よろしくな」

こうして、私とバルクォーツ侯爵の初対面は終わりました。

しかし縁とは奇妙なもので、この出會いがいろいろと私の運命を変えていくのです。

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