《【電子書籍化】婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣國へ行きますね》第二十九話 復讐は未來のために

夜、私はアレクの部屋にやってきました。

いくつものろうそくの明かりの下で、アレクの顔は固いままです。

「話というのは、詳しくはどういうものでしょうか」

私とともにソファに座ったアレクは、前置きをします。

「耳にしたくもないだろうことは分かっている。だが、お前の意向も聞いておきたかった」

「……どのようなことを、ですか?」

「最後の慈悲として、手を差しべるか否かだ」

慈悲。それが必要なこと、なのでしょうか。

アレクは話を始めました。

「テイト公爵家は、まだ足掻いている。アンカーソン伯爵家との婚約がなくなっても、財政支援の話は生きているからだ。もはやアンカーソン伯爵家もテイト公爵家の領地で債権が溜まりに溜まっているせいで、テイト公爵家が潰れればアンカーソン伯爵家にも多大な影響が出る。一蓮托生、というわけだ」

アレクの口から語られることは、確かに聞きたくない単語と、聞きたくない話でした。テイト公爵家もアンカーソン伯爵家も、もう私には関係ないと決め込んでいたのですから。

でも、私は靜かに耳を傾けます。

「だが、その二家が潰れれば、ワグノリス王國もタダでは済まない。だから、この狀況をどうにかするためには、できるかぎり金を投しなければならない。しかし、今更それだけの大金を國から調達することは不可能だ。となればもっとも近い隣國、アスタニア帝國に頼るしかない。ワグノリス王國の重鎮たちが恥を忍んで頭を下げてくることは、容易に想像できる」

ワグノリス王國がアスタニア帝國を頼る、それは十分にあり得る話です。周辺國のうち、ワグノリス王國を救えるほどの経済大國は、アスタニア帝國しかないのです。そしてそのお金の流れというのは、貴族が握り、皇帝の監視下でいています。皇帝の裁可が下りれば、ワグノリス王國はいっときでも助かるでしょう。

問題は、アスタニア帝國がそこまでけをかける理由はなく、融資には條件をつけるということです。どのような條件か、そこがこの話の肝なのでしょう。

、私は察してきました。テイト公爵家もアンカーソン伯爵家も、命運は盡きたも同然です。

「テイト公爵家は、十年前の事故から貴族を脅して金を搾り取ったことまで、すべて嫡男だったヒューバートに罪を著せて追放した。しかしだ、當時子供だったヒューバートにそんなことができるわけがない。とはいえ、そうでもしなければ皆が納得しなかったし、テイト公爵家を潰すわけにはいかないからその茶番をれた。仮にも公爵家の廃嫡がどれほど重いことか、それはワグノリス王國の貴族たちも分かっている」

ああ、そうなったのですね。ヒューバート、哀れな人。しい顔と貴族であることしか取り柄のない高慢な彼は、自分の父に見捨てられて生きていくことなどできないでしょう。その茶番の中で、ピエロとなって、死ぬまで踴らされるだけです。

「さて、ここで俺は、ワグノリス王國を滅ぼすことも、事故の責任を取らせることもできる。皇帝に再度會ってからだが、その措置の同意も得られるだろう。生かすも殺すもこの手次第、というわけだ」

アレクは自分の手を見つめます。その手は、殘酷なようですが、人の命脈を握っているのです。

「だから私に、意見を求めるということですか」

「俺はお前の復讐心を醜いと言うつもりはない。お前は、けじめをつけなければならない。そうでなければ、未來に進めないだろう。すべてと決別する、その方法は皆が一様に同じというわけではない。徹底的に破壊しなければならない者もいれば、許すことを選ぶ者もいる。どちらでもいい、俺はお前の意思を尊重する。お前のために、俺はこの手を汚すことだってためらわない」

お前が決めるんだ。

未來へ進むために。

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