《【書籍化】語完結後の世界線で「やっぱり君を聖にする」と神様から告げられた悪役令嬢の華麗なる大逆転劇》復讐の契機

その日イリスは、聖として初めて公の場に姿を現した。

毎年行われる収穫祭にて、去年まで祭司を務めていたミーナに代わり、今年は真の聖となったイリスがお目見えを兼ねて祭司を務めることになったのだ。

神殿の祭壇にて執り行われる儀式を一目見ようと、多くの國民が押し寄せていた。

注目の中、登場したイリスは正真正銘のルビー眼を煌めかせ、一時は悪として斷罪されたことなどじさせないような、優雅さと気品に溢れた姿を観衆の前に披した。

イリスの凜とした姿とルビー眼は間違いなく人々の目に焼き付いて稱賛を得たが、イリスの他にもう一つだけ、人々の目を奪ったものがあった。

「聖様の手を引いてらっしゃる貴公子はどなた?」

「あのしいお方はどの家門の令息かしら?」

「聖様と並ぶ姿が一枚の絵畫のように素敵だわ!」

イリスが自分の付き添い役に選び、聖をエスコートして登場したメフィストの貌に、見していた令嬢達の間から黃い聲が上がる。

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去年まで、聖だったミーナの付き添い役をしていたのは皇太子エドガーだった。だから誰もが、今日の付き添い役もエドガーであると思っていた。そんな中で、突然現れた貌の貴公子に注目が集まるのは當然のことだった。

実際に、儀式の打ち合わせの中で大神は何度もイリスにエドガーの付き添い役を打診していた。しかし、そんな大神の言葉をイリスは一刀両斷した。

「私のパートナーを私が選んで、何が問題なのですか?」

結果としてメフィストを伴い完璧に儀式を済ませた真の聖イリスの姿は、し過ぎる付き添い役と相まり人々に強烈な印象を與えた。それはもう、參列していた皇帝が顔を歪ませる程、イリスとイリスの付き添い役メフィストは人気を集め、二人には果てしない注目と稱賛が注がれていた。

しかし、イリスの聖としてのお披目はそれだけでは終わらなかった。

として覚醒したばかりのイリスは、とてもそうとは思わせない程の強い力を解放して雨を呼び、病や怪我に苦しむ人々に聖力での治療を施したのだ。

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「聖様! ありがとうございます」

「どういたしまして」

それは平民から貴族まで。列を作る者達一人一人に、イリスは聖の力を與え、聖の微笑を浮かべた。

「イリス様! ご無沙汰しております」

そんな時、順番が回ってきた男が子供の手を引きながらイリスの前に來る。

「ご無沙汰しております、伯爵」

イリスの父、タランチュラン公爵とも流のあった伯爵が、イリスに問い掛ける。

「まさかイリス様とこのように再會できるとは。イリス様、失禮でなければ……そちらの、本日の付き添い役であらせられる貴公子はどなたか、お聞きしても宜しいでしょうか?」

「ああ、こちらはサタンフォード大公國の大公子、メフィスト殿下です」

周りにも聞こえるように言ったイリスの言葉に、周囲から騒めきが起きた。紹介をけたメフィストが、優な禮をする。

「サ、サタンフォード大公國の大公子が、何故この國に?」

驚愕する伯爵に向けて、イリスは聖の微笑でスラスラと答えた。

「彼は現在、私の友人として皇宮に滯在されてるのですわ。とても良いお付き合いをさせて頂いておりますの。そうですわよね、皇帝陛下?」

同意を求められた皇帝は、まさか隣國の大公子であるメフィストを牢獄にれていたなどと言えるはずもなく。イリスの言葉に頷くより他になかった。

「……うむ。聖の客人である」

不服そうな空気をしだけ醸しながらも頷いた皇帝を見て、伯爵は訳知り顔で聲を落とした。

程。エドガー殿下は偽者と婚姻したままと聞きました。何やら事がおありのようですな」

この言葉に想笑いだけで返したイリスに、伯爵は更に聲を落として問い掛けた。

「それで娘の治療費は、おいくらを用意すれば宜しいでしょうか? ミーナ様や大神猊下にお納めしていた額では足りませんか?」

これにはイリスも驚愕する。まさか聖だったミーナは、患者から治療費を巻き上げていたのだろうか。そこに大神まで絡んでいた……? どういうことかと困するイリスを見て何を思ったのか、伯爵は更に聲を潛める。

「他に取引があれば、いつものように侍従長を通して頂ければ応じます。ですからどうか、娘をお願い致します」

「……伯爵、私は見返りを求めたり致しませんわ。娘さんは無償で治療致します」

驚く伯爵を他所に、イリスは息がちだという伯爵の娘に聖力を施した。激する伯爵を見送りながら、イリスはメフィストとそっと目を合わせる。伯爵の他にも、貴族が數名イリスの元にやって來たが、高位貴族であればある程、治療の対価を気にして聞いてきた。

何か、まだイリス達の知らないミーナと大神や侍従長の繋がりがあるのだろうか。どこまでも強なミーナに、イリスは心底ウンザリした。

しかし、それだけではなく、他にも困った事態が起きた。

「ミーナ様は、私のママを治してくれたの! だからお願い、ミーナ様を悪者にしないでっ!」

小さな一人のの子が、イリスを前に泣きながらび聲を上げたのだ。

「何をしておる! 聖様をお護りし、背神者を連れ出せ!」

いち早く反応した大神が怒鳴る中、イリスは絶好のチャンスとばかりにその子の手を取った。

「あなたの言っていることは分かるわ。ミーナが聖としてあなたのお母様のような人々を救ったのは、事実ですもの」

「イリス様!? 何を……」

イリスのこの行に困した大神を無視して、イリスは皇帝を見た。

「皇帝陛下、この場をお借りして申し上げます。実は……皇后陛下の毒殺について、新たな証言がございます」

大勢のいる公の場での聖からの奏上に、皇帝は狼狽えつつもなんとか裁を保った。

「それは、……如何なる証言だ? 申してみよ」

「はい。皇后陛下の毒殺は、侍従長の主導のもと行われたとミーナが証言致しました」

「なっ!?」

イリスの発言に、その場に居た誰もが驚愕し、あっという間に騒めきが広がっていった。

「何を言う、イリスよ! あんな偽者の証言を信じる気か!? 出鱈目に決まっておる!」

怒鳴る皇帝へ、イリスは心痛な面持ちで嘆願した。

「私は、無実を主張する私の聲が誰にも屆かなかったあの日のことを忘れません。例えミーナが信用に足らぬ行いをしたとしても、この件については改めて調査を行うべきです」

「うっ……」

民衆の手前、下手に言い返すことのできない皇帝が言葉を詰まらせる。ここぞとばかりにイリスは畳み掛けた。

「……確かにミーナは、皇后陛下を毒殺し、私に罪を被せるという罪を犯しました。ですが、ここにいる皆さんのように、彼に助けられた人々もまた、多くいることでしょう。更には、皇后陛下の毒殺を侍従長から強要された……となれば、狀酌量の余地はあります。その罪は決して消えませんが、これまでのことを顧みて今一度の再調査とミーナの処遇に関する再考をお願い致します」

「聖様はなんて素晴らしいお方なの!」

「自分を貶めた奴の話を聞くだなんて、本當に心の清い人だ!」

「偽者を庇うなんて、慈悲深いわ!」

イリスの言葉に反応した民衆は、一様にイリスの行を褒め稱えた。大きくなっていくその聲を、皇帝も無視はできない。

「くっ……!」

結果として、皇后毒殺の件は再調査が行われることとなり、偽聖ミーナの刑は保留にされた。そして自分をげた偽者の為に嘆願したイリスの慈悲深さと勇気に、人々は彼こそ真の聖であるとし、イリスへの信仰が高まっていった。

そうして聖であるイリスが主導となり行われた再調査の結果、侍従長の部屋の隠し戸から皇后毒殺に使用された毒の瓶と、侍従長が日常的に橫領していたことを示す裏帳簿が発見されたのだった。

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