《【書籍化】語完結後の世界線で「やっぱり君を聖にする」と神様から告げられた悪役令嬢の華麗なる大逆転劇》反逆の真相

翌日、改めて宰相の元を訪れたイリスとメフィストは、既に執務を再開し山のような書類を処理している宰相から、タランチュラン公爵の反逆の件について話を聞いていた。

「そもそも、アーノルドが……あの聡明な男が、反逆を企てようなどと。そこからおかしいではないか。忠臣として名高いタランチュランは、陛下を諌める時に剣を持つことなどはせぬ。言葉を盡くし、心を賭して主君を諌めるのだ」

悔しげな宰相に、イリスは同意しつつも當時の父の様子を思い出しながら俯いた。

「ですが、父が確かに自ら反逆を企てたのは事実です。私はこの目でハッキリと謀反の計畫を立てる父を見ました。それどころか……今思えばあの頃の父はとにかく冷靜さを欠いていて、止めようとした私達家族にさえも攻撃的な態度を取っていました」

「……アーノルドの様子がおかしくなったのは、いつからだった?」

「皇室から私とエドガーの婚約破棄の打診があった頃からです。あまりにも一方的な言い分でしたので、父だけでなく家族全員が憤慨しておりました。……でも、確かにいつもの父でしたら、憤る前に言葉を盡くして陛下を説得したはずです」

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顔を歪めるイリスを見て、宰相は気遣うように問い掛けた。

「當時を思い出すのは辛くないか? そなたは監されていたと聞いたが?」

「……はい。今までは辛いからとあまり思い出さないようにしてきました。ですが、やはり変ですわ。あの冷靜な父が、どうしてあんなことをしでかしたのか。お母様も最後まで嘆いていた。……教えて下さい。父に、いったい何があったんでしょうか」

それを聞いた宰相は、ルビー眼を得て新たな聖となったイリスの姿を改めて見た。凜とした気品はそのままに、今のイリスには芯の通った強さと自信が見て取れた。そしてその隣には、靜かに話を聞きつつイリスの手を握るメフィストがいる。宰相は一つ頷くと、棚の奧から何かを取り出した。

「どこまでを話すべきか、悩んでいたが。そなたは聡明であり強い。そして支えとなる者もいる。私が調べた全てと、考察を話そう。……これは、崩壊した公爵邸の焼け跡から見付けたものだ。奇跡的に中が殘っていた。見覚えはあるか?」

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見慣れたワインボトルに、イリスはすかさず答える。

「父の好きだった銘柄です」

「うむ。アーノルドが好んで飲んでいたのを、私も覚えている。しかし調べた結果、このワインの中には……幻覚剤が仕込んであった」

「…………っ!」

息を呑んだイリスへと、宰相は後悔を滲ませた眼差しを向けた。

「恐らくアーノルドは……タランチュラン公爵は、嵌められたのだ。幻覚剤によって的になり正常な判斷がつかない中で皇室に対する不信を煽られ、正気を失い、訳も分からず反逆を発された。そして、その剣の切っ先が皇室に向いた途端……捕らえられ殺されてしまった」

「そんな……」

イリスは震える手でメフィストの手を握り直した。メフィストもまた、応えるようにイリスの手を強く握る。

「だがな、イリスよ。これだけではないのだ。アーノルドが反を起こしたと言うのは、もしかしたら皇室側の造であったかも知れぬのだ」

「! それは、どういうことですか? 父は……お父様は、反を起こしていないと……?」

「兵を集めていたのは事実だ。無論それだけでも罪だが、しかし。アーノルドが本気で攻め込もうと思えば、今の脆弱な皇室など敵ではなかろう。それをほぼ無傷だったとあれば、アーノルドが直前で思い直し、剣を収めていた可能が高い」

「……イリス……」

思いもよらなかった話に気が遠くなったイリスを引き戻してくれたのは、メフィストの聲だった。

「……では、それでは何故、私の家族は……お父様だけでなくお母様や弟まで……私があの時、呑気にも眠り付いていたばかりに……」

メフィストにを寄せながら、イリスが聲を震わせた。

「今はまだ、調査を進めている中で見えてきた仮説にすぎぬ。だが、タランチュランは逆賊の汚名を著せられただけの可能がある。また、そなたが五日間も皇宮で眠りに付いていたことも尋常ではない。何かしらの皇室の介があったと考えざるを得ん」

信じられないような話にイリスは絶句した。

「更に……昨夜柄を拘束したエドガー殿下だが。殿下がいくら野と言えど、あのお方があのような蠻行に及ぶとは考えられない。何せ優不斷な方だ。殿下にそのような度があったのなら、最初からこのようなことにはなっておらんからな」

「宰相、それはつまり……」

イリスを気遣いながら視線で問い掛けるメフィストに、宰相は聲を潛めた。

「うむ。詳しくは調査中ですが……恐らくエドガー殿下にも、幻覚剤が投與されたのでしょうな」

と、そこへノックが響き、宰相の部下が相を変えてって來た。

「宰相閣下、急ぎの報告でございます。宜しいでしょうか」

「申せ」

次に発せられた部下の言葉に、宰相だけでなくイリスとメフィストも驚愕した。

「地下の牢獄より、処刑を控えた侍従長が亡くなっている……と報告がありました」

イリスとメフィストが宰相の元を訪れた時から遡り、夜明け間近のこと。皇帝と大神は、地下の牢獄に來ていた。

薄暗くった、カビ臭い牢獄の奧には、窶れた様子の侍従長が囚われていた。

「陛下! 來て下さると信じておりました!」

格子に張り付き、皇帝に手をばす侍従長は既に処刑の決まった。皇帝は侍従長を救う気など程もなかった。

「そなたは長年私に盡くしてくれたな」

皇帝が微笑めば、侍従長は顔を明るくして何度も頷いた。

「はっ。有り難きお言葉にございます。仰る通り私はこの人生を陛下の為に捧げて參りました」

聲を弾ませ、目の前の皇帝が自分を助けてくれると信じて疑わない侍従長は、皇帝に近寄ろうと格子のすぐ側まで來た。そんな侍従長に、皇帝もまた一歩近寄る。

「侍従長よ。そなたに言うことがある。……実は、皇宮に宰相が戻った。そなたの犯した悪事の數々について、直に全てが見しよう」

「……!?」

ずぶり。と、嫌な音を耳にした侍従長は、己の腹を見た。そこからは短剣が飛び出していて、ドクドクとが流れ、焼けるような痛みが侍従長の思考を奪う。

「へ、陛下……何故っ」

「萬が一にでも、そなたから全てが見すれば私の立場が危うくなる。処刑の前にそなたがうっかり私のことを白狀しないとも限らないであろう? 聖と宰相が手を組んだ今、私も必死なのだ。潔く罪を被り死んでくれ」

「……グハッ」

倒れた侍従長を見據えた皇帝は、汚れを落とすように手を叩いて踵を返した。

「大神、後始末は任せたぞ」

何事もなかったかのように牢獄を後にした皇帝を見送って、大神は檻越しにを流す侍従長の側に跪いた。

「……これでしは楽に逝けるはずだ」

懐から出した小瓶を侍従長に渡そうとした大神の手首を、に濡れた侍従長の手が摑む。

「大神よ、貴様が……私のように、ならないっ、保証……はあると、思うか?」

その言葉に、大神がギクリと固まった。

「陛下は……何の、躊躇いも、なくっ……貴様をも、切り捨てるであろうっ!」

大神の怯えた顔を見て満足したのか、侍従長はその手から小瓶を奪い取り、最後の力を振り絞って一気に瓶の中を仰ぐ。苦悶に歪んだ顔は徐々に穏やかになり、やがて溜まりの中で侍従長は息を引き取った。

その様子を凝視していた大神は、ただただ茫然と放心し、冷たくなっていく盟友を見続けていたのだった。

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