《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》初めてのダンジョン。初めての——

「…………それじゃあ、行くわ」

そして一時間ほどバスに乗っていると目的の場所へとついた俺たちは、ゲートの前に建っていた管理所で手続きをし、目的のゲートの前に立っていた。

「りょーかい」

「は、はいっ」

「了解」

そうして達學生メンバーは初めての、俺は何度目になるかわからないが、とりあえず今日二回目のダンジョンへと潛って行った。

「ここがダンジョン……」

「……思ってたよりも普通ね。まあ、普通の窟も見たことなんてないけど」

「く、暗いですね……」

ゲートをこえてダンジョンの中へとると、そこは先ほどまでいた空間とはまるっきり別へと変わっていた。

空気はジメッとしており、周りを囲われているから音が響く。そして何よりも、暗い。俺が予め持っていたライトがなかったら真っ暗で何も見えなかっただろう。

ダンジョンとは、ダンジョンにる前から覚悟を決めて準備をしなくてはならないのだが、この辺りの対処がまだまだなのは、初心者ゆえに仕方がないってところだな。

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「柚子、燈りをお願いね」

「う、うん」

後衛である地味系の北原に燈りを任せると、宮野は一瞬俺の方を向いてから再び前を向いた。

「……行くわ。気をつけてね」

初心者とは言えここが既に敵地だと言うことは理解しているのか、それとも張からうまく話せないのかはわからないが、宮野はそれまでとは違って聲を小さくしてそう言うと、進み出した。

「っ! いたっ!」

そうしててきを警戒しながらゆっくりとした足取りで數分進んでいると、先頭を進んでいた宮野が小さいながらも驚きの聲を上げた。

おそらくは敵——ゴブリンを見つけたのだろう。

「どうする?」

「じゃあ——あ。……えっと、伊上さんはどうしますか?」

「ん? ああ、俺は待ってるよ。元々數合わせだし、そっちのきを見てからじゃないと何もできない。どう合わせればいいのかわからないからな。まあ、適當にそっちに合わせて參加するから、好きにいてくれ」

「わかりました。——じゃあ、予定通り私が引き付けて佳奈が倒して、柚子は警戒でいきましょう」

宮野の言葉に殘りの二人は黙ってうなずくと、張した様子でそれぞれの武を構えた。

そして、宮野がハンドサインで合図を出すと、それに合わせて前衛の二人——宮野と淺田が走り出した。

「さて、お手並み拝見ってか」

俺がそう呟いている間にも二人はゴブリンへと接近し、既に剣が屆く距離まで近づいていた。ゴブリン側からすれば突然現れたようにじたことだろう。

暗い中でもあれだけの速さでけるのはさすが一級と特級ってじだな。

能力は俺みたいな三級とは比べにならないか。

とは言っても俺の適は魔法系なので、前衛と比べるのは間違っている。だがそれを抜きにして、もし俺が前衛だったとしても、あれだけのきはできないだろうな。

そもそも俺はここからゴブリンの姿が見えない。いること自はわかるのだが、直接見ることはできないのだ。

二人が見えているのは夜目が効くからだろうが、そういったところでも能の差がはっきりとわかる。

これが階級の差、才能の差って奴だ。まったく持って羨ましい。俺も特級とは言わないが、一級の才能があればもうしまともに冒険者をやっていたかもしれない。

やっぱり才能なんてもんはクソだな。

そうこうしているに二人はゴブリンの集団を倒した……殺したようで、こっちに合図を出してきた。

今のところは順調か。

まあ、問題があるのはここからだが……さて、どうなるかな? できることならなんの問題もなく終わってしいんだが……。

「余裕だったわね」

「これくらいならどうってことないって。あんなおっさんが出てくるまでもないでしょ」

初の戦闘を終えて気が緩んだのか、前衛二人は聲を潛めることなく話していた。

「ふ、二人ともお疲れ、さま。怪我とかは──ひっ」

そんな二人に俺と北原は近づいていったのだが、二人の姿がはっきりと見える段階になるとそれまで宮野と淺田を気づかっていた北原が小さく悲鳴を上げた。

「柚子? どうしたの?」

「あ、ああ……それ……」

そして北原は二人へと震える指をさしながら數歩ほどよたよたとおぼつかない足取りで下がると、どさりと地面に座り込んでしまった。

二人は咄嗟に後ろを振り向くが、そこには何も〝いない〟。

だが、何も〝ない〟わけじゃあない。

しかしそのことに宮野と淺田の前衛二人は気づけないでいる。

それ故に、二人は北原が何を見てこんな風になってしまったのかも分からない。

そんな三人を見て俺は、やっぱりか、と思いながらため息を吐き出す。

すると二人は俺のことを見たが、俺はそんな二人に構わずにライトを持って前へと進んでいく。

「だから言っただろ。ゴブリンは『人型』をしてるって。戦ってる時は良くても、こうして落ち著いてあかりで照らしてしまえば人の死と変わらない。お前らは人を殺したことがあるのかって話だ」

「人を、殺す……?」

「そうだ。ゴブリンはモンスターに分類されるが……まあこれも言ったと思うが子供程度の知能はある。子供であっても知能があり、生きである以上は、親がいて、兄弟がいて、子供がいて、仲間がいて、生活してるんだ。お前達はそれを殺した。それは人を殺すのとなんら変わらない」

そして持っていたライトで、先ほど宮野と淺田が殺したゴブリンの死を照らした。

「……ぅあ——」

俺の言った言葉の意味を理解したのだろう。宮野はライトで照らされたゴブリンの死を見てを固まらせ、その場に蹲み込んで吐き出してしまった。

そしてそれは宮野だけではなく、後ろで地面に座り込んでいた北原も同じだった。

その景を見て、俺はもう一度ため息を吐き出したが……まあ、やっぱりこうなったか。

「あ、あんた、何のつもりよ! そんなにあたしたちと行するのが嫌なの!? こんな風に追い詰めて楽しい!?」

そんなため息を吐き出した俺の態度と先ほどの言葉が気に食わなかったのか、淺田は自も顔を悪そうにしていたにもかかわらず、俺のぐらを摑んで大きな聲でんだ。

それは仲間を思っての行なのだろうが、もしかしたらその行為は俺へと怒りを向けることで気分の悪さを誤魔化すためのものなのかもしれないな。まあ、どっちでもいいことだが。

「馬鹿言え。どれほど不本意でも、一度けた以上は仕事はきっちり果たすさ」

「なら何であんな——」

「それが必要なことだからだよ」

そう。これは必要なことだ。

側から見れば単なる悪意をぶつけているようにしか見えないかもしれない。だが、これは今後この達が冒険者としてやっていくのに必要なことなのだ。

「このダンジョンは小鬼の。つまりはゴブリンの巣だ。出てくるのも當然ゴブリンで、その戦闘中にこんな狀態になってみろ——死ぬぞ」

いちいち敵を殺すたびに吐いているようじゃあ話にならない。そんな狀態でダンジョンに來ようものなら、自分だけじゃなくて仲間を巻き込んで死ぬことになる。

「辛いのはわかってるさ。だが、最初に自覚しておいてもらわないと、ここにいる全員が死ぬんだよ。だから最初は無理やりにでも自覚させる必要がある。お前達は『生きを殺したんだ』ってな」

俺の言葉が納得できるものだったからか、俺に摑みかかっている淺田は俺を睨みながらもその手にこめていた力を緩めていた。

「本來なら人型じゃなくてもっと違うところから始めるべきだったんだが……やっぱり止めるべきだったな」

俺はこの子達と深く関わるつもりなんてない。——が、だからと言っての子が泣いたり吐いたりする姿を積極的に見たいってわけでもない。

むしろ、どちらかと言うと見たくない。見ればこっちも嫌な気分になるのは分かってるんだから。

ダンジョンにる前に不安に思ったんだから聞いておけばよかった。あの時はあの判斷が正しいと思ったのだが、今更になってからそう思った。

……にしても、これからどうすっかなぁ。

さっきの大聲を聞いてた奴はいるだろうし、そいつらはまず間違いなくここに來る。

だが、今の狀態のこの子達じゃあまともに戦うことはできないだろう。

……仕方がない。ここは一度退がるしかないか。

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