《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》夏休みの予定
「文句ない」
俺の問いかけに、なぜか安部が返事をした。
こういう時に自分から進んで賛同するのは彼の格らしくないと思ったのだが、どういうつもりだ?
だがまあ、賛してくれるんだったら問題ないか。
「そうか。なら──」
「ただし、條件がある」
「……お前もかよ」
「私にあれを教えて」
「あれ?」
「今やってた魔力の粒を出すやつ」
「あ? ……やっぱりあれが見えてたのか?」
「ん。薄っすらキラキラしてた」
「本來ならあそこまで薄くした魔力ってのは見えないはずなんだが……やっぱり才能かね」
前衛の者は『見る』ってよりは『じる』って程度みたいだが、後衛の者は魔力を見ることができる。だがそれもある程度の制限がある。
上は限りはないのだが、『自分よりし下』以下の魔力量の相手だと、魔力を持っていることは分かってもどの程度持っているのかわからないらしい。
まあ俺はそんな経験はないので実際にはどんなじかその覚はわからない。だって俺、三級のクソ雑魚だし。大抵のやつが俺より魔力を持っているからな。
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魔力は同程度の強さ以上のもの同士でないと相手の魔力をじることができない。
そのこと自は學校でも教えることだが、それを真に理解しているものはない。
まあ実際、自分よりも弱い魔力の反応なんて見たところで意味ないからな。そんな自分に劣るカスみたいな魔力でやったことなんて、常に警戒していればなんの問題もなくくぐり抜けられる。
ただし、『常に警戒していれば』だけどな。
まあそれはともかくとして、普通はじることも見ることもできない格下の魔力を見ることができたと言うのは、才能と言えるだろう。
魔力をじ取る才能。それは魔法使いにとって重要なもので、安倍晴華というが將來大する約束手形であるとさえ言えるほどのものだ。
「まあ、構わないぞ」
こいつらが強くなることで俺にメリットがあるんだし、技を教えることに否はない。
咄嗟の襲撃を防ぐことができるってのは、能力が前衛よりも劣る魔法使いにとっては重要なことだからな
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まあ、誰も彼も教えるってわけにはいかないが、仲間に教えるくらいで目くじらを立てるほどではない。どうせあと三ヶ月もすれば俺は冒険者を止めるわけだし、戦い方がバレたところでどうでもいい。
それに、なんだ。……後輩に教えるってのも、悪くはない気がする。
「ありがとうございます」
それまでの態度とは違って禮儀正しくお辭儀をした安部を見て、俺はわずかに目を見開いた。
だが、すぐにフッと笑うと、「おう」とだけ返した。
「で、お前はどうだ? 認めてくれんのか?」
そして、今度は淺田へと顔を向けて問いかけた。
「……る」
「え?」
「認めるって言ってんの!」
「お、おう。ありが──」
「だって仕方ないじゃない! だってこんな結果を出されたら認めないわけにはいかないでしょ!? あたしだって前回あんたの戦いを見た時からわかってんのよ!」
「そ、そうか……」
「そうよ! でも、三級のあんたを認めたら、今まで一級だからって調子に乗ってた自分が恥ずかしいじゃない! だから、だからあたしはっ──!」
若干涙目になってんでいる淺田だが、それはそうしようと思っての行ではなく、が止められないが故の行だろう。でなければこいつがこんなことを言うとは思えない。
とりあえず、フォローしておいた方がいいか? ……いいよな。
「お、あー……なんだ。確かに俺は三級だが、そんな俺でもお前が認める程度には強くなれたんだ。だったら一級の才があるお前ならもっと上にいけるだろ?」
「うっさい! そんなの言われなくてもわかってるのよ!」
だが、慣れないながらもかけたフォローの言葉は効果があったとは思えなかった。
「み、見てなさい! あたしはあんたよりも強くなってやるんだから!」
「ああ。きっとお前ならできるよ」
それは本心からの言葉だ。
自の未さを知り、認めることができる奴はびる。こいつは、今後長していくだろう。その時に俺はそばに居ないだろうが、多分テレビかなんかで活躍を見ることはできるだろう。その時がし楽しみではある。
──◆◇◆◇──
「それじゃあこれからの予定を話さない?」
「あ、うん。そうだね」
「方針とかは決まってるのか?」
淺田は先ほど涙目でんだのが恥ずかしいからか、俺とは目を合わせようとしないがそれでも誰も気にすることなく話は進んでいく。
「はい。一応後二週間程で夏休みにるので、その間にダンジョンに潛って鍛えようかと思っています」
夏休みかぁー。まあ學生といえば定番だよな。夏休みと、それを臺無しにする課題。
懐かしいな……ああ、懐かしいと言ってもこの學校の休みではない。ここでは俺たち短期學生に休みなんてなかったからな。
だから思い出すのは俺がガキの時の普通に學生やってた時のことだが、今思うともうしいろんなことをやっとけばよかったなとは思う。
もし今の記憶を引き継いで過去に戻れるんだとしたら、次はいろんなことをやりたいな。あの時は課題とかクソじゃん、なんて思ってたが、今なら夏休みの課題だって楽しんでやれると思う。
ま、こんな世界になったって言っても、時間移なんてできないから夢語だけどな。
「夏休みか。何か課題とかあったりするか? どこのダンジョンに潛ってレポート、とか」
「はい。一応それもありますが、できることならばそれ以外にも、ですね」
「それ以外にも、ね。だが、まずは課題からこなしていかないとだな。先ばっかり見てると足元を掬われるぞ」
「わかってます。そこで伊上さんにお聞きしたいのですが……えっと、この中で私たちにおすすめのダンジョンなどはありますか?」
宮野はそう言いながらポケットにっていたスマホを取り出して畫面を作すると、それを俺に向けて見せた。
そこにはいくつかのダンジョンの名前が記載されており、それは夏休み中の課題として出されたダンジョンなのだろう。
「おすすめ? ……そうだなぁ。一応『小鬼の』は初心者におすすめというか、初心者の壁を越えるための場所って意味では行ったほうがいいところだけど、あそこはもう行ったからな……まあ、まだ慣れたとは言えないし、何度か通った方がいいではあるか」
人型の生きを殺すという経験は、普通の高校生には重いものだが、冒険者としてやっていくのであればかなり重要になってくる。
以前にも言ったが、戦闘中に敵を殺したからって怯むわけにはいかないからな。
ただ、それは最低限にしておくべきだろう。顔をしかめても構わないが、ひとまず吐かない程度になってくれれば構わない。
何せこの子達は多な年頃だ。ある程度慣れる必要はあるが必要以上に〝慣れすぎる〟必要はないだろう。
「やっぱり、そうですか」
「ああ。そっちの安倍はこの前は行ってないしな。ただ、やっぱり最初は人型じゃないやつからならして行った方がいいと思う」
「的には?」
「……候補は二つ。一つは『鼠の巣』だな」
「そんなダンジョンがあんの?」
話の中に先ほどまで黙っていた淺田が混ざってきたが、俺はチラリと視線を向けるだけで何も言わずに普通に話を進める。
「ある。窟型の場所で、出てくるのは拳二個分程度の大きさの鼠だ。それくらいなら生きを殺すことになれるだろ……まあ、問題がないわけでもないがな」
「その問題とは、どんなものでしょう?」
「敵が小さい」
あそこのには俺も行ったことがあるが、技がない奴が行くと大変なんだよな。
覚醒したとはいえ、なんの武蕓も習っていなかった初心者が、床を這うように走り回る何十という敵を倒すことができるのかと言われれば、難しいと言わざるを得ない。
だからあそこは魔法使いがメイン戦力となるか、道を使うかのどっちかが正しい、というか一般的な攻略法だ。
まあ、前回のダンジョンでの戦いを見た限りだと、こいつらならなんとかなりそうなじもするけどな。
「技があるやつ、範囲技を持ってるやつなら楽な場所だが、素人だとまず當たらない」
「ならもう一つは?」
「『兎の園』」
「……ねえ、名前からして嫌な予がするんだけど?」
「まあ、そうかもな。こっちはこっちでやりづらいだろうよ」
「敵は兎ですか?」
「ああ。〝見た目は〟な」
「……なるほど。ならそちらの問題とは、兎を殺せるかどうか、ですか」
「ああ。人間ほどじゃないが、見た目的に殺しづらいだろ? 特に子には不人気だ」
とはいえ、こちらは初見の時だけで、一度敵と戦えばそれ以降は割と普通に戦えるようになる。
「他にも候補はあるが……そうだなぁ。『人形の砦』なんかは倒しやすさでいったら倒しやすいかもな」
「出てくるのはやっぱり人形でいいの?」
「ああ。人間だけじゃなくてのもな。人形なら戦いやすいだろ。生きの形をしてても所詮は人形だし。……ただし、他のところに比べると強い」
命がないから殺すことを意識しないで戦いになれることができるだろう。
だが命がないからこそ敵は無茶無謀な特攻を仕掛けてくるし、倒しきりづらい。
なのでこれも初心者用とは言い難いかもしれない。実力があれば別だが。
「今の三つの中からだと、『兎の園』がいいのかしら?」
「そうだな。生きを殺すってことになれることができるし、敵の見た目でわされないようにすることもできる。他にも々と學べる場所だ」
「兎だけ?」
ごく短い言葉で安部が問いかけてきたが、これは出てくる敵の種類を聞いてるんでいいんだよな?
「出てくる敵か?」
「そう」
「ああ。一応兎だけだな」
「一応?」
「ああ。その理由は……いや、これ以上はお前達自で確認した方がいいだろう」
あれば実際に報で確認するよりも、自分たちで見た方がいい。むしろ、先に報だけで知った気になると危険かも知れない。
……ああそうだ。せっかくだし、どうせなら前報なしでやらせるか。こいつらならなんの報なくても死ぬことはないはずだし。
「それと、このダンジョンに潛る時は報は集めない方がいい」
「なんでですか? 普通はある程度の報を集めるものですよね?」
宮野の問いは當然の疑問だ。普通ダンジョンにる際はそのダンジョンの報をある程度調べるものだからな。
「まあそうなんだがな、ここは簡単だ。二級・三級だとちっと危ないが、お前らなら警戒してればそれほど危険じゃない。これから先、お前達はいろんなダンジョンに行くことになるだろうが、その中には報のない全く未知のダンジョンもあるだろう。突発的に発生した新しいダンジョンとかな。その時に報がないかられません、じゃあやっていけない」
「あの、えっと、つまり、予行練習、ということですか?」
「簡単にいえばそうだな。まあ、予行演習ってより、予習、の方が近いかも知れんが」
北原の言葉に頷いた俺の言葉に、チームメンバー達はそれぞれ顔を見合わせている。
だが、その視線は最終的にリーダーである宮野へと集まった。リーダーの判斷に任せるということなのだろう。
「わかりました。ではそうします」
そうして宮野が頷いたの確認すると、俺たちは次の話へと移った。
「——じゃあ次に集まるのは大二週間後ってことでいいか?」
「はい。後日改めて連絡しますけど、夏休みにった翌日にダンジョン前の管理所で待ち合わせでお願いします」
「わかった」
そして今日するべき話を全て終えると、そう約束して今日は解散となった。
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