《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》瑞樹:遭遇と勝負

「宮野さん、おはようございます」

だが、そんなふうに呟いた瑞樹に話しかける者がいたために、そんな思考はハッと切り替わり、瑞樹は話しかけてきた者へと意識を向けた。

「……天智さん? どうしてここに?」

「生徒會の活の一環として見回りをしているのですが、廊下で大きな聲が聞こえたものですから。あまりはしゃぎすぎないように、と。夏休みといえど、全員が帰省しているわけではないのですから」

「……そうね。々気が緩んでいたようです。ごめんなさい」

普段ならもう想のいい瑞樹だが、それ以上の話はなく、二人の會話はそこで途切れてしまった。

「……ところで、以前にもしたお話、もう一度考えてもらえたかしら?」

「あの話はけるつもりはないと、そう伝えたはずだったと思いますが?」

「ええ。ですがあなたの特級の才能はもっと上手く使うべきです。ですからもう一度考えて、と申し上げたのです。良い環境で鍛え、良い裝備を纏い、良い仲間と共にダンジョンを攻略する。それがこの國のため。そして、あなた自のためになるとは思いませんか?」

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それがこの、天智飛鳥の持ちかけた話だ。つまるところ、チームを移籍しろと、そういうことだった。

瑞樹はそれを斷っているのだが、それでも今に至るまで何度もわれていた。

確かにその考え方自は瑞樹にも分かっている。単獨でゲートを破壊できるような実力者になりうる特級がチームを組んで活したのなら、それはより安全に、より速く、より多くのダンジョンを潰すことができるのだと。

「……確かにそうかもしれませんね。私たちでは良い裝備なんて揃えられないもの」

「そうでしょう? ですから……」

「けれど、良い仲間と共にダンジョンを攻略するというのなら、私は今のメンバーたちのままでいいと……いえ、今のメンバーたちが最高だと思っているわ。だから、ごめんなさい。何度言われたとしても、私はこのチームを抜けてあなたのところへ行く気はないわ」

だがそれでも瑞樹はそれを『良し』とはしない。

天智飛鳥の考えを否定するつもりはないが、自分は今のチームこそが自分が最高のパフォーマンスを発揮できるチームだと思っているから。

「……最高? 今のチームが、ですか?」

「ええ」

「……安倍さんはいいとしましょう。彼々やる気がかけるものの、その力は一級の中でも抜けています。上手く使っていけるのなら、力だけなら特級にも引けを取りませんもの」

飛鳥はそこで言葉を止めると、軽くためいい気を吐き出してから緩く首を振って話を続けた。

「ですが、暴で突っ込むだけしか知らない前衛と、敵に怯えて後ろで誰を治すべきか迷っているだけの治癒師は、最高とは言わないでしょう? 正直なところ彼たちは足手纏いとなっているのではありませんか?」

「そんなことは──」

「加えて、最近は三級の外部協力者をメンバーにれたようですし、それが最高のチームだと、本気で言っているのですか?」

飛鳥はもう一度息を吐き出すと、仕方のない子供を見るような目で瑞樹を見た。

「わかりました。では、夏休みが明けるとランキング戦が行われますが、そこで勝負をしませんか?」

「……勝負?」

「ええそうです。私のチームがあなた方に勝てたのならば、あなたはこちらのチームにってください」

「……そんない、のったところでメリットがないじゃない。むしろ、負けたら罰則がある分デメリットしかないでしょ?」

「あら、最高のチーム、と言った割に自信がありませんの?」

「自信がどうこうじゃなくて、メリットがないって言っているのよ。無駄なリスクは避けるのは冒険者の基本でしょ?」

「……ならば、あなた方が勝ったのであれば、私の考え方が間違っていたとしてその後はあなたをうことはしないと約束しましょう」

「そんないなんて、これからも斷り続ければいいだけでしょ」

「……はぁ。けてもらえませんか。でしたら、それに加えてなんでも一つ、あなたの言う事を聞きましょう」

飛鳥は譲歩していると思っているが、瑞樹からすれば頼みを聞いてもらいたいなんて思っていないし、正直なところ彼のチームと爭えば負けると思っていた。なので何があっても斷ろうと考えていたのだが……

「これでもけていただけないようでしたら、不本意ながらお父様にお願いしなければなりませんね。あなたのチームメンバーの方々がどうなるか、どう思うかはわかりませんが、それでもよろしいのでしたら、どうぞご自由に」

「……っ」

「何も言わないと言うことは、了承した、とけ取ってよろしいのですね?」

よくはない。だが、飛鳥の父親が誰だか分かっているだけに、ここで下手に逆らえば自分だけではなくみんなに迷がかかってしまう可能がある。

故に、瑞樹は反論することができずに黙り込んでしまった。

「本當は私とて、このような手は使いたくはないのです。ですが、これも仕方のないこと。……ランキング戦、楽しみにしております」

瑞樹はその場を去っていく飛鳥の背を見ていることしかできなかった。

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