《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》壁を作る理由

ランキング戦當日の朝。俺は自分たちが戦う會場であるゲートの管理所にやってきた。

今日に至るまでやれることはやってきたつもりだし、策もいろいろと練ってきたから大丈夫だとは思うが……さて、どうなるかな。

「あ、おはようございます」

そんなことを考えながら歩いていると、管理所の正面り口からし離れた場所に宮野が壁に寄りかかっているのが見えたので、そちらに寄って行った。

「ああ、おはよう。他の奴らは?」

「控え室で待ってます。私はちょっと外の空気が吸いたくて」

「そうか。まあ張しすぎないようにな」

下手に言葉をわしたところで余計に張するだろう。この子は放っておけば勝手に覚悟を決めて本番に挑める子だ。

そう思って俺は宮野に背を向けて歩き出した。

「あのっ!」

「ん?」

だが、俺が足を踏み出した瞬間に背後の宮野から聲がかけられたので、足を止めてそちらに振り返った。

だが、宮野は俺が振り返っても何も言わず……いや、言えず、か? 何かを言おうとしているのだが、それを言ってもいいのか迷っているかのように何も言わない。

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それでも何か言いたいことがあるのは間違いないようで、俺は宮野が何か言い出すまで待っていることにした。

そして、ついに決心がついたのか、宮野は俺を見據えて口を開いた。

「……伊上さん。どうしてあなたは壁を作るんですか?」

その宮野の言葉に一瞬ドキリとするが、もともとこいつらには俺が距離を取っていることを気付かれていたんだ。何を今更と揺を消す。

しかしその理由は試合前である今言うようなことでもないだろう。むしろ最後まで言わないつもりだし、誤魔化そう。

「……壁? そんなの作ってなんか——」

そう思ったのだが、俺の言葉は途中で止まった。止めてしまった。

俺を見つめている宮野の瞳が、あまりにも真剣なものだったから。

……これで最後だし、いいか。

今日が終わってもあとしばらくは一緒にいるが、それでも今回のイベントが終わったら俺はこのチームを抜ける。

だったら、最後くらい教えてもいいだろう。

それに、ここで教えなかったらそのほうが集中を切らしそうなじもするし。

そう考えて、はぁ、と小さくため息を吐くと、俺はなぜ俺が距離をとっていたのかを話し始める。

「重荷になるからだよ」

「重荷?」

「そうだ。俺はもう直ぐ冒険者を辭めるが、俺が辭めた後も、俺に迷がかかるってなったらお前は自分から厄介ごとを背負うだろ? そんなのは短い間だが見てりゃあわかる」

こいつは勇者って呼ぶのにふさわしいくらいに優しいやつだ。

そしてそれはこいつだけじゃない。こいつの仲間、他のチームメンバー達もそうだ。

「だが、それは余分だ。冒険者なんてやってりゃあ人はすぐに死ぬ。そして、それは才能のあると判斷されたお前たちにも當てはまることだ。いつ死ぬかわからない狀況なのに、自分たち以外の者を気にしてたらそれは隙になる。世界中の人に助かってしいなんてことは願わねえが、せめて自分と関わった誰かには死んでしくねえ。お前らには、死んでしくねえんだよ」

死ぬ時は誰だって死ぬし、冒険者なんてやってればその確率も上がる。

冒険者なんて道を選んだ以上はそれを覚悟しているんだろうが、それでも俺は、俺の知り合いが死ぬのは嫌だった。

「それに、ダンジョンに潛ってて俺がどこかで死んだとしたら、お前らは、なくともお前は心を痛めるだろ? お前らは子供だ。そんな誰かの命なんて、背負う必要はねえんだよ。だから、俺みたいないつ死ぬかわかんねえ木っ端のことなんて気にしない方がいい。そのためには、できるだけ関わらない方がいいんだよ。関わらなきゃあ、俺が死んだとしても気にしなくて済むからな。どうせ三ヶ月だけだ。なら、できる限り親しくならない方が利口ってもんだろ?」

俺がそう言い切ると、その時には宮野の表は険しく顰められており、口元は不機嫌そうに歪んでいた。

「そんなの、意味ないわ」

「あ?」

そして、いつもとはし違った雰囲気でそうはっきりと言ってのけた。

「そんなの、もう意味がないって言ったのよ。関わらなければ気にしなくて済む? バカなこと言わないでちょうだい。もう十分に関わったでしょ。あなたが死んだら、私たちは悲しいのよ。変わんないの。今更関わりたくないとか言われたところで、関わらなかったところで、もうそれは変わらないのっ」

「……」

普段俺に話しかける口調とは違い、素の彼の言葉がのままに俺にぶつけられる。

俺はそんな宮野の言葉を聞き、だがを噛みながら何も言えずにいた。

「っ! ……すみません、生意気言いました」

「……いや」

そこで宮野ははたと自分の態度を思い出したのか謝ってきたが、俺にはそんな短い言葉しか返すことができなかった。

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