《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》戦いの前

宮野と話しをしたあと、俺たちは待合室へと向かい、時間になるまで待機することにした。

待合室にる時には、すでに宮野はいつも通りの笑顔で戻って行ったし、俺も表面上はいつも通りを取り繕っていた。

だが、その心はいつも通りとは言いがたい。そしておそらく、それは宮野も同じだろう。

「き、張してきた……あたし達、か、勝てるのかな……」

それでも時間は進んでいく。

これから時間になればゲートを潛ってダンジョンの中にる。そしてお互いに配置についてからゲームが始まるのだが、できるだけゲーム前の相手チームとの接は控えた方がいいので、管理所の個室で待機しているのだ。

そして俺たちの対戦相手はもちろんと言うべきか、俺たちが予想していた通り天智のチームと初戦で當たることになった。

いやまあ、予想通りってよりも、調査通りか? ……どっちでもいいか。どっちも間違いじゃないし、どうでもいいことだしな。

俺たちは夏休みが終わる一週間前……今日から大二週間ほど前に今回の戦いに挑むに當たって、いろんな備えをしてきた。

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も連攜も裝備も、全部それ以前の宮野達とは別になっている。

俺としてはここまでやって完璧に……は無理でも7割がた作戦が功すれば勝てると思っている。

だが、いかに自分たちが強くなったのだとしてもランク上は相手の方が格上で、さらにはこっちの切り札とも言える宮野と同じ特級が向こうにもいる。

書類上のスペックなら完全に相手の方が上位互換だ。

そのことを知っているからこそ、普段は強気な淺田も弱音を吐いているんだろう。

だが、問題ない。あまりやりたくはないが、無理そうならし強引にでも勝たせてやるから。

しかしまあ、このまま張した狀態ってのもよくないな……仕方ない。

「なんだなんだあ? いつもはイキってるくせに、ここぞって時には逃げんのかあ?」

「は、はあ!? に、逃げないし! ただ、ちょっと聞いただけじゃん。ほら、試合が始まる前にチームのメンバーと想いを一つにするみたいなあれ! あんなじで確認しただけだし!」

「想いを一つにねぇ……」

「あんたも教導なら気の利いたことの一つもないの?」

「んー、ならそうだなぁ……」

つってもなぁ……今回は教導として一緒にいるが、もともと誰かに教えるってのは得意じゃないし、言う事っつっても特にないんだよなぁ。

「できることはやった。後はお前たちが頑張るだけだ。お前たちならできる、とか?」

「……なんかそれ、どっかで聞いたことのある臺詞なんだけど」

「こんなのは大抵言うことは同じなんだからどっかしらで被んだろ」

文句を言ってるが、淺田はもう平気みたいだな。

他の奴らも俺と淺田のやりとりを見て、そこそこには張が解れてるみたいだ。

「真面目に言うなら、全力で敵をバカにしろってことだな。真面目に戦うな、裏をかけ。使えるもんなら親も友も知人も恩人もなんでも使え。卑怯に卑劣に騙していけ」

「……相変わらずだけど、教師の言うことじゃないでしょ」

「教導なんて名前がついてるが、俺は教師じゃないんでな」

「でも、伊上さんは今回の戦い、勝てると思いますか?」

「ああ」

「即答、ですか……」

「當たり前だろ? これまで勝つために用意してきたんだ。勝てる可能は十分にある。これで負けたら、そりゃあ俺の作戦じゃなくてお前たちがミスったってことだ。能力だけで言うならお前たちは十分に上位だしな」

俺がそう言うと、メンバーの目にはっきりと力がこもった。この様子なら多張くらいならどうとでもなるだろう。

「そんなわけで俺は先にゲートのほうに行っておくが、向こうで會っても聲をかけるなよ。ついでに俺を見るな。見る必要があるときはいやそうなじの顔で仕方なく、って雰囲気を出せ。それじゃあな」

そんな指示を出しながら俺は部屋を出る。これも作戦のうちだ。

だがまあ、あいつらにはあんなことを言ったが、命がかかってないって言っても結構張するもんだな。

相手のチームにそんな張を悟られてはならないので、俺は部屋を出るとゆっくりと深呼吸をした。

そしていざ行かんと一歩踏み出したところで、部屋の中からチームメンバー達の聲が聞こえた。

「……背中を押すならもっとわかりやすくやりなさいよ」

「あ、あはは……でも、伊上さんが私たちを認めてくれてるのは事実だよね」

「ん。負けられない」

「そうね。あんなすごい人が勝てるなんて言ってくれたんだから、勝たないとよね」

すごい人、ね………俺なんかより、お前らの方が十分にすごいと思うんだがな。

「……ねえみんな。私が原因でこんなことになっちゃって、ごめんなさい。けど、私はまだみんなと一緒にいたい。これからも一緒に冒険をしていきたい。だから、お願い。力を貸してください」

「そんなの、當たり前じゃん」

「今更」

「あ、あまり力になれないかもしれないけど、うん。頑張るから」

……さて、いくとしようか。張完全に解れたわけじゃないが……ああ、悪くない。

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