《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》——これで終わり

今俺が何をやったのかってーと、簡単にいえば膝カックンだ。

膝カックンなんていうと可らしいじがするが、実際にやられると狀況次第では特級であっても姿勢を崩す兇悪な技になる。

この距離からであっても魔法なんて使えば宮野には気づかれるし、僅かにタイミングがずれるから宮野には避けられるだろう。

だから魔法は使わなかった、というよりも、すでに使っていた。

先ほどの煙幕の時に、宮野たちには魔法を使って細工をしていた。今のがそうだ。

靴に張り付けた水をり、それを圧して膝の裏まで移させてタイミングを見計らって膝裏に向けて解放。

そうすれば一瞬だけではあるが、消防ポンプの放水くらいの威力は出る。

そして、この技には一瞬だけ威力があればいい。

宮野が予期せず勢を崩したのに対して、俺は宮野がそうなることを知っていた。何せ俺がやったわけだし。

だから特に慌てることもなく、むしろ予想通りの狀況になったことを喜び、そのまま宮野のを狙っていた剣を突き出した。

宮野は強引にを捻ってその剣を避けるが、完全に避け切ることはできずに首筋にそこそこ深い傷を作ってしまう。

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その瞬間、俺は宮野のために用意していたもう一つの魔法を使って、この戦いを終わらせるための準備をする。

これで一人。後は三人にも同じようなことをすればそれでおしまいだ。

と、そこで背後から接近していた淺田が俺へと毆りかかってきた。

想定していたよりも速いそのきに心で驚くが、それを表に出す暇もなく回避のためにもう一度弾を取り出し、自して距離を取る。

この方法は自分へのダメージがあるからあまりやりたくないんだが、それでも淺田の拳を喰らうよりはマシだ。

あんなの食らったら一発でダウンする自信がある。

「ッツ〜〜! いってえなくそっ! 怪我したらどうすんだ!」

「そんときは病院のベッドで二十四時間つきっきりで看護したげるから、大人しくぶっ倒れときなさいよ!」

「なんなら鎖付きで逃げられないようにしてあげるわ。そうしたら、もうこんなバカなことをしようとは思わないでしょ?」

鎖付きでベッドってそれは些か猟奇的なじがしないか? まあ、そんなことになるつもりはないけどな。

「遠慮する!」

そう言いながらポーチにっていた弾を取り出し、すぐさま二人のちょうど背後に落ちるように放り投げる。

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これであいつらの意識は弾にも向けられるはずだ。

そう考えた直後、ドンッという音と衝撃がすぐそばから起こり、俺は怯んでいるであろう淺田へと向かおうとしたのだが、淺田は止まるどころか背後に振り返ることもなく俺に向かってきていた。そしてそれは宮野も同じだった。

「そんなのでっ!」

「くそっ!」

発があっても気にせずに突っ込んできた淺田に対して右手で拳銃を撃つが、腕を顔の前に出すだけで難なく弾かれてしまった。

なら今度は宮野の方へ、と銃を向けようとしたところで接近した宮野に銃が切られた。

「これでっ!」

そして僅かに遅れて淺田が接近し、背後から毆りかかってきた。

二人を視界に収めたようで、左からは宮野が剣を振り下ろし、右からは淺田が拳を突き出しかけていた。

このまま食らえば、どちらか片方だけだとしても俺はまともにけなくなるだろう。

だが、そんなのは想定だ。

今の俺の狀態だが、控えめに言ってかなりやばい。力もそうだが、魔力がなくなってきたし、も流しすぎた。もう本格的にぶっ倒れそうだ。

しかしこいつらを生かすためにはこんなところで死ぬわけにはいかず、なんとか足掻くしかない。だが時間はかけられない。

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こいつらはさっきの救世者軍の仮面との戦いで披しているとはいえ、それでも俺の方が能力的に低いんだ。このまま戦ったとしても先に限界が來て潰れるのは俺だろう。

だから、これで終わらせるつもりで最後の行に移った。

「きゃあっ!」

「晴華ちゃん!?」

し前にセットしていた魔法を、今起させた。

北原の結界は一枚一枚が強力な上に何層にもなっていて厄介極まりないものだが、それでも欠點がある。

あの結界、実の所地面の下には何もないんだ。

半球狀になっていて、地面から下は完全な無防備になっている。

もちろん北原もそれをわかっているし、俺も指摘した。だが、これは狀況に応じて半球狀と球狀を変えられるようになっているのだ。

一枚一枚が強力だって言ったが、そんなものを広範囲、長時間展開できるかと言ったら、無理だ。

それに特化した特級の結界使いならできるかもしれないが、北原は一級だし、本職は治癒の方で結界はどちらかといえばついでだ。

完全に適があるわけでもないのに一級の魔力では、無駄が多ければまともな運用、維持なんてできるはずがないのだ。

そして、地上からの攻撃しかしない相手に地下の結界を張っても意味がないどころか、ただの魔力の無駄遣いにしかならない。だから敵に応じて半球と球狀の二つを使い分けることができるようにしたし、そうするのがこの結界の使い方だ。

今回は俺相手ということで地面の下は必要ないんだと思ったんだろう。だが、それは間違いだったな。

安倍の欠點は、魔力を目で見ることはできるが、それは目で見なければわからないということだ。

それでも巨大な魔力はじ取ることができるんだろうが、今回の俺みたいな相手が使った微弱な魔法ではじ取れなかったんだろう。

だから安倍の背後、地下から魔法を侵させて、安倍を襲わせた。

突然背後から後頭部目掛けて飛んできた礫を避けることができず、安倍は短い悲鳴をあげて前のめりに倒れ、北原が慌てた聲を上げた。

「「っ!」」

俺を攻撃仕掛けていた二人はそんな突然背後から聞こえてきた聲に反応して一瞬だけきを止めたが、すぐに行を再開して俺への攻撃を続行した。

だが、一瞬とはいえきが止まったのは事実。その一瞬だけでも時間が稼げればよかった。

今の二人は持ち直したように見えるが、心では多なりともれがあることだろう。

だから引っかかる。

「いっ!?」

そのまま攻撃しようとさらに足を踏み出した淺田だが、その踏み出した足の中には俺が細工を仕掛けていた。

し前に使った煙幕。あの時に仕掛けた砂をり、それを固めて靴の中で小さなウニのような形にしたのだ。

そんなものを思い切り踏んだとしても、淺田のようなやつなら大した痛みはないだろう。むしろ俺の魔法が負けて砕かれることになる。実際そうなった。

だが、それでも多なりとも痛みはある。踏み出した足が何かを踏んだようなとともに痛みをじたら、そりゃあ驚くだろ。しかも今は安倍のことで集中が解けたところだ。だから、この結果は當然のことで、仕方がないことだ。

「佳奈っ!?」

靴の中のトゲトゲした小石を思い切り踏みつけた淺田は、反的にぐいッと足を捻り、勢いはそのままに勢を崩して宮野の剣の前に向かって首を差し出すような形になった。

「くっ!」

宮野は咄嗟に剣を止めようとごとそらして剣の方向を変え、なんとか剣を當てることなくすんだ。

「え?」

宮野が強引にをそらしたことで姿勢を崩したその間に、俺は倒れ込んだ淺田のを抱き止めるような形でけ止めた。

痛みをじたり転んだりして集中が途切れたせいもあるんだろう。淺田はなんで戦闘中なのにこんなことになったのかわからないようで唖然とした聲をらしたが、俺は抱き止めた狀態で背後に回した右手に持ったナイフを使い、淺田の首を切り裂いた。

「あぎっ!」

淺田の悲鳴とともに首に傷ができ、そこからはが流れ出る。

その傷にも細工を、と終えたところで淺田の突き飛ばしを食らって吹っ飛ばされてしまった。

「うっ! ぐうっ! ……くそ。馬鹿力め」

吹っ飛ばされて何度も地面を転がってから止まり、を起こして宮野達の狀況を見てみる。

宮野の怪我も、安倍の頭の怪我も、今の淺田の怪我も、全部北原によって治されてしまった。

これで狀況としては俺が左手を失っただけの狀況へと変わった。もう、これ以上まともに戦っても勝ち目なんてないだろう。

だが、これでいい。もう準備は終わった。後一手足りないが、それは後でもできる。

だから、俺はこの戦いを終わらせるための行に移った。

「あー、くそ。もうちょい若けりゃあな。最後まで力がもったんだが……」

そう言うと同時に、俺は全から力を抜いてその場に倒れ込んだ。

多分、宮野達にはごく自然に見えただろう。何せ、さっきまで立っていたのは本當に限界だった。ほとんど気力で立っていたようなもんなんだから。

だが、倒れたとしてもまだ意識を失うわけにはいかない。

この後もやることが殘ってるんだ。まだだ。まだ寢るのは早い。

その『やること』のために周囲の狀況を把握しないといけないんだが、安倍がいるから魔法を使って狀況を把握することはできない。

だが、それでもいける。

待っていれば、すぐに最後の手を打つ機會はくる。

「何が過大評価よ……むしろ過小評価なくらいじゃない」

俺が倒れても宮野たちはしばらく警戒したままだったが、こいつらもだいぶ疲弊していたんだろう。俺がかないのを見ると警戒を解いた。

「でも、これで連れて帰れる、よね」

「帰ったら逃げないように縛っておく」

「怪我も治しておかないとよね。柚子、お願い」

そうだよな。俺は今全に傷を負っていて、腕だって切り落とされてが流れている狀態だ。こんなのを放っておけば俺はそのうち死んでしまう。俺を死なせないために戦ったこいつらなら、倒れた俺の怪我を治すために北原を使うだろうってことはわかっていた。

だから……

「でも、よく勝てたね……。もう、限界かも……」

そう言いながら俺の怪我を治すために近寄ってきた北原は、自分達にかけていた結界を解除して俺の左手に治癒の魔法をかけ始めた。

北原も魔力を使ったからかいつもよりも怪我の治りが遅いが、しばらく待っているとなくなったはずの指の覚が戻った。

もういいだろう。これくらいなら、問題なくけるはずだ。

そう判斷した瞬間——

「え——?」

俺は北原の首へとナイフを振り、傷をつけた。

そうして他の三人にやったように傷口に水を侵させて——準備完了。

怪我は治ってもがないせいか、しふらついて思ったよりも深く傷つけてしまったが、北原ならすぐに治せるだろう。けどまあ、すまん。

「悪いな。騙し打ちは俺の得意技なんだ」

北原によって再生した左手の調子を確認するように何度かぐっと手を開いたり閉じたりしてみたが、問題ない。

「あんたっ、まだやるき!?」

「いい加減諦めてちょうだい! 私たちは、絶対にあなたを死なせたりなんてしないわ!」

淺田と宮野はそう言って拳と武を構え、安倍と北原は後方に下がり、北原は俺につけられた首の怪我を治療し始めた。

「そうも惜しんでもらえるってのは、これから死ぬ奴にとってはいい思い出になるな」

これだけ引き留めるほどに想ってもらえるなんて、初めは考えてなかった。そもそも三ヶ月でこいつらとは離れるはずだったしな。

それがいつの間にかこんなに長く、深く関わることになるなんて……なかなか、悪くないな。

こいつらに出會う前は死んでも『そんなもんか』、くらいにしか思わなかっただろうが、今はこいつらのために死ねることを嬉しく思う。

こいつらを守れて死ねたんなら、いい人生だった、ってな。

「だから死なせないって——ぐっ!?」

北原が怪我の治療を終えたのを見計らって、傷からに侵させた水をって、脳に至る流を止める。

人間ってのは、完全に流を止めて脳にが巡らなくなると十秒程度なんてごく短い時間で意識を失う。

下手すれば本當に死んだり障害が出たりするが、それほど長く止めるつもりはなかったし、それくらいやんないとこいつらの意識を失わせることなんてできなかった。

今までの戦いは、頭の近くに傷を作ることと、この作戦に気付かせないためのものだ。

最初から最後まで、傷をつけてそこに水を侵させることだけを狙っていた。

これをどうにかするには俺の魔法をぶっ壊すしかないんだが、突然のことでは何もわからないだろう。

宮野たちはそのまま抵抗することができず、ふらつきながらパタリと倒れた。倒れるまでに多なりとも時間がかかったのは、こいつらが上位の覚醒者だからだろうな。

だがそれでも終わりだ。後はこいつらをゲートの外に運び出すだけ……

「ぐあっ!」

なんて考えながら倒れた四人に近寄って言ったのだが、そんな油斷をつくかのように淺田が俺の腹に拳を叩き込んできた。

「ぐっ……まだ、けんのかよ」

淺田の拳をまともに食らって吹っ飛んだ俺は地面に倒れながらも顔を上げるが、今の一撃が最後だったのか淺田は意識を失い、もう一度倒れていった。

「……正直、一番厄介なのがお前だった。宮野は強いが、考えすぎるきらいがある。それに対してお前は突っ込んでくるだけだからな。そういう力押しでなんでもぶっ壊して突き進むやつが一番対処が難しい」

なんとか全に力を込めて立ち上がると、俺はフラついた足取りでありながらもできる限り素早く淺田たちの元へと歩いて行った。

「でも、これで終わりだ」

これで今度こそ終わりだ。後は、俺がコアを破壊すれば全部終わる。

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