《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》満足と後悔
意識を失って倒れた宮野達が起きないように薬を飲ませていると、何者かの気配が近寄ってきたのに気がついた。
「よお、お嬢様。それから工藤。どうしたこんなところまで」
もしや殘黨が援軍に來たのか、と警戒しながら通路の方を見ていたのだが、やってきたのは見知った顔の二人組だった。
「あなたの上司から連絡がありましたの。他の場所は報告がきているのに、この場所だけ何もないからここを手伝いに行け、と。わたくしも、これでも『勇者』ですから」
「上司?」
「佐伯と名乗っていましたわね」
「ああ」
どうやら戦っている間に結構時間が経ったようだな。まあ、実質ここだけボスラッシュがあったようなもんだし、時間がかかっても仕方がないか。
「それで? この狀況はどうされるおつもりですか?」
そう言ったお嬢様の視線は訝しげなものになり宮野達へと向けられていた。
もしかして、なんか勘違いさせただろうか?
「どう? ……この狀況のことなら、俺が敵に回ったとかじゃないぞ? これは——」
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「そんなことは聞いておりません。あなたが敵にならないなど、わかりきっています。ですから、わたくしが聞きたいのは、宮野さんを倒してまで、そのコアをどうするつもりなのか、と言うことです」
「……どうもこうも、破壊するんだよ。それで終いだろ」
「お終いというのは、『あなたごと』、ですか」
「……」
弁明しようと思って口を開いたのだが、それは途中で遮られてしまった。
だが、そんなことよりも気になることがあるんだが……このお嬢様、俺の考えに気づいてんのか?
「可能としては考えられていましたが……そのコアも、壊すとダンジョンごと崩壊するのではありませんか? そして、あなた方が対立したことから、壊すか壊さないかで意見が分かれた。推測ですが、おそらくはコアを破壊するには何かしらの條件があり、その條件を満たすのはあなた——つまりはコアを破壊するために犠牲になろうとした。違いますか?」
狀況を見ただけだってのに、よくそこまでわかるもんだな。
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このお嬢様、わかっちゃいたけど馬鹿じゃないんだよな。今の俺としてはありがたくないことに。
どうにかしろ、という意味を込めてお嬢様の斜め後ろで待機している工藤に視線を向けたが、工藤は一歩後ろに下がった。……自分から何かするつもりはないってか。
「——そういやあ、勇者になったんだったな。……ああそうだ。まだ言ってなかったな。おめでとう」
「それは……こんな狀況でなければ素直に喜べたのでしょうね」
「どんな狀況でも喜べよ。勇者になるのはお前の一つの目標だったんだろ?」
「……誰かを助けられない勇者に、どれほどの意味があると言うのでしょうね」
「……」
「……」
誤魔化すように話を振ってみたんだが、まあ意味がない。
こうして黙り込んでしまっても、お嬢様のその目は俺から逸らされず、無言のまま視線だけで問いかけてきた。
できることなら何も言わずに引いてしかったんだが、そうはいかないか。……仕方がない。
「……はあ。悪いが、こいつらを持って帰ってくんねえか?」
「やはり、お一人でやるつもりですの?」
「誰かがやらなきゃならねえんだ。なら、特級を潰すよりも、俺がやった方がいいだろ」
「ですが、それで彼達が納得するとでも?」
「しないだろうな。だからこうなったわけだが」
目の前で倒れている宮野達に視線を送って苦笑いをしながら肩をすくめた。
「まあなんだ、そんなわけだ。これを壊せば今世界中で開いてるゲートを消せる。それは絶対にってわけでもないし一時的なもんかもしれないが、救世者軍の頭は仕留めたんだ。一時的にでも落ち著けば、立て直すくらいはできるだろ」
あいつの話が本當なら、な。
なくとも救世者軍の頭が守ろうとした何か重要なもんだってのは確かだ。なら、命をかける価値はあるだろ。
「あなたは、やはり私の求めていた英雄の姿その通りですのね」
「やめろよ馬鹿馬鹿しい。英雄なんて、柄じゃねえっての。俺はただ……」
ただ……
好きな奴にダンジョンで死んでほしくないだけだ。
「……ま、こいつらに死んでほしくないってだけだ。俺自も死にたくないが、誰かが犠牲になるんならそりゃあ先の短え奴がなるべきだろ」
だから頼む。そう言おうとした瞬間、足元で何かがく気配をじた。
「ふざ、け……んな……」
「まだけんのかよ。……って、お前もかよ」
「かってな、こと……しないで……」
そう言いながら立ち上がったのは淺田だったが、それに続くように宮野も立ち上がった。
お前らに使った薬、念のためにって思って常人の規定量を超えて使ったんだけどな。
「わたしが、りーだー、だから……かってなんて、させない……っ!」
「あんた、こんなこと、して……ぶっとばして、やるんだから……っ!」
宮野と淺田の二人は薬のせいかふらついているが、それでも武を握った拳を緩めることはなかった。
「つっても、狀況はわかってんだろ? 今だってどこかで誰かが死んでるかもしれない。やるんだったら早いほうがいいんだ」
「だから、やらせないって……」
「いってるのよっ!」
「第二ラウンドってか? ——かかってこい」
宮野が雷の魔法を放ち、それを合図として淺田が俺に突っ込んでくる。
宮野の雷も、淺田のきも、到底薬を飲んでいるせいで萬全な狀態であるとは言えないにも関わらず、半端な一級では下してしまうだろう威力と気迫があった。
だが、それだけだ。
本來の実力を発揮できないせいで宮野の魔法は普段よりも発のタイミングが遅いし、威力も低い。
淺田の突進は勢いが弱いし、時折の軸がぶれている。
だから、多怪我をして疲れていると言っても、俺でも簡単に対処できてしまう。
俺に向かって放たれた雷には剣を投げつけて避雷針がわりに導させ、突っ込んできた淺田には足元に土を拳一つ分程度盛り上げて転ばせた。
雷を放った後に淺田の後ろから追いかけるように宮野が剣を構えて走ってきていたので、俺は服のボタンを毟って投げつけた。
宮野はそれを剣で弾き、返す刃で俺を切ろうとしたが、俺はそれを、まるで歓迎するかのように両手を広げて待ち構えた。
どう見ても無防備な狀態の俺にそのまま剣を振り下ろせば、今のふらついて力を完全に制できない狀況では殺してしまうと思ったんだろう。宮野は俺に當たる前に強引に剣を止めた。
だが、それを期待していた俺は、宮野に近づいていき広げた手でぎゅっと宮野のことを抱きしめた。
「悪いな。結局背負わせることになっちまった」
「や、だ……」
そして、もう一度魔法を使って意識を失わせると、今度こそ起きないようにと願いながら再び薬を飲ませた。
「お前も、ろくに応えることもできずにここまでなあなあで來ちまった。悪いな」
「まち、なさ……」
転んだ狀態から立ち上がろうとしていた淺田の前で膝をつくと、宮野と同じように淺田のことも抱きしめ、同じように気を失わせてから薬を飲ませた。
これでもう、ここにいる間に二人が起きることはないだろう。
「みや——」
二人の名前を呼ぼうとしたが、俺はそこで言葉を止めた。
そうだな。どうせ聞いてないだろうが、最後くらい、まあいいだろう。
「——瑞樹、佳奈」
そして、二人のことを名前で呼んだ。
「俺はお前らのことは嫌いじゃなかった。っつーより、好き、だったんだろうな」
自分で言っていてなんだが、苦笑するしかないな。
「こんなおっさんが何言ってんだって話だが、まあ最後なんだ。許せ」
そう言いながら俺は目の前で倒れている二人の頭に手を置いて軽くでる。
「次はこんなおっさんに引っかからずにまともな相手を見つけろよ。そんで幸せになれ。俺がここでやるって決めたのは、お前たちのためなんだから」
思えば、こいつらとの関係は一言じゃ表せないような々と混じった不思議なもんだよな。
妹のようでもあるし娘のようでもある。あとは弟子で歳の離れた友人で同じチームの仲間で、人……未満。
どれか一つだけだったとしても、俺がお前らを守るのには理由としては十分だ。
目の前の二人だけではなく、し離れた場所で倒れている安倍と北原にも視線を向けてから大きく深呼吸をして立ち上がると、黙って俺たちのことを見ていてくれたおじょ——天智飛鳥へと顔を向けて笑いかけた。
「悪いが、あとは頼んだ。それから、ニーナってやつに伝えておいてくれ。約束を守れなくってごめん、って」
天智はニーナのことをまだ知らないだろうが、それでも工藤がいるんだからわかるだろう。
「ええ。……これくらいしかできないのが勇者だなんて、笑えますわね」
「俺にとってはその『くらい』のことが重要なんだよ。心殘りを作らないためにもな」
それさえしてくれれば……こいつらさえ守ってくれれば、俺は満足して死ねる。
本當はこの後始末は北原に頼むつもりだったんだが……あいつも寢ちまってるしなぁ。まだまだ人を見る目は未だったってか。
まあ、人生は死ぬまで修行の日々、みたいな言葉を聞いたことがあるし、そんなもんだろ。完璧や完全なんてなれるはずもないんだ。
そんな、この狀況においてどうでもいいことを考えながらコアの元まで歩いていく。
コアの下に再び辿り著いた俺は、コアを見つめて大きく息を吐き出してから天井を見上げて目を瞑る。
——これから俺は死ぬだろう。
あれだけ死にたくないからって行してきたくせに、いざこの場面になったってのに思ったよりも後悔はないもんだな。
これは、多分今度こそ好きな奴を守ることができるからっていう……まあ言っちまえば自己満足だな。
だがそれでも、十分だ。
天井を見上げて目を閉じたままゆっくりと深呼吸をし、息を吐き終えると目を開いて真っ直ぐコアを見つめた。
だが、俺の魔力ではこれを壊すことはできない。何せ特級や一級を何人も食い潰さなければ壊れないような代だ。
しかし、俺は今回の戦いに備えてし無理を言ったが特級の魔石をいくつも用意してもらっていた。
それらを使って地面に配置していき、地面に魔法陣を描いていく。
その時に塗料がなかったのでを使ったんだが、なんだかヤバい儀式してる気になるな。
だが、そうして準備を進めていると不意に世界が揺れて足踏みしてしまう。
世界が揺れると言っても俺の錯覚で、どうやら眩暈が起きたようだ。
もそうだが、魔力がなくなってきたみたいだな。途中で意識を失って失敗するわけにもいかないし、造剤と補充薬飲んでおこう。
……あん? 思ったよりも殘ってるな。
薬れ用のポーチを開いたのだが、思ってたよりも薬が殘ってる。補充薬って結構使った気がするんだが、こんなに準備したか?
……まあ、今回はいつもよりも余分に持ってきてたから殘數を間違えることもあるか。
が足りないのか若干ボケた頭でそう考えると、造剤と補充薬のっている銀の容を取り出して一気に飲み干した。
「それじゃあ、一世一代の大仕事。文字通り、命をかけてやるとするか」
時間ももういいだろう。ある程度余裕を持ってみても、天智達はゲートの外に出たはずだ。
コアを破壊するのに必要な全ての準備を終えると、時計を確認してからそう呟き、大きく深呼吸をしてコアに手をばした。
「——もうちょっと、あいつらと一緒にいたかったなぁ」
言うつもりではなかった一言を無意識のうちに呟くと同時に、準備した魔法が発してコアは破壊され、俺の意識は黒い世界に飲み込まれていった。
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