「施設は勝手に使ってもいいのか？」

「僕達は今日付けでここの生徒だ。上級生の寮や職員棟などを除けばすでに使えるようになっている施設はある。実技棟もその一つだ」

「……知っていたという事は配慮では無かったのか」

「何？」

「いや、こっちの話だ」

じゃあ何故門の前で待っていたんだろうか？

疑問が再浮上するが、その答えはアルムには出ない。

學式である今日は名だたる貴族が初めて一堂に會する日。

門の前であれば他の家と一番に顔合わせをし、あわよくば言質をとってパイプを作ろうとするのが貴族の家で恒例となっている事を平民のアルムは知らない。

実技棟につくと、り口の脇にある球にルクスが手を翳す。

何かに反応したように球はり、り口の扉が開いた。

「魔石か、初めて見たな」

魔石は魔力をよく通す鉱で式を込めれば魔力を通しただけで簡易的に魔法を発することができる。

魔法使いが使う魔法のような過程を踏まない為にスイッチのような簡単な役割しかできないが、加工する事で記録した魔力でしか発しなかったり、特定の人數で魔力を込めないと発しないようにしたりとセキュリティに優れる。

他にも魔力を貯めるように加工して照明にしたり、魔力を込めて魔力タンクにしたりと何かと便利な鉱だが、高価な為にここのような魔法學院や王族、そして一部の貴族しか使えないものでもある。

「贅沢ですわね……」

「ミスティも初めてか？」

「いえ、うちにもありますが、このような施設で使ったりはしませんわ」

中は広く、一階と二階に分かれており、二階は観戦する為のギャラリー席のようなものが並んでいる。一階部分にはほとんど何も無く、扉や窓を作する魔石が壁に設置されているだけであった。

広々とした空間はアムルとルクス、そしてギャラリーをれてもまだ十分すぎる程のスペースがある。

「天井を開けるぞ。ここは外からの魔力が遮斷されてるようだが構わないか？」

「ああ、どうせ今開けても影響あるほど魔力は集まらないだろ」

ルクスが壁に備え付けられてる魔石を作すると天井が開く。

屋が壁の延長になるように開くと青空が顔を出した。

建から見える太のがこれが文明だと主張しているようでアルムには眩しい。

「すごいな都會……」

「アルム……」

「ん？」

「その、こんな事になってしまいましたけど……頑張ってください……」

「ああ、ありがとう。ミスティも下がってろ」

天井が開き終わると、アルムとルクスは自然と中央に、他の貴族達は端に寄る。

ミスティも言われた通りアルムの後ろに下がった。

「僕も君もこの學院にるだ。決闘はここのルールに則るよ」

「ルール？」

「相手を再起不能にしたり、直接を欠損させるような魔法は使わないとある。ともに生徒である事を自覚せよという事だろう」

「なるほど、どっちにしろそんな魔法は使えないが」

「だろうね。決著は相手が降參するか気絶するかだ、気絶したら醫務室に運ぶくらいはするから安心してくれ」

「何だ、意外に優しいな」

「ミスティ殿に君を運ばせるわけにはいくまい？」

確かに、とアルムは笑う。

こうして話しているところを見ると二人は敵対しているようには見えない。

しかし、これはただの確認作業の延長だ。

「誰か聲掛けを頼む」

「はいはーい、私やるー」

ルクスが頼むとギャラリーの中の一人が率先して前に出る。

八重歯が特徴的な快活そうなで、今から始まる決闘が心底楽しみであるかのような笑顔を浮かべている。

「じゃあ、はっじめー！」

何処か気の抜けるようなの掛け聲と共にアルムは後ろに跳ぶ。

対してルクスは掛け聲と同時に魔法を唱えた。

「『雷刃(ライトニングエッジ)』」

作も無く、ただ唱えるだけでルクスの目の前に雷の刃が現れる。

刃は生されたと同時にアルムに向けて飛んでいく。

まずは小手調べという一手。魔法使いにとってはポピュラーな攻撃魔法だ。

「雷か」

アルムはすぐさま屬を判別して右腕を目前の魔法へと掲げる。

「『魔弾(バレット)』」

唱えると共にアルムの右腕を囲むように白い玉が展開される。

右腕を振るうと、展開された玉はルクスの魔法目掛けて放たれた。

「"無屬"……？」

不可解な面持ちでルクスが呟く。

五つほど放たれた魔弾は音を立ててルクスの刃の軌道をずらした。

この魔法に作は無い。軌道を変えられればそれまでで、アルムに當たることはない。

「『強化(ブースト)』『抵抗(レジスト)』『防護(プロテクト)』」

アルムは矢継ぎ早に補助魔法を唱える。

魔法をかけた場所に応じた部分が一瞬輝く。

足を強化し、全に麻痺に対する抵抗力を、眼に閃を防ぐ為の防の魔法をかけて床を蹴る。

"早い……！"

ルクスは心で驚愕する。

驚くべきはアルムの魔法の速度。無屬の補助魔法とはいえ、三つの魔法を連続で唱えたその速度と魔力の回転は魔法を使い慣れている証でもあった。

補助魔法をかけたアルムはルクスとの距離を詰める。

魔法の速度に虛を突かれたせいか殘り三メートルも無い。

だが――

「雷の僕と白兵戦かい？」

「！！」

「『雷鳴一夜(らいめいいちや)』」

ひやりと。アルムは背筋にじる嫌な寒気で橫に跳ぶ。

唱えるとともにルクスのに魔力が纏い、ばちばちと帯電したような狀態へ。

アルムの使った補助魔法よりも上位の雷屬の補助魔法。強化に加えて接した相手に雷屬に変換した魔力で攻撃する攻防一の魔法だった。

三つの補助魔法をかけたアルムでも分が悪い。その魔法一つで詰めた距離を振り出しに戻される。

「やはり無理か」

雷屬は発生が早く、屬の特上ただ魔力を放つだけでも攻撃になる為に迎撃では特に力を発揮する。

魔法を學ぶ過程でアルムはしっかりとその知識は得ていた。

しかし、せっかくだからと好奇心から確認をしてみたくなったのだ。

ルクスに白兵戦を仕掛けたの理由はただそれだけ。

雷屬だとわかってから雷屬に耐を得られそうな補助魔法は一通りかけた。

例え白兵戦が出來なくても無駄になることはないという算段があっての事だった。

「それにしても珍しい魔法使うな」

そして何よりルクスの実力もある程度わかる。

今使った魔法の系統は気になるが、しっかりと基礎を押さえた魔法使いだ。

アルムなりに不意を突いたつもりが余裕を持って対処してきた。

今のままでも場所を選べば魔法使いとして通用するに違いない。

「『準備(スタンバイ)』」

「ん？」

ルクスが聞きなれていない魔法をアルムが唱える。

彼が使っている魔法は今の所全て無屬。

無屬はその名の通り屬が無く、魔法使いが共通して使用できる魔法。

普通の魔法使いならば習得するまでもなく使える魔法で、ルクスもある程度の補助魔法は習得している。知識としても門として學ぶので無屬魔法で知らない魔法は無いと思ったが、アルムの魔法は短い文言にも関わらず聞いた覚えのないものだった。

「ブラフか……？」

を補助、防護する魔法ならば魔力の反応がいずれかの箇所に現れるはず。

しかし、アルムのには何の変化も無い。

それで油斷するほど愚かではないが、変化が無い以上気に留めすぎても思考の邪魔になるので置いておく。

「『魔弾(バレット)』」

「……ふぅ」

不可解なことをしたかと思えばまた無屬魔法。

思わずため息が出てしまう。

それともそれだけで勝てると嘗められているのか？

「心外だな」

「行け」

アルムの右腕に再び五つの魔弾が展開される。

そして同じように右腕を振るうと魔弾はルクス目掛けて掃された。

「『雷刃(ライトニングエッジ)』」

先程放ったものと同じ魔法で応戦する。

同じ魔法相手に無駄に手札を披する必要もない。

アルムの魔法はこの魔法を逸らすだけで一杯の威力だった。ならばこちらから當てれば當然あちらの魔法の軌道も崩れる。

「なに！？」

「駄目か、もうしだな」

しかし、結果は同じにはならない。

今度は相殺。五つの魔弾は全て雷の刃に當たり、魔法は互いに砕け散る。

驚くルクスとは対照的にアルムは意図があるように呟く。

先程と同じ魔法で何故――？

「事前に使ったのは威力を増強するものか……！」

思い當たるのは効果のわからなかった無屬魔法。

あれが『魔弾(バレット)』の威力を上げたに違いない。

無屬魔法がそれだけで他の屬魔法を打ち破るのはまずあり得ない。

だが、効果がわかってもそんな無屬魔法に覚えは無かった。

変換を考えれば別の屬に使うのは難しい補助魔法と推測できる。もしや雷屬をメインで使う自分は読み流していたのだろうか？

「だからどうした？」

そんなものは攻撃魔法のランクを上げればすむだけのこと。

し威力を上げるだけで今のバランスは崩壊する。

何せ相手は無屬魔法。その功績は偉大だが、こと実戦においては最弱に位置する欠陥魔法(・・・・)である。

「『鳴雷ノ爪(なるかみのつめ)』」

「おっと」

右腕を掲げ、ルクスが唱えるとともに巨大な雷が猛獣の爪を象る。

一目でわかる先程との魔法の威力の違い。爪の數だけあの刃を用意しても紙屑のように薙ぎ払われるだろう。

獣が唸るように音を立て、その爪はアルムへと振り下ろされた。