《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》11.相応しい場所
「すまなかった」
場所は変えてアルムとルクスが出會った門の前。
ただでさえ學式前に決闘をしたことで名前が知れ渡っているので、注目を避ける為とミスティの提案だった。
この時間に學院に來る生徒はおらず、普段住民が學院にることも許されていない。
人気の無さを考えると絶好の場所だった。
事実、ここには四人だけ。
アルムと、そのアルムと向かい合って今まさに頭を下げているルクス。
ミスティとエルミラはそれを見守っていた。
頭を下げるルクスを前にしてエルミラは気まずそうにミスティに耳打ちする。
「……私いていいの?」
「いいんじゃないでしょうか、ルクスさんがいていいと仰ってるわけですし」
「私みたいな沒落寸前が見ていい場じゃないような……」
今更この場を去るのもおかしいような気がするので、エルミラはこのまま見守ることにする。
気まずさの他に何か気恥しさもあった。
「ミスティ殿にはすでに先程謝罪した。後は君と君の師匠を貶めたことをここに謝らせてくれ」
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深々と頭を下げるルクスにアルムはし驚き、言葉に詰まる。
貴族が謝罪しろと言われて本當にこんな行に出るものかと。
「……意外だ」
「え?」
アルムの呟きでルクスは顔を上げる。
「あの時は頭にが上っていて一方的な約束をさせてしまったからな。こんなにも律義に謝罪されるのは意外だった」
「一方的じゃない。僕も同意した」
アルムが意外だと思った理由はそれだけではなかった。
確かに師匠の事については謝罪や訂正をしてほしかった。
だが、自分よりもむしろルクスの方がこだわっているように見えたからだ。
ルクスは中庭の自分達に聲を掛けてきた時、息を切らしていた。
ミスティに聞けばルクスは散々探し回っていたのだという。
「それにただの口約束だ。反故にしても誰も責めないだろうに」
「そういうわけにはいかない。あの決闘は君を見定めるためでもあった。そして君は僕の【雷の巨人(アルビオン)】を倒してこの場にいるに相応しいと証明した。
そしてその決闘の中で僕は君の師匠を侮辱した。認められるべき人間とその恩師をも侮辱したんだ。ならば反故になどできるはずがない、僕にさらに泥を被れというのか?」
「……ずいぶんこだわるな?」
ついにアルムは疑問を口にする。
そう言われてルクスはし俯き、しばらく黙り込んだ。
その表は何か逡巡するかのようなものが見てとれたが、何を迷っているのかはアルムにはわからない。
しかし、再び視線の合った時には吹っ切れたかのようだった。
ルクスは話し始める。
「僕は人間には能力に合った相応しい場所があると思っている。それは家柄であったり持った技であったり、才能だったり。持って生まれたものや努力したもの含めてその人間の人生が立つべきに相応しい場所があると思っている。
だからこそ、君はここに関わるには相応しくない人間だと思っていた。力の無い人間が過ぎた場所に來たのだと。
君の怒りを買う事を承知で言おう。君を見下していたんだ。ここはベラルタ魔法學院だ、魔法使いの一族に相応しい能力を持つものがいるべき場所で、君には相応しくないとね。能力の一面でしかない試験の績だけを見てだ」
それはルクス自の思想とアルムに対する最初の印象だった。
ルクスは言いながら自に憤っているのかを噛み、拳は強く握りしめる。
後悔をじさせるその表に偽りは無く、ルクスという人間のイメージがアルムの中で変わっていく。
「愚かだった。この謝罪はそんな僕の愚かさを許してほしい我が儘でもある」
「だが、俺は平民だ。貴族のルクスがそこまで律義に付き合う利益の無い人間だと思うが……」
そう、自分は平民。
律義に約束を守ったところで、人間関係を円にしたところで利益は無い。
ルクスの分によるものだと理解し始めてはいたが、アルムには何処か理解できない。
貴族と平民の格差にアルムは実がないが、それでもそこに何か壁があるという事はわかっている。
カレッラに領主が來るのは稅を徴収する時のみ。
そんな限られた訪問が清々しいような、それ以外には何も期待していないという証明なのだと理解したのはいつだろうか。
普段関わらないのは益が無いからなのだと、年ながらにわかった日を思い出す。
だからこそ、今ルクスが自分に真摯に謝罪する利益が無いことはアルムにはわかっている。
誰も謝罪しなかった事を責めないだろうという事も。
「おかしな事を言うな、君は」
アルムの自にも似た疑問をルクスは笑い飛ばす。
「言っただろう、人間には相応しい場所があると思っていると。それは人間を自分の中で選別しているという事でもある。
褒められた事ではないが、僕は貴族だ。そういった考えが必要な時はあるし、これからもそうしていく。その場所に相応しくない人間にまた憤りを覚えたりもするだろう」
アルムに向けた怒り。
それはその場に相応しくない人間が相応しい人間と対等になろうとしている、と思ったがゆえ。
優しさや慈悲といったは時に立場を超えて施される。
その場に相応しくない人間がそんな施しに味を占めて居座るのは珍しくない。
ルクスはそれが許せなかった。
「なら僕は、相応しい場所にいる人間には誠実に付き合わなければいけないんだ。
民を幸せにする領主にも、食に向き合う料理人にも、街を守る門番にも、働く民にも相応の敬意を払う。そうしなければこの僕自が相応しい場所に立つに値しない」
だからこそ、相応しい場所で力を振るう者には敬意と賛辭を。
最初から家柄を持って生まれた者がするべき最も重大な責務であり、理想であるとルクスは確信している。
これこそがルクス・オルリックという貴族の芯だった。
「だから僕は同じ場所に立つに値する君を軽んじた事を謝罪している。そして同じ場所に立つまでにした君の師にも。これは僕の為の謝罪でもある」
なればこそ、そこに損得は関係ない。
そうでなければ自分はルクスという人間ではなくなってしまうのだと彼は暗に謝罪とともに曝け出した。
「くそ真面目……」
「お靜かに」
つい呟くエルミラとそれを咎めるミスティ。
なるほど、それは確かに自分の為だとアルムは笑った。
「それなら當然謝罪をけれよう」
「……ありがとう」
「いや、そこまで言われたらな……ルクスの事はよくわかったよ。元々怒っていたのは師匠の事だけだったしな。……それに」
し黙る。
あの時は確かにそう言ったが、今自分から言っていいものかとし躊躇う。
それでも、この平民はこれからそう出來ればいいなと目の前の貴族に対して思ったのだ。
「言っただろう。喧嘩ってのは終わったら仲良くなるもんだ」
「……! ああ、そうだ……そうだったな」
それは互いを知らなかった遠い昔のような出來事。
門の前でアルムが口にしたてきとうな常套文句。
躊躇いがちにアルムが口にした言葉をルクスは喜んでけれる。
「めでたしめでたし?」
「みたいですね」
見ていたミスティとエルミラも顔を見合わせて微笑み、一件落著と二人に加わる。
はそれを見屆け終わったかのように城壁に落ちていく。
こうして一人の平民は魔法使いの卵へと。
長い一日はようやく終わり、彼等の學院生活はこれから始まる。
學編はここまでとなります。
アルムの魔法シーンをかっこよく書きたかったのですが、かっこいいと思って頂けたでしょうか?
これからもお付き合い頂ければ幸いです。
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