《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》13.魔法儀式

「それにしても靜かだよね」

「そうですわね」

エルミラがぽつりと呟く。

正午過ぎという事でカフェテリアには晝食を終えた生徒がおり、アルム達と同じように雑談するグループもいて決して靜かというわけではない。

それもそのはずで靜かというのはこのカフェテリアの様子ではないからだ。

「皆さんまだ探り合いといったところでしょうか」

ミスティは髪を耳にかけるようなしぐさをして一口、カップに口を付ける。

それだけの所作にも関わらずミスティがやると絵になっていた。

周囲の男子生徒の中にはそれに目を奪われる者もいる。

「ミスティんとこは誰か來た?」

「いえ、私にはまだ誰も」

「んー、そりゃそっか。カエシウスの次にいきなり仕掛ける馬鹿はいないよね」

「あら、報が筒抜けの分仕掛けやすいかと思いますけれど?」

普段見せない悪戯っぽい笑顔にエルミラも苦笑いを浮かべる。

その笑顔は例えある程度報がれていても問題ないという自信の裏返しか。

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「アルムは?」

「いや、結局ルクスだけだな。俺は平民な上に學式前に魔法がばれてるから結構來ると思ってたんだが……」

「ルクスに勝ったから警戒されてるのかもね」

アルム達が話しているのはこの學院の重要な一つのシステムの話だ。

それこそがベラルタ魔法學院名ともいえる生徒同士の決闘、"魔法儀式(リチュア)"である。

いついかなる時でも、生徒は実技棟を利用すれば魔法による私闘をする事が許可されているというものであり、そこでの勝敗は実技棟にある記録用の魔石にカウントされる。

學式で學院長が推奨していた生徒同士の私闘だが、推奨するのも當然でこの學院は戦績が績の一部になるのだ。

斷るのも自由なシステムで同意が無ければ強制させる事はできない。

互いの同意が無い場合、何らかの外的要因で強制させられている場合、または実技棟以外で行う場合は止されており教師陣が即座に鎮圧する。

他にも上級生は下級生に仕掛けることはできないが、下級生は上級生に仕掛けられる、再起不能、を欠損させるような魔法は使ってはいけないなどのルールは存在するが実技棟での魔法戦という枠を出なければ大概は許されるものだ。

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コンディションやシチュエーションの問題はあれど魔法での戦闘能力を計るのに手っ取り早く、そして在學中に魔法戦の経験を多く積めるとして導されているシステムだが、これが學から二週間経つ新生の人間関係に未だ妙な壁を作っている問題でもある。

生のお決まりではあるのだが、互いが互いの魔法に関してを探り合いしている狀態が続くのだ。

在學し続けると互いの魔法が筒抜けになるので上級生になれば関係無くなるのだが、新生は相手の報が無い狀態であり、最も危険な時期だ。事前に知ることは大きなアドバンテージになる。

その為、何とかして相手の魔法が探れないのかと表面上は仲良くしながら隙を狙って會話の中で探るという水面下での戦いが起きるのだ。

學して間もない頃は昨日仲良くしていた相手から仕掛けられるなんてのは珍しくない。

この學院では新生同士の魔法儀式(リチュア)はないが、隙を見せないようにと妙なが流れるというのが恒例行事となっており、學院長などはそれを楽しんでいる。

ちなみにアルムとルクスのは學式前な上に途中で中斷されたのでカウントされていない。

「あー……実はいうと二回くらい挑まれてる」

「え? そうなの?」

ルクスの気まずそうな言葉にエルミラは驚く。

「ああ、一昨日と……學式の次の日だったかな?」

「ルクスは狙われると思ってたけど結構きてるね」

「平民に負けたと嘗められてるから仕方ないさ」

「実際は中斷なんだがな……」

「いや、あれは僕の負けさ。中斷で片付けていい結末じゃない」

アルムは納得していないようだが、ルクスは負けたと納得している。

事実ルクスは噂の真偽を聞かれると決まって肯定しており、それがこの探り合いの段階で二回も魔法儀式(リチュア)を仕掛けられた理由でもあった。

「騒ぎになったし、見學者もいて僕の魔法はほとんどばれているから手頃な相手なんだろう。なくとも報の上では有利だからね」

「仕掛けたほうは馬鹿だねー、ルクスは統魔法はわかってるからってどうこう出來るもんじゃないと思うんだけど」

「お、僕を評価してくれるのは嬉しいね」

「何とか出來るなら私がもうやりに行ってるもん」

「……そうかい」

心底エルミラが何とかできなくてよかったとルクスは自分の統魔法に謝する。

何となく、このは自分に遠慮の欠片も見せないだろうなという確信があった。

「むかつくけど流石オルリック家ってじだし。破ったアルムがおかしいんだよ」

「あ、あれはルクスが何もしなかったというのもあるからな」

「それでもあれぶっ壊せる魔法と魔力持ってるってのは凄いよ」

手放しに褒められているせいか、アルムはし顔が綻ぶ。

エルミラにからかっている様子は無く、その表は真剣だ。

「あれって魔力でごり押ししてるんでしょ?」

「ああ、大そんなじだ」

「んー……アルムもやめとくか……」

そこでようやくこれが品定めなのだとアルムは気付く。

真剣な表は分析であり、どうやらエルミラの標的にはならなかったようだ。

「そういやミスティって次だけど統あるの?」

気軽に、だが容は踏み込んだ質問だ。

エルミラの問いにミスティは、

「ふふ、どうでしょうか?」

余裕そうに笑顔を返した。

「ありゃ、こりゃ駄目だ」

流石に探れないとエルミラは撤退する。

「なるほど……こんなじで探り合うのか……」

「何に心してるんだ君は」

友人間でも踏み込み、そして誤魔化すやり取りにアルムは妙な心をしていた。

「ま、元からこの三人は仕掛けにくいと思ってるから一緒にいるんだけどさ」

「そういえば君はどうなんだい? まだ仕掛けられたりは?」

自分達ばかり聞かれてばかりで、まだエルミラがどうだったかと聞いてないことにルクスは気付く。

「いや、一回あるよ」

聞かれたエルミラは隠す必要もないと答えた。

意外そうにミスティが食いつく。

「そうなんですの? てっきりまだだから私達を探ってるのかと……」

「うん、なんだかんだ沒落だし嘗められるでしょ。二人だって隙あれば私から一勝持ってこうとは思ってるでしょ?」

「……」

「……」

二人は肯定も否定もせずに同時に黙る。そして黙る理由付けのようにカップを口に運んだ。

それがエルミラの問いに対する答えである。

「え? え? そうなのか?」

そしてそんな事を欠片も考えていなかったアルムは二人の反応に驚く。

二週間一緒にいてアルムはそんな事考えてもいなかったのであった。

「ちなみにその一回はどうなったんですの?」

「勝った勝った。まぁ、私だけ探ってるみたいでフェアじゃないから言っちゃうけど、一週間前に焦げ臭かったあの人」

「なるほど……」

「あれか……」

ミスティとルクスは納得したように呟く。

アルムも言われて同じように一週間前を思い出す。

確かに座學の時間、妙に焦げ臭かった日があったようなと朧気だ。

「それにしても、エルミラは探るわりにはフェアかどうかを気にするんだな」

「そりゃ皆だからよ、友達探っておいて私だけ隠すって嫌じゃない」

「妙なとこで甘いんだな、君……損な格だよ」

「うわ……ルクスには言われたくないんですけど……」

どの口がと言いたげな嫌そうな顔でエルミラはルクスから椅子を離れさせる。

「そ、そこまでするかい?」

「損な格って言うならまずは鏡見てきたほうがいいんじゃない?」

「僕は自分を損だと思ったことはない」

「私もないわよ」

「仲良いですねお二人とも」

「よくない」「よくないわよ」

そう言いつつも二人の聲が揃った事にミスティはにっこりと笑顔を向けた。

アルムもその様子を珍しそうに眺め、

"二人とも似た者同士じゃないか"

と口にしたら油を注ぐと理解していてか、心で靜かに呟いた。

「アルムは?」

「……なんだ?」

「何よその間は。誰かに仕掛けようとか思ってないの?」

アルムは一瞬、心の呟きを口にしてしまっていたかとし慄いていたが、違うとわかって安心する。

「正直に言うと、々な魔法が見たいから仕掛けたいという気持ちはあるんだ」

「意外ですね、アルムはそういう好戦的な事は考えていないかと」

「人畜無害ってじの顔だもんね」

アルムの顔のじがまた更新される。

エルミラに言わせるとどうやら自分の顔は、からかいたくなる上に思ってることがばればれで人畜無害であるとどうでもいい事を記録する。

「だが、一回見學したいと思っててな」

「見學? 魔法儀式(リチュア)を?」

「ああ、ある事に気付いたんだ」

それは何かと聞きたげな三人を察してアルムは続けた。

「自分で戦うと相手の魔法しか見れないが……見學すれば二人分の魔法を見られる」

「……」「……」「……」

三人は言葉を失う。エルミラは苦笑いを浮かべ、ルクスは困ったように、ミスティは呆れた様子でアルムを見つめる。

それはただの好奇心。

アルムの見せる得意げな表が言葉にする気力を失わせる。

「……楽しそうね」

「まだ楽しくない。見學できていないからな」

エルミラが試しに言ってみた皮もアルムはそのままけ取ったようだった。

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