《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》17.対峙する知り合い
ベラルタ魔法學院は自主を重んじている。
聞こえはいいが、要は怠ける者を振るい落とすという事だ。
日々の基礎鍛錬を學院側で授業という形で用意して規則的に。生徒自の魔法は魔法儀式(リチュア)で周りと競い合って個人でばしていく。
戦えば戦うほど他の生徒に魔法の報はばれていき、対策されたりパターンを読まれたりとそのままでは勝てなくなっていくのが魔法儀式(リチュア)の肝である。
勝者も敗者も次勝つ為に新しい魔法や魔法の組み合わせ、きなどを自主的に學んで次の魔法儀式(リチュア)の為に高め合っていくのだ。
こうしてひたすら生徒同士で戦うことで長を促すのがこの學院の方針である。
基礎鍛錬である授業も、一日の授業の終わりは必ず実技となっており指定された課題を終わらせればそれで帰ることもできるが、逆に終わっても部屋を使い続けることができる。
早く終わらせて自の魔法を磨く時間に當てるのもよし、殘って基礎を固めるのもよし、帰ってしっかり休息をとるのも悪くない。
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時間の使い方は生徒次第だ。
「やりすぎたな……」
「だから止めたじゃありませんか」
そして今アルムとミスティは本棟から出て中庭を突っ切っている。
本來なら二人も課題をとっくに終わらせていたのだが、アルムはミスティに付き合ってもらって自主的に続けていた。
使い続けるのは學院側も推奨しているので問題ないが、この後にエルミラの魔法儀式(リチュア)を見に行く約束をしている二人にとっては問題だ。
時間の使い方がギリギリである。
「間に合うか?」
「それは問題ありません。時間は把握しています」
ミスティはアルムの鍛錬に付き合いながらもちらちらと時間を確認していた。
友人との約束というのもあるが、他の魔法使いの魔法を見れる機會を逃すような愚行をミスティはしない。
「そうか、ミスティと一緒でよかった」
指定された実技棟に著くとアルムはすぐさま魔石にれる。
魔力を通すと魔石は輝き、それに応じて扉は開いた。
「お、來た來た」
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「二人とも遅かったね」
実技棟にはすでにエルミラとルクスがそこにいた。
アルムがミスティと実技のコンビを組んでいたように、ルクスもエルミラとコンビを組んでいたので一緒に行していたのだと窺える。
「すまん、俺がちょっと夢中になって」
「ああ、どうせミスティは付き合わされたんでしょ。言わなくてもわかるよ」
「……それはそれで複雑だ」
「うふふ」
エルミラの予想は合っているだけにアルムは強く言い返すこともできない。
「じゃあ二人も來たし、僕らはギャラリー席に行ってるから」
「うん、見てて見てて」
二人が著くなりルクスはギャラリー席に上がる階段に向かう。
それにアルムとミスティも続いた。
「階段で上るの初めてだ」
「アルムは強化使って跳んでましたからね……」
三人でギャラリー席に座る頃、実技棟の扉が開く。
エルミラの相手が到著したようだ。
「おや、待たせてしまったかな?」
「いやいや、私が早かっただけ」
エルミラの姿を確認するなり、実技棟の中央へとエルミラの相手は歩いてくる。
「あれ?」
歩くその姿を見てアルムは気付く。
そしてその聲に姿を現したエルミラの相手もギャラリー席に気付いた。
「あ、アルム? 何故ここに?」
「リニス、お前こそ何で……」
エルミラの相手は今日の朝、アルムと一緒にコーヒーを飲んだリニスだった。
朝とは違って髪を纏めており朝とはし印象が変わっていたが、見間違えることはない。
「お知り合いですか?」
「ああ、今朝一緒だったんだ。コーヒーでもどうかとわれて」
「……コーヒーをですか」
「リニス、朝はありがとう。お前がエルミラの相手なのか?」
アルムの問いにリニスは小さく頷く。
「ああ、私が魔法儀式(リチュア)を申し込んだんだ」
「そうか、なら両方応援しなければいけないな」
「ちょっとー! あんたは私の応援しなさいよ!」
アルムの寢返り?が不服なのかエルミラは顔を膨らませて抗議し始めた。
「すまん、昨日までだったらお前だけを応援したがコーヒーとカップの恩がある」
「裏切者ー!」
両手を合わせて謝罪の意を示すものの、アルムの中で片方だけを応援とはいかなくなったらしい。
「いや、アルム。私の事は気にするな。友人の応援をしてあげたまえ」
「それは駄目だ。これは譲れない」
「……意外に頑固なんだな、君は」
アルムとエルミラに気を遣ったリニスの言葉もけ付けない。
エルミラは相変わらず不満そうだが、これ以上言っても無駄だと悟ったのか抗議の聲を止める。
「ま、いいか。よかったね、リニス」
「応援ができたからかい?」
「いやいや、アルムは優しいからさ」
エルミラの顔つきが変わる。
リニスもそれに応じて懐から杖を抜いた。
「負けてもめてくれる相手ができてよかったねって事」
「なに、そちらこそ三人もいるんだ。傷が癒えるのは早いだろう」
涼し気な挑発。
すぐに臨戦態勢になるのは魔法使いの卵ゆえか。
その様子を見てルクスはギャラリー席で立ちあがる。
「聲掛けは僕が頼まれている。二人ともいいかな?」
「よろしく、ルクス」
「いつでも構わない」
二人はルクスの聲に応えつつも互いから目を離さない。
「はじめ!」
「『蛇火鞭(フレイムスネイク)』」
聲掛けとともに先手で魔法を唱えたのはエルミラ。
人差し指で空をなぞるようにするとそのなぞった場所から火が形をしながら現れる。
なぞった先でエルミラが手を握ると、その手には火の鞭が握られていた。
「そお……れ!」
魔法で現れた武によってエルミラの攻撃のリーチは大きくびる。
エルミラは首を狙うように火の鞭を橫に薙ぐが、リニスはしゃがんでそれをかわす。
「『抵抗』(レジスト)」
補助魔法をかけてリニスはそのまま下がる。
しゃがみはしたが勢は崩れていない。
杖はそのままエルミラのほうを向いていた。
「『王の代わり』(スケープゴート)」
「黒……!」
リニスが唱えると、補助魔法が適応された輝きがリニスの全を包む。
『抵抗』(レジスト)の淡く白い輝きが、次に唱えた魔法で黒くリニスの全を包んだ。
エルミラは警戒するが、リニスのきが変わった様子も無ければ接近戦を仕掛けようという気配も無い。
「『炎熱魂』(フュエル)!」
ならばと、対抗するようにエルミラも補助魔法を唱える。
リニスを包んだとは似つかない炎のような激しく赤いがエルミラを一瞬包む。
「そら!」
エルミラの聲とともに火の鞭はリニスに向かう。
しかし、同じではない。
その鞭を構する火は先程よりも大きくなっていた。
「火力が……?」
かわしながらも放出後の魔法が目に見えて大きくなっていることにリニスは驚く。
形狀を変えられる魔法というよりはただ魔法の威力が上がっているような印象だ。
普通に考えれば魔力だけでここまで大きくなるのは考えにくい。
「……あれか」
考えられるのは今唱えていた補助魔法の効果しかない。
全にを纏わせていたが、察するににかかっているわけではなく自の魔法の火力を補助するもの。
このまま鞭を振るわれるだけでも厄介だが……。
「ありゃ」
「消えた?」
エルミラの鞭はリニスが何をするでもなく消えていく。
「相変わらず早いんだから……」
仕方ないと首を振り、エルミラは切り替える。
エルミラの使った『炎熱魂』(フュエル)は火屬の補助魔法。
一時的に火屬の魔法の現実への影響力を高めるが、放出後に一定時間が経つと強制的に効力を失うというもの。
消えるリスクを負う代わりに魔法の威力が格段に上がる。
すでに出ていた火の鞭はエルミラが消したのではなく、補助魔法の効力によって燃え盡きたのだ。
「『夢雲』(ポップクラウド)」
リニスはようやく放出を必要とする魔法を使う。
唱えるとともに出てきたのは漂う雲の形をした黒い魔法。
リニスの周囲に三つ出てきたが、漂ったままかない。
「見た事無いのばっか」
エルミラもおおよその予想はしているが、リニスが何の屬を使っているのかもわからない。
雲は水屬の魔法で出すやつがあるが、さっき纏った魔力は黒で水屬は青や水なのでありえない。
二屬使える天才という可能も一応あるが、それにしては戦法が消極的だ。
さっきの補助魔法も何か効果を表す様子は無く、リニス自が何を狙ってるのかわからない。
「こういうのは早期決著に限るね」
不気味な相手には何かさせる前にとエルミラは拳を握った。
「『炎竜の息』(ドラコブレス)!」
唱えるとともにエルミラは握った拳をリニスに向けて振りぬく。
拳から放たれるのは炎。先程の鞭のような自在さも無いが、その速度は火の鞭の比ではない。
ただただ一直線に。その魔法は橫に走る火柱のようにリニスへと放たれた。
「く……!」
リニスは杖を振るが、漂う雲はその魔法に反応できない。
雲の間を突き抜け、エルミラの魔法はリニスへと突き刺さった。
- 連載中3889 章
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