《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》30.疑2
「自決……!?」
「あれ、二人で合ってるよね? 一人はこの子が直接やったんだもんね?」
「ええ、そうです」
聞かされた三人の驚愕を無視してオウグスは報の確認をヴァンに求める。
ヴァンが頷くと、オウグスは続けた。
「うん、捕まった時の常套手段だね。毒を仕込んでたみたい。拘束してる場所に治癒魔法師が都合よくいるなんて事は無いから仕方ないかな。當事者の君達には一応伝えておかないとと思ってね」
「……そうですか」
アルムは呟き、その場で靜かに目を瞑って手を合わせた。
「それは祈り?」
「謝罪です」
「謝罪?」
「獲を自死させてしまった事への謝罪です……死ぬのなら、自分が手を下すべきだった」
両隣のミスティとエルミラにはアルムの言葉の意味はわからない。
敵の事を獲、と屋の上でも言っていたが、二人はその真意を聞こうとは思わなかった。
だが今のアルムの表は本気で悲しんでいるように見えて、自分が手を下す、という騒な発言とは噛み合わないようにじる。
オウグスはその謝罪の時間を待つように口を閉ざしていた。
「ありがとうございます」
しすると、アルムは合わせた手を離して目を開ける。
待っていてくれた禮なのか、小さく頭を下げた。
「終わったかな?」
「はい、続きを」
オウグスは再び手元の紙へと視線を戻す。
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「黒の外套に仮面、持っていた武から見て"ダブラマ"の偵だね。僕も見覚えのある恰好だった。
非公式の部隊だから向こうの國に言ってもまた知らんぷりで通されるだろうけどさ。どうせ國章とかも持ってないだろうし」
ダブラマはマナリルの西に位置する國で、マナリルと友好とも敵対ともいえない関係だ。
隣接している為、互いに意識している間柄ではあるが、深く関わり合うことはない。
魔法の技は高いものが多いが、マナリルに比べると魔法使いの數は劣っている。
その為か今回のようにマナリルに偵を送られることも珍しいことではなく、マナリルもダブラマの魔法を探るために同じようなことをしている。
今ではそれが一種の牽制のようになっているほどだ。
「で、片方が死に際に、"すでに目的は達した"って言い殘したらしい。君を殺そうとしたのは多分何らかのついでだったんじゃないかと思われるね」
「実は五日前にこの街にってきた商人が姿をくらましていてな。偵の存在はこちらでも把握していた」
ヴァンが報を付け足すとミスティは先日ヴァンが授業の時にってきた事を思い出す。
「昨日ヴァン先生が実技の時間に訪れたのはやはりそういう事でしたの」
「そうだ。學院を調べたが、異や見知らぬ魔石の存在は無かった。學院には直接何かしたわけではないが……この街が潛される理由はまず間違いなくこの學院かお前ら生徒だ。何かあるのは間違いない」
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「この街はお國的に重要な場所が學院くらいしか無いからね。それで面倒な事にね……アルム、君を襲ったのは三人だったね?」
確認を取るように、オウグスは指を三本立ててアルムに向ける。
アルムは間違いないと力強く頷いた。
それがオウグスにため息をつかせる。
「侵したの四人らしいんだよねぇ、でかい縦長の荷を運んでたって言うからその中にもう一人いたかもしれない」
「じゃあ、まだなくともここに一人いると?」
「うーん、どうだろ。死に際の、すでに目的は達した、って言葉を信じるならもう撤退してるんじゃないかなって。留まる理由が無いだろうしね、ブラフの可能もあるから捜索は続けるけど……一応やつらに襲われたアルムは気を付けてね、最後の一人が襲ってくるかも」
「無いと思います」
斷言するアルムに興味を引かれたのか、オウグスはを乗り出した。
ため息をついた面倒くさそうな表から一変して今度は楽しそうだ。
「お、どうしてだい?」
「彼らの戦い方は複數人での連攜でり立っていました。恐らく単獨で襲撃することはないかと……襲撃する気なら最初から四人で來ると思います」
「もう一人は別の役割があるってことだね?」
「はい、絶対そうだとは言えませんが」
自信があるわけではないのか、アルムの視線が何があるわけではない右下にく。
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しかし、聞いたオウグスは満足そうだ。
「いや、さっき言った通り僕も撤退したんじゃないかと思ってるからね。なくとも一人本國に連絡する人員が必要だし。となると、何しに來たんだろう、っていう話になってくるよね? 何だと思う?」
「そこまでは……貴族やら國やらの事は全くわからないので」
オウグスはアルムの平民らしい言葉を聞くと、今度はミスティとエルミラに互に視線を向ける。
忙しなく二人の間でく視線はミスティとエルミラを急かしているようだった。
「やっぱり私達の調査じゃない? 次代の脅威になるかもしれないわけだし、ベラルタはマナリル有數の教育機関だし」
「ふむふむ、それはあるだろうね」
エルミラが終わると、オウグスの視線はミスティに集中する。
粘りつくような視線がミスティに向けられるが、考えに耽っているのか無表だ。
それからしして、ミスティは口を開いた。
「この街、地下はございますか?」
「……あるね、どうして?」
「深い意味はございません。カエシウスの城には有事の際に出できるようにと隠し通路が地下に繋がっていますから、様々な場所から魔法使いの卵が集まるここにあってもおかしくないと思った次第でして……地下があるとすれば、地下を調査して本命の作戦を実行するつもりではないでしょうか? 魔法學院を強襲する、もしくはここにある何かを奪取する、といったような」
「うーん、可能はある。でも、それはないかな」
ミスティの予想は自分の家の構造に基づいた三人の中で最も的なものだったが、オウグスはないと斷言した。
「ここの地下は君の予想したような生易しい場所じゃなくてね、誰も(・・)ってはいけないんだ」
「どういう意味でしょう?」
聞いたミスティだけでなく、アルムとエルミラも訳がわからないという顔をしている。
「ベラルタの地下はその昔"シャーフ"という魔法使いが作ったものでね。
作っただけならよかったんだけど、そのシャーフが戦死する際に侵者を迷わせる統魔法が自立していて本當の迷宮になってしまってるんだ。一部の魔法使いの間では『シャーフの怪奇通路』と呼ばれてる」
「そ、そんな統魔法あるの?」
驚きでエルミラがつい聲を上げる。
統魔法は家の力を示し、こと戦闘において優位に立つ魔法使いの切り札だ。
戦時において有用があるとはいえ迷宮を作り出す統魔法など聞いたことがない。
しかも、そんな魔法が自立して今なお自分達の地下にあるなどとは夢にも思わなかったのだ。
「うん、るのは簡単なのがまた問題でね。ベラルタの町の何ヶ所かにり口があってその付近はどこも立ちり止さ。
その地下通路にって萬が一出れたとしても、そのり口が消えて新しいり口が作られるっていう徹底された統魔法でね。地下を調査して何かしようってのはまず無理だ」
「ったら出られないのですか?」
「いや、出るための統魔法があれば出れるよ。出口を探す統魔法とかね、でもそんな統魔法作る好きいないだろう?」
當然だ。統魔法はその家の力を示す切り札。
迷宮を作る、という統魔法すら珍しいというのに迷宮の出口を探す、なんて一點に特化しすぎている統魔法など誰も作るはずがない。
作ったとしてもその家の未來は見えている。
世界中が迷宮になるくらいの事がない限りその家の歴史は止まり、確実に衰退するだろう。
「自立した統魔法の核を見つけ出せればただの地下通路に戻るけど、ただでさえ迷う迷宮の中で魔法の核を見つけて破壊するなんて不可能だからね。核以外を破壊しても再生するから地下自を破壊するのも無理なのさ」
どうしようもない、とオウグスは肩をすくめた。
「なるほど……。申し訳ありません、ご期待に添えないようで」
「いやいや、直接遭遇した君達の意見を聞きたかっただけさ。元々襲った相手に自分達の目的を教えてるなんて思っちゃいないよ。て事でヴァン、引き続き調査しといて」
「わかりました、アルムが襲われた第二寮付近からあたってみます」
「よろしくね。じゃあこの話おーわり」
笑いながらオウグスは手元の紙をくしゃくしゃにした。
そして隅に置かれている筒狀のごみ箱をそのくしゃくしゃに丸めた紙で狙い始める。
「ところでアルム?」
「なんでしょう」
「君、戦い慣れてるの?」
「どういう意味でしょう?」
質問の意図がわからない、といった意味を含めてアルムは聞き返す。
「いや、急に三人の刺客に襲われて撃退、なんて同期の貴族達でも難しいと思うからね。魔法の腕はあってもいざ実戦となると難しいものさ、実際に戦う恐怖でが思うようにかなかったり、魔法がうまくいかなかったりね。それなのに君は三人相手に冷靜に立ち回って撃退したわけだろう?
あ、駄目だ。らない」
オウグスの投げた丸めた紙はごみ箱にはらず。オウグスはそれを拾いに行って、わざわざ椅子へと戻る。
まだ何かあるのだろうかとアルムはオウグスを訝しみながらも素直に答えた。
「……カレッラでは魔獣の狩猟は當たり前の事なのでその時の事を思い出していただけです。
あの三人は明確に俺の命を奪うと言いました。なら俺が命を奪うのもまた當然です。
當然のことに冷靜も何もないでしょう」
ミスティとエルミラはようやく理解した。
昨夜と今、襲ってきた黒い外套の男たちをどういった意味で獲と言ったのかを。
そのまんまの意味だったのだ。
アルムはいつか狩猟と魔法の知識しかない、と言っていた。
どんな生活をしていたかは二人には想像もつかないが、アルムからすれば魔獣だろうが人間だろうが関係ない。
全て同じ命のやり取り。
故郷で行っていた狩猟と変わりないのだと。
「なるほど、獲ってのはそういう事なんだね」
「はい、が殺されればそれはまた別の話だと思いますが……あの時は自分が直接狙われていて狀況は狩猟と何ら変わり無かったので」
「うん、やっぱ君なら大丈夫そうだなぁ……」
オウグスはゆっくりと何かを企むような笑みを浮かべてアルムのほうに顔を向ける。
そのままオウグスはごみ箱のほうを見ずに丸めた紙を投げれると、最初に外していたのが噓のように、丸めた紙は吸い込まれるようにごみ箱にっていった。
「二週間後から始まる"実地"については知ってるかな?」
「はい」
「うん」
「実地?」
ミスティとエルミラが當然のように頷く中、アルムだけは何の事だかわからないと単語で返す。
呆れるようにため息をつき、ヴァンがその疑問に答える。
「魔法使いは貴族の仕事の一つだが、大の魔法使いは國のあちこちに飛び、魔法使いが対処すべきと判斷された依頼をけて危険を取り除くのが主な仕事だ。経験を積んで実力をつけることで上にあがっていくわけだが……それを學生のうちからこなすのを"実地"と呼んでいる。
実際に依頼をこなすわけだから完遂すればその分名前も知られるようになる。他の魔法使いより學生のうちからリードするわけだ。
魔法學院って名前になっちゃいるが、うちはいわば魔法使いの卵で構された予備軍みたいなもんでな。魔法儀式(リチュア)みたいな制度を導しているのも生徒に戦闘を意識してもらうためだ」
ヴァンの説明を聞いて相槌を打つアルムにエルミラは苦笑いを浮かべた。
「というか、これは書いてあったよアルム……」
「え?」
「ええ、案に書いてありました」
「そ、そうなのか……」
アルムは申し訳なさそうに俯く。
學院の案図ならが開くほど見たというのに全く覚えが無い。
「本當は配られるリストの中から依頼を選ぶんだけど、君はこちらから指定させてもらうよ」
「な、何故?」
突然の理不盡な通達につい敬語も消えて、素のまま聞き返すアルム。
オウグスはにっこりと笑いながら続けた。
「そりゃあ、すでに他國の偵を倒すような魔法使いの卵に簡単な依頼をうけられたらつまんないだろう?」
つまるつまらないの問題なのかとアルムはつっこみたくなるが、オウグスの言い分もわからなくはない。
力ある者にはその力に見合った果が要求されるものだ。
しかし、不意のトラブルに巻き込まれただけのとしては何かもやもやが殘るのも事実だった。
「心配しなくても難しい依頼を任せるわけじゃない、君に合った依頼というだけさ。
山から町に降りてくる魔獣を撃退してほしいとのことだ」
どんな無理難題を吹っ掛けられるのかと構えていたが、思っていたより容は普通でアルムはほっとする。
「魔獣が來るようになったのは最近で、今は町で対処できているが、いつ被害が出るかわからない。だから町に來る魔獣を撃退しつつ原因を探ってほしいという話だ。
原因を探るなら山にらないといけないかもしれないし、山に慣れている魔法使いなんて今の貴族では珍しいからね。どうしようかと思っていたとこに君のような適任がいたから押し付けようってだけの話さ! んふふふふ!」
笑いながら正直に貧乏くじを押し付けたと告白するオウグス。
不意にトラブルに巻き込まれただけにも関わらず、それをきっかけに貧乏くじを引かされる羽目になったアルムはがっくりと肩を落とす。
しかし、斷る理由も無い。
カレッラは周りが自然に囲まれていて當然周りには山もあり、慣れている。
アルムにとってはもってこいのフィールドでもあった。
「まぁ、そういう事なら」
「よしよし、いい子だ。いやぁ、最初って普通は討伐だけの簡単な依頼をやらせるんだけど、一つだけ原因解明の依頼があったからどうしようかと思っていてね。よかったよかった」
これで安心というかのようにオウグスは背もたれに寄りかかる。
そんなを聞かされたアルムは半分不安で半分複雑だ。
「學院の授業形式としては最低で二人、最高で五人まで同じ依頼に同行できることにしてある。あんまりぞろぞろ同じ依頼に行かれても評価に困るからね、まぁ、最初の実地だから二人はお勧めしないかな」
「五人……」
「當然、同じ依頼をこなす人をえるかは君次第だけどね」
「わかりました」
「じゃ、これで話は最後だよ。また昨夜のやつらについてわかった事があれば君には知らせるよ」
「ほら、もう座學に戻っていいぞ」
呼び出したにも関わらず、ヴァンはしっしっと追い払うように手を振った。
獣を追い払うような仕草にエルミラはしいらっとしたが、おみならすぐにでもとミスティの手を引いた。
「じゃあ行こ」
「あ、し、失禮します」
「失禮しまーす」
ミスティは手を引かれながらも頭を下げ、エルミラは言葉だけで部屋を後にする。
アルムもそれに続こうとした時、
「あ、そうだ。アルム」
オウグスがその背中を呼び止める。
その聲に応じてアルムは振り向いた。
「最後に一つ。君普段行くとこあるかい? 聞き込みする時の參考にしたくてね」
「いえ、まだ街に慣れてなくて……學院と寮以外には行きません」
「……そうか、わかった。呼び止めて悪かったね」
オウグスがそう告げるとアルムは會釈して部屋を出る。
三人が廊下を歩く音が離れていくと、まずヴァンが口を開いた。
「學院と寮の間に異や何かされた形跡はありませんでした、あったのは戦闘の跡だけです」
「うん、悪い予想が當たっちゃったねぇ」
オウグスは機の引き出しから一枚の紙を取り出す。
その紙には今年ってきた生徒の名前がずらっと書かれたリストだった。
傍に置かれた羽ペンを手に取ると、アルム、ミスティ、エルミラと順に名前を橫線で消す。
「生徒の中にスパイいるね、これ」
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