《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》31.五人目
「ルクスの何それ」
「むぎちゃっていう飲みなんだけど、知らないかい?」
「知らない……おいしいの?」
「飲んでみるかい?」
「……一口」
時間は正午過ぎ。午前の座學を終えていつも通りカフェテリアで四人はお茶の時間を楽しんでいた。
場所はその時々で違っており、今日は四角いテーブルを男で向かい合うように座っている。
エルミラはルクスの飲む麥茶という飲みに興味津々なのか、ルクスにコップを手渡されると恐る恐る口をつけていた。
「學院長は有名なのか?」
その隣では學院長について質問するアルム。
正面のミスティがその疑問に答えてくれている。
「ええ、元々は王の側近の宮廷魔法使いだったはずですわ。そのせいか屬や統魔法は公開されてませんね。
十年くらいは王の側近に就いていたとお話を聞いたことがあります。王の側近は王の暗殺を試みる刺客を発見して撃破する役割もございますから、そこに十年もいたという事は腕もかなりのものかと」
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「王の……側近……」
アルムには王様のいる場所など全く想像つかない。それこそ本の中のお話だ。
等間隔に置かれた白い柱に赤いカーペット、脇には兵隊が並んでおり、そのカーペットの先の玉座に座る王様の姿。
子供の頃に読んだ絵本の一頁が思い浮かんだ。
しかし、オウグスがその王様の傍に控えていると思うと全くイメージがわかなかった。
「あ、おいしいね。好みが分かれそうな味ではあるけど、私は好きかな」
「だろう? 昔から気にってるんだ、ここにあるとは思わなかったけどね」
ルクスはエルミラからコップをけ取ると、そのまま口に運ぶ。
「あ……」
しかし、エルミラの口からし聲がれ、その手を止めた。
「どうしたんだい?」
「……なんでも」
「?」
エルミラはついルクスが麥茶を飲む姿を凝視してしまう。
飲んでる本人はそんなエルミラに気付く様子も無くコップを機のコースターに置いた。
「それにしても、最初の実地が學院長からの指定とは、期待されてるんじゃありませんか?」
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「いや、あれはただ厄介事を押し付けただけだろう……」
「そういえば人數を揃えないとね」
ルクスは三人が學院長から話された事を既に聞いており、アルムの実地が指定された事についても把握している。
この街に偵がまだ一人潛んでいると聞いても、ルクスにとっては大して珍しい事ではないようで聞いても平然としていた。
「ああ、萬全を期して五人で臨みたいが……平民の俺が一緒になると集まるかどうか……ルクスのように顔見知りが多いわけじゃないから報も無しにわなければいけないしな」
「まぁ、それは仕方ないよ。貴族は良くも悪くも広く淺くだからね。でも、あと一人なら何とかなりそうじゃないか?」
「どうだろうか…………ん?」
言いかけて、おかしい事にアルムは気付く。
余りにも自然だったが、數がおかしい。
いくら平民とはいえ、流石に一桁の足し算を間違えるほどではない。
「待て、誰をカウントしてる?」
「そりゃ勿論……」
隣にいるアルムを見ていたルクスが正面を向く。
ルクスの向いた先には當然ミスティとエルミラ。
二人とも勝手に頭數に數えられていたにも関わらず、特に驚いた様子も無く、ミスティはいつも通り背筋をばして姿勢正しく座り、エルミラは何故かぶすっとした表で機に肘をついて顔を支えている。
「それに僕は當然行くよ?」
「それは助かる、助かるが……ルクスは勘違いをしている」
アルムは普段発揮されない察しの良さを見せる。
心で自分を褒めたほどだ。
直接呼ばれていないルクスは呼ばれた三人ともが同じ指示をけたと勘違いしてるのだと。
「俺達は一緒に呼ばれたが、実地について決められたのは俺だけだ」
「うん、知ってるよ。襲ってきた相手を返り討ちにしたのは君なんだからそりゃ君だけだろう」
「……あれ?」
アルムは目をぱちくりさせる。
全てわかっていたのなら、何故あと一人と言っていたのだろうか。
自分とルクスで二人、それならあと三人のはずだ。
「ミスティ殿とエルミラも來るだろうからもう四人だよ」
「いや、待てルクス。二人は話を聞いてはいるが、行くとは一言も言っていない。それにまだ他の依頼のリストも出ていない狀況だ。
それに、ルクスも一緒にと言ってくれるのはありがたいが、もうし考えたほうがいいんじゃないか? せめてリストが出てからでも遅くは無いはずだ」
そんな遠慮をするアルムに斜め前からため息が一つ返ってくる。
「あのね……あんたがもうし考えなさいよ」
「む」
ため息の主はエルミラだ。
半目で視線の先にいるアルムに呆れている。
しかし、これにはアルムも納得がいかない。自分は間違っていないはずだと確信を持って反論する。
「これでも考えているつもりだ。そりゃあ二人をうつもりではあったが、勝手に頭數にれるのは間違っているだろう。自分がえば來てくれるなどと思い上がったりもしていない」
「ほら、考えてないじゃないの」
なお考えなしと言われたアルムはわけがわからなくなる。
困ったように視線を泳がせていると、正面のミスティと目が合った。
「うーん、そうですね……私は今日の學院長の話を聞く前からアルムやルクスさんと行こうと考えていましたよ?」
「な、何故だ?」
「うふふ、何でだと思います?」
ミスティに聞かれてアルムは思案し始める。
しかし、三人がすでに同行を決めている理由など全く思いつかない。
ただでさえ何かを察するのが得意ではないアルムにこの問いかけは難問だった。
……一つ、思い付く事はある。
だが、まさかこれではないだろう。
アルムは控えめに三人の顔を順に見渡す。
そして恐る恐るその思い付いたものを口にした。
「と、友達だから……?」
すかさず、アルムの頭にエルミラの手刀が振り落とされた。
「いでっ」
「何恥ずかしい事言ってんのよ!」
予想はしていたが、やはり正解では無いようでルクスは想笑いを浮かべ、ミスティは子犬を見るような優しい目でアルムを見ていた。
「まぁ、完全に間違いではないから……」
「純粋でよろしいじゃありませんか」
そしてその視線はアルムだけでなく、エルミラにも向けられる。
「あと顔真っ赤なエルミラもどうかと思うぞ」
「あら、エルミラはこういう所が可いんですよ?」
「うるさいミスティ!」
「あら、怒られてしまいました」
嬉しそうに微笑むミスティにエルミラは何も言えない。
ふとエルミラの頭に昨夜のミスティをからかっていたラナが思い浮かぶ。隣で楽しそうに微笑むミスティはその時のラナを彷彿とさせた。
どうやら一緒にいるとこういう所まで似るらしい。
悪戯っぽい笑みは普段お淑やかなミスティによく似合っている。
「こほん……い、一緒に行く最大の理由は互いの魔法を把握してるからだよ」
いくら睨んでもそれを微笑ましくけ止めてしまうミスティには敵わないと踏んだのか、エルミラはミスティの相手を諦めてわざとらしく咳払いをする。
その姿はまるで自分を無理矢理落ち著けているようだ。
「私達は四人とも互いの屬を把握してるし、ミスティ以外はある程度の実力も計れてる。これから新しく別の人と組んで魔法をばらしでもしたら今後の魔法儀式(リチュア)で不利になるでしょ?
私達はもう互いに魔法を把握してるからそんな心配も無いってわけ」
なるほど、と納得するアルムにさらにルクスが付け足す。
「というか、積極的に魔法儀式(リチュア)を行った人や同期と関わり合いを持った人ほど得しやすい形にわざとしてるんだろうね。魔法儀式(リチュア)への積極や人間関係の円さを求めてるんじゃないかな」
「魔法使いは依頼で即席のチームを組むことも珍しくないですからね」
アルムは魔法使いに憧れてはいるものの、その実をほとんど知らない。
そんな意図があったのかとただただ素直に心していた。
ここまで説明されればアルムにも五人目にどんな人が適しているのかを理解できる。
「という事は、最後の一人も今後の魔法儀式(リチュア)に影響の出にくい相手がいいんだな……」
「まぁ、そうなるね」
無意識にに手を當て、視線を機に固定したままアルムは考え始める。
その表はし険しく真剣なものだ。
思ったよりも固いその様子にルクスは付け足す。
「けど、そんな都合のいい人はあんまいないから気にしなくてもいいと思うよ」
「ああ……」
すでに四人は見知った顔が揃っている為、最後の一人にそこまで神経質になることはない。
そう伝えても、聲が耳にってきていないようでアルムの様子は変わることはなかった。
「ルクスの魔法儀式(リチュア)の相手とかは? 直接勝ってるわけだし、実力が上だとはっきりしてるルクスがえば來るんじゃない?」
エルミラの提案にルクスは唸りながら腕を組む。
「どうだろう……全員僕を馬鹿にしてた人達だからね、変なプライドで依頼中に何かしてくるかもしれないからあまり組みたくはないかな」
「あぁ、そういうのいるよね……」
「昨日エルミラと戦ったリニスという方は?」
「えぇ……」
「あら、不満ですの?」
「いや、何かすっきりした勝ち方でも無かったし……避けてばっかりで実力もよくわかんなかったしなぁ……」
三人が意見を出し合う中、アルムが顔を上げる。
「なぁ、一人適任だと思う人がいるんだが」
アルムの聲に三人の注目が集まる。
意外そうにエルミラは聞き返した。
「アルムって私達以外に知り合いいたの?」
「知り合いというか……今朝知り合ったな」
三人は納得したように頷いた。
確かに適任だと。
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