《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》38.ドラーナの言い伝え
ドラーナに著くと同時にモーキスとマレーネを町の人に預けて事を話すと、すぐに町長の家まで案してくれた。
町は思ったより小さくはあったが、自然を満喫できる広大さを持ち合わせていた。
建てられた家の一軒一軒の間隔が丘や庭を挾んで広く、建が固まっているところは観客向けの場所であり、宿や食事処が多い。
「よくいらしてくれました、町長のゴレアスです。まずはお禮を言わせてください」
「ベラルタ魔法學院から來ました代表のルクス・オルリックです。依頼で來たのですから當然のことです」
町長の家に著くと自己紹介もそこそこにルクスは町長のいるテーブルの対面に著く。
アルム達四人は後ろで待機だ。町長の後ろにも町長の妻であろう夫人が立っている。
町長は四十代後半といったところか。がっちりとしたつきだが、白髪じりの頭部が最近の心労を思わせる。
羊が収源というだけあって著ているものは土でし汚れてはいるものの上質で、手いの模様が施されていた。
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町長はルクスの家名を知っているようで、ルクスの名前を聞いた瞬間、表が明るくなる。
「おお……オルリック家の……」
「後ろの四人の紹介は省かせて頂きます。し急ぐ必要があるかもしれませんので、必要に応じて聲をお掛けください」
「魔獣に怯える私達にはありがたいですが……何か思う所が?」
ドラーナに著くまでの間にアルム達は誰が代表として町長と話すかを話し合っていた。
いや、話し合いというには余りにも短く、ほとんど確認といっていいだろう。
というのも消去法で二人に絞られるからだ。
アルムはまず卻下。同じベラルタ魔法學院の生徒とはいえ、アルムは平民だ。戦闘時はともかく公的な場所で代表として前に出すには立場が弱すぎる。
同じ理由でエルミラも。貴族ではあるが、家の名も知られておらず、その立場はアルムよりましというだけでこの中ではアルムに次いで弱い。
ベネッタは家柄として上のミスティを差し置いて前に出るのは相手に違和を抱かせる。
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そんな事をして下剋上だの実力はベネッタの家のほうが上だの勘違い甚だしい噂が流れる可能もある。そんな噂を立てられては別の所で支障が出る。
小さなひびから家同士のいざこざに発展するなんて事になってはいけない。
必然、生徒であっても名を出して相手を安堵させられる知名度の家名を持つルクスかミスティになるのだが……代表はルクスがいいだろうと満場一致。
助けた二人の信頼を真っ先に得ているのと、決める際にミスティが、
「あの、私が代表だと言って甘く見られませんでしょうか?」
と自の小柄さを自したのが決め手となった。
アルムがルクスにどういう意味だと耳打ちしていたのは二人だけのである。
「後ろのアルムは魔獣についてある程度の知識があります。そのアルムが魔獣のきがおかしいと判斷しました。依頼書にあった通り山で何かある可能が高い。こちらに山に詳しい方は? 狩人を生業としている方などはいませんか?」
「いえ、そんなものはおりません……魔獣が町までというのは最近でしたからな。町の周りに広がる平原は放牧で何度も訪れますが、人を襲うような生きは今までいませんでしたから……」
「そうですか……アルム、君は?」
ルクスは後ろのアルムをちらっと見る。
ルクスの視線に含まれているのは期待だ。
自然に囲まれているカレッラに住んでいたアルムならば何とかなるんじゃないかと。
「……見た限り小さい山だが、流石に知らない山を案無しでは時間がかかる」
「そうか……そうだよな」
「山道があればまた別だが……」
アルムが町長の顔を窺うと、町長は困り顔で俯く。
「この町ではあの二つの山にるものはありません。言い伝えもありますから」
「言い伝え?」
「はい、かつてこの町を治めていた魔法使い様のことはご存知でしょうか?」
ルクスは頷く。
この報は馬車で皆確認済みだ。
「スクリル・ウートルザですね、魔法使いの世界でも地屬魔法の第一人者として今でも名が殘っています」
「はい、そのスクリル様はこの町では守り神のような存在なのです。あの二つの山を創られたのもスクリル様だと言い伝えられています、山の名を"ベルグリシ"といい、二つの山は彼の目となって今も私達を見守ってくれていると……そして見守って下さるスクリル様の目に止まった者はその願いを葉えて頂けるという言い伝えもございます。だからこそ私達は今のドラーナが変わらずよい場所だとスクリル様に見て頂く為にこの町で働くのでございます」
「ん?」
町長の話にアルムが反応する。
町長の話はアルムにとってどことなく聞き覚えのある話だった。
「エルミラ」
「なに?」
「あの本に書いてあったやつじゃないか?」
「え? ……あー、確かに。ここの事だったんだね」
以前、エルミラが寮の共有スペースで読んでいた本の容だ。
エルミラがざっと並べた寓話の中に願いを葉えてくれる二つの山の話があった。
読んだエルミラもこんな近くにその話の舞臺があるとは思っていなかったのか、アルムに言われるまで忘れていたようだ。
「ここに観に來られる方がいるのもその言い伝えがあってこそでございます。ここら辺で山があるのはここだけですから珍しいというのもあるでしょうな」
「そんな山に僕達がっても大丈夫なのですか?」
「いくら守り神だと崇めていても町民の安全には代えられません。それにこの町はあなた方のような魔法使いがいるわけでもありませんから、私達ではわからぬ事がわかるかもしれないと依頼したのです。それにスクリル様の怒りだという方もいらっしゃるので山にろうとする者はいませんから何も解決しないのです」
そんな言い伝えがあるのなら確かに町民が山にるような事はないだろう。
周りは平原で、町の人が見たことの無い魔獣が襲ってくるとあらば消去法で出所はあの二つの山だけとなる。
それなら怒りと思う者がいてもおかしくはない。
やはり、山に何かありそうだと確信し、ルクスは席を立った。
「そうですか……では、さっそく調べたいと思います。滯在の為の宿だけお願いできますでしょうか?」
「わかりました、夜までにはこちらで用意しておきます」
「お願いします」
町長に宿をお願いし、ルクスは後ろで立っていた四人へと向き直る。
「話の通り、あのベルグリシという山を調べようと思う」
「二手に別れたほうがいいですわね、町を守る戦力がいたほうがいいですわ」
ミスティの提案にルクスが頷く。
「うん、そうだね。山の調査の方に數を割くとして、二人は町に殘ろう」
続いて、ベネッタが何か案があるのか挙手した。
「ルクスくんー、山の探索についてはボクに任せてくれないかな?」
「ベネッタが?」
驚きの聲はアルムから。
ベネッタは山を駆けまわるタイプには見えなかったからだ。
信仰屬は唯一他人を治癒できる屬だ。魔獣が住んでいるであろう山に飛び込む危険を冒すよりも町で待機し、有事の際にくほうがいい。
そんな事はベネッタ自がよくわかっているだろう。
「ちょっと案があるんだけどー……駄目?」
「……わかった、何かあるんだね?」
「うん」
ベネッタの頷きに皆異存はない。
ここまで言うのだから何か考えがあるのだろう。
「なら俺とベネッタは確定だな。ルクスは町に待機したほうがいいだろう、町を襲う魔獣も苦にならないだろうし、何より山に異変があれば一番に駆け付けられる」
「アルムの言う通りだ、僕はこの町や言い伝えについてし調べてみる」
「それなら、山に行くのは私になりますね」
「そうだね、ミスティのがいい」
アルムの話を聞いてミスティも山の調査に立候補する。エルミラも納得しているようだ。
「何故だい?」
しかしルクスには理由がわからなかった。
ミスティは北の領地を統べる家で北には雪山もあるが、ミスティ自が山に慣れているとは思えない。
どちらかといえば素の能力が高いエルミラのほうが適任だと考えていたが……。
その疑問に答えたのはアルムだった。
「エルミラだと萬が一魔法を使わざるを得ない場合になった時、山を燃やしてしまうからな」
「そうそう」
「ああ、そうか!」
そう、エルミラは火屬魔法の使い手。山を包む木々の中では魔法を使いにくい。
エルミラの魔法で出た火はエルミラの意思で消すなりできるが、燃え移った火をどうこうする事はできないのである。
「じゃあ出ようか。町長、お邪魔しました。また夕方か夜頃に立ち寄ります」
「わかりました、どうか調査のほうよろしくお願いします」
町長とその夫人に頭を下げられ、アルム達もそれに會釈する。
ルクスが出ていこうと扉に手をかけた時、一つ聞き忘れていた事を思い出した。
「そうだ、聞き忘れていました。領主のルホル殿に連絡はされましたか?」
「はい、しましたが……ルホル様が調査をする事はないと思われます」
「どういう事です?」
実際に疑問を聲にしたルクスだけでなく、聞いたアルム達もどういう事なのかという顔をしている。
馬車の中でも話したが、領地のトラブルに領主が対応しないのは何故なのか。
調査する事はないと町長にすら思われているという事は、今の領主であるルホルという貴族はよほど信頼がないのだろうか?
しかし、その考えはルクスの疑問に答えた町長の言葉で覆る。
「スクリル様の怒りだとおっしゃったのが、そのルホル様だからです」
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