《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》40.明日に向けて

アルム達が山から戻った時にはすでに夕方だった。

ベラルタから馬車を乗ってきた事に加え、ドラーナに著くなり山を登った三人は特に疲れがたまっている。

そんなアルム達を癒してくれたのは浴場だった。

本來は観客用に用意されている施設だが、お金さえ払えば地元の人間もることが出來る。

客用ということで平民がるには値は張るが、たまに日々のご褒としてりにくる町の人間もいるようだ。

ベラルタにあるものに比べれば浴槽だけという簡易的なものだったが、疲弊したにはありがたく、アルム達は長い間っていた。

そのせいか上がった時には日が落ち、すでに夜が訪れていた。

の客がいるせいなのか、観客用の施設が集まる一角は燈りが長い間燈っており、夜だというのにまだ店も出ていて鼻孔をくすぐる味しそうな匂いが湯上りの客たちをする。

そんなを掻い潛り、一日の疲れを癒した五人は山の調査と町の調査、互いの結果をしっかり報告しあう為に用意された宿に集まった。

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宿も観用の町の一角にある宿を案されており、男とで別れている。

男部屋は二人なのでし部屋が小さいが、贅沢を言うものなどいない。アルムに至っては狹いとすら思っていなかった。

実際アルムにとっては広いほうなのだ。

今はその男部屋に五人は集まっている。

「魔獣がいない……ちなみにどうやって調べたんだい?」

「ボクの統魔法は範囲にいる魔力持ってる生きを全て見れるって魔法でー、その時に山にはアルムとミスティしかいなかったの。魔獣は絶対魔力を持ってるからボクの魔法に映らないってことはいないってことー」

そんな簡単に教えていいのかとエルミラはしツッコミたくなったが、ぐっと抑える。

ベネッタが統魔法を明らかにしてくれたおかげで山の狀況を一気に把握できたのだ、その點についてとやかく言うのは野暮である。

「だけど収穫かどうかって言われるとー……微妙かな……?」

「そんな事は無い。ベネッタのおかげで明確に異変がある事は確認できた、山に住む魔獣のフォルスを平原で見かけて山にいないなんて事はありえない。やはり何か異常な事が起きているんだ」

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そう言って落ち込みかけたベネッタをアルムはフォローする。

アルムはフォローしているつもりではなく、確信を持てた事に対する當然の評価を述べただけだが、役に立てたか自信が無かったベネッタにとっては十分な勵ましだった。

「平原に魔獣を引き寄せる何かがあるのか、それとも魔獣が山の異変に気付いて山から離れているか……」

「私は山だと思う。ね、ルクス」

エルミラが何か確信を持ったように山だと斷言する。

エルミラが同意を求めると、ルクスも頷いた。

「うん、こっちも収穫といえるか確信が持てなかったが、今の話でし力になれるかもしれない報がある。この町の言い伝えについてだ」

「スクリル・ウートルザについてですね?」

「そう、スクリル・ウートルザの言い伝えだ。流石に本のように記述してあるものは殘っていなかったけど、口承で伝わっているものをエルミラと手分けして片っ端から聞いてきた。その中に気になる言い伝えがあってね、町長があの山……ベルグリシを作ったのはスクリル・ウートルザだって話をしてたのは覚えてるよね?」

話を聞いているエルミラを除いた三人が頷くと、ルクスはさらに続けた。

「あながちただの言い伝えじゃないかもしれない」

「どういう意味ー?」

「スクリル・ウートルザのはね、どうやらあの山に眠っているらしいんだ」

ベネッタのどういう意味かという問いの答えにはなっていないように聞こえる。

しかし、なるほど、と橫のミスティは納得したように呟いた。

統魔法が自立しているかも、という事ですね?」

「その通り」

自立した魔法を相手にするのは魔法使いの主な仕事の一つだ。

自立した魔法はほとんどが統魔法である。け継ぐものがおらず、そのまま使い手が死んでしまった統魔法が特に多い。

統魔法が使い手の死後、使い手のや骨、生前の用品などを核として、生前にあるはずも無い意思を持ってその地に留まり影響を及ぼす。

これが魔法の自立化である。

使い手の死後に魔法がき続けることから"死者魔法(リビングデット)"とも呼ばれ、その統魔法の歴史によっては厄介極まりない。

その行は生前の統魔法の効果を周辺に及ぼすものや、その地に訪れたものをただ襲ったりと様々だ。

弱點は自で核をかす事ができず、魔法の意思で自由に移ができないことであり、これがその地に留まる理由である。

今回の事件の原因はその自立した統魔法なのではとルクスは予想しているのだ。

「それなら魔獣が住んでる場所から離れてるのも説明がつくね。魔獣は魔法とか魔力に敏だから逃げてきたのかも」

「自立した統魔法は生きじゃないからボクの統魔法で見れないのも納得だねー」

「なら、その墓の周辺を探して自立した統魔法の核を破壊すれば……」

「異変が収まる可能は高いと思う。場所については口承では伝わっていなかったし、町の人も山にったことが無いから知らないと言っていたが……これを見てくれ」

ルクスは布を取り出し、広げた。

それは木綿と羊で編まれたタペストリーだ。

人々が祈りながら膝をつき、その前には果や羊などが置かれている。

そして人々の視線は供の奧にある二つの山とその二つの山の間に立ち上る太のようなに注がれていた。

決して巧とはいえないものだが、人々が何かに供をささげている姿が織られているということがわかる。

「鞍部か」

「鞍部?」

気付いたのはアルム。

聞かれてタペストリーの鞍部にあたる部分を指差す。

「山と山の間の谷みたいなとこのことだ。スクリル・ウートルザは守り神と言っていただろう? それでこの膝をついてる人達はこのに視線を向けている。このに供を捧げてるってことはこのがスクリルを表してるんだろう。昔は墓の場所がわかっててその方角に向けて祈りを捧げていたのかもしれない」

「僕もそう思ったんだ。これは観客用の民蕓品でね。観客が來るのは言い伝えがあるからと町長が言っていたからこういうのがあると思ったんだ。店主に柄のことを聞いても昔からある柄なのだと言っていた。言い伝えが事実だとしたら闇雲に探すよりも可能はあると思う」

「それに他に手掛かりがあるわけじゃないからな。じゃあ明日は鞍部を目指そう。無かったらまた別の手掛かりを探せばいい」

「そうですね。原因が自立した統魔法だとすれば範囲は広くても山の中だけだと思います。山にらなければ魔獣以外からの被害は町にはないので、即座に危険になる事は無いでしょう」

予想通りならただちに町に危険は及ばないとミスティが補足して、明日の行方針が固まっていく。

「本來なら全員で行きたいが、町に來る魔獣を無視することはできない。今日と同じように二手に別れよう。

誰が山に行くかだけど……」

「とりあえずアルムは確定でしょ。山に慣れているし、自立した統魔法と出くわしたとしてもルクスの統魔法を破壊できる火力があるってのはわかってるんだし、適任適任」

「うん、僕もそう思う。アルム、いいかい?」

ルクスが聞くとアルムは迷うことなく頷いた。

「いいも何も、數ない活躍できるフィールドだ。當然行かせてもらう」

「私は今日と同じ理由で當然駄目だし……ベネッタもその統魔法からして魔法の破壊は向いてないよね」

エルミラは言いながらベネッタに目をやる。

ベネッタは山を登った疲れからかし眠そうに目をこすった。

「うん……元々魔法使い同士の戦闘前提の魔法だから……ね……」

「なら明日は私とベネッタが町で殘るよ。魔獣が襲ってきても數が多くなければ私だけでも十分対応できると思う。ベネッタの統魔法があれば數が多いのもすぐわかるだろうし、私だけで無理そうだったら空に魔法撃って知らせるよ」

「わかった、ミスティ殿もそれでいいかな」

「ええ、この三人なら魔法に出くわして全滅、という最悪の事態は無いでしょうし……問題ないかと」

騒な想定をするミスティ。

確かにあらゆる事態を想定しているのはいい事なのだが、平然と言ってのけるミスティに隣に座るエルミラはを引く。

「な、なんですのその目は……」

「いや、恐いこと言うなあって……」

「それじゃ明日のきも決まったし、こんなとこかな。ベネッタはもう眠いみたいだしね」

「もうちょっと大丈夫…」

「ベネッタ、無理しないほうがよろしいですよ」

「やだー……もうちょっと皆と話すー……」

「子供ですかあなたは……」

呆れながらもミスティはベネッタをゆっくりと立たせる。

エルミラもそれを手伝ってベネッタのを橫で支えた。

「ほら、話すならあっちの部屋でね」

「やだー……アルムくんとルクスくんとも話すー……」

「はいはい、明日ね明日」

「運ぶか?」

アルムが立ち上がるが、エルミラは片手でアルムを制止する。

「いや、大丈夫。部屋にったら々見られちゃうから」

「そ、そうか……気を付けろよ」

今のやり取りで何か思いついたかのように、エルミラは悪戯っぽい笑みを浮かべながらルクスのほうに振り向く。

「見たい?」

「いいから早く寢なよ……」

「素直じゃないなぁ、ルクスは」

エルミラはルクスの冷めた反応にもからかうように笑う。

せめてこれくらいはとアルムは先回りして部屋の扉を開けた。

「ありがとうございますアルム。二人ともおやすみなさいませ」

「ああ、おやすみ」

「二人ともお先にー」

「ああ、何かあったら遠慮なく來てくれ」

そして五人は床に就く。

明日は今決めた予定通りにくことが決まっている。

町に著く前からトラブルが起きるような事は無いだろう。起きるとすれば山にってからだ。

しかし、五人が次の日を迎えた時。

宿を出る前からすでに予想外の出來事は起きていた。

起きていた、というよりも來ていた。

「君達がベラルタ魔法學院から來た生徒だな!?」

「そう、ですが……」

次の日の朝。

準備を整え、宿を出た五人を待っていたのは一人の男だった。

五人を待ち構えていたかのように宿の前に立っていたその男は寶石があしらわれたイヤリングと指に著け、著ている服にも華な裝飾が施されている。その後ろには使用人らしき老人が立っていた。

朝早くにしては大きい聲が町に響く。

自分こそ貴族だと主張するかのような恰好をしたその男が誰なのか、五人はすぐに予想がついた。

「この地を治めるルホル・プラホンだ。この地を救おうとする若者が來たと聞いて領主自ら駆け付けてやったぞ」

長いですよね、すいません……

一応、一部のラストのお話となってますので、これからも是非お付き合いください!

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