《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》46.侵攻2

人造人形師(ゴーレムサモナー)。

魔法使いの中でも"召喚"を得意とする魔法使いの総稱である。

召喚は通常の魔法と異なっており、使い手の周囲にある素材を利用する、もしくはすで自で作り上げたものを呼び出す、のどちらかを魔法の三工程における変換の代わりに立させる事ができる魔法だ。

前者は形や質の変換を使い手の周囲の素材を使うことで代わりにしており、後者は変換の工程そのものを代わりにしている為、通常の魔法よりも構築が早いのが特徴だ。

しかし當然メリットばかりの魔法ではない。むしろデメリットのほうが目立つ魔法である。

一つは周囲に魔法に合った素材が無い場合、使うことすらできないことだ。

例えば、ルホルの使った『召喚・土人形(サモン・クレイマン)』は木で作られた建の中にれば発すらしない。

周囲が木というのなら、木を使った召喚の魔法を、石ならば石を使った召喚の使う必要がある。

素材も一定量必要な為に持ち運ぶのも現実的ではない。

二つ目に、召喚にも自の屬が影響するということだ。

魔法である以上、屬の変換が必要なのは當然であり、自の屬のものしか召喚することができない。

ルホルであれば地屬の召喚魔法を、ミスティであれば水屬の召喚魔法を。

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が創造したものであれば屬の変換が必要ないので、他の屬のものも呼び出せるが、それも自の魔法で作るものがほとんどなので変わらない。

この大きな二つの問題から、召喚は狀況に合った魔法をいざという時に使えない上に対応力が非常に低いとされる。

それに加え、多くの魔法使いから変換が不得手な魔法使いが使う落ちこぼれの魔法扱いされており、使い勝手の悪さも相まって魔法使いの間では敬遠されている。

「なるほど、あの噂はそういうことでしたか」

かつて聞いたルホル・プラホンが魔法が不得手という噂は召喚を使うからだとミスティは納得する。

人造人形師(ゴーレムサモナー)は地屬か水屬の魔法使いが多い為に、ミスティも召喚について勉強していて知識だけはある。

ミスティ自も召喚魔法は使い勝手の悪い魔法だと判斷して習得をしなかった。

だが、使い勝手が悪いと思ってはいても落ちこぼれの魔法だと思ったこともなかった。

狀況を選ぶ魔法だが、狀況が揃っていれば大きな効果を発揮する事をミスティは理解している。

特に、魔法の構築速度が速いという點については関心を覚えた記憶があった。

「僕が魔法が不得手という話かい? 間違いではないよ」

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もう一度、ルホルは自分の指に口づけをする。

再びその指は淡く茶に輝いた。

「『召喚・土人形(サモン・クレイマン)』」

再び土の人形が地面から生えてくる。

召喚されるのはまたも七

恐らくそれがルホルが召喚できる最大數だ。

「『水針(アクアニードル)』」

だが、その土人形は一蹴される。

ミスティの周囲に水の針がまき散らされる。

土人形に刺さっただけでなく、周囲の木々にまでその針は突き刺さる。

召喚された土人形のの一がルホルの盾となり、ルホルに針が屆くのは防いだ。

土人形の魔法はそもそも下位魔法だ。先程中位の水屬魔法が止められたのは魔法の質の相が悪かっただけ。

普通の人間ならともかく、脆い土人形など魔法を使える者の相手になるはずもない。

「核を狙うまでもありませんわね」

そして召喚されたものには自立した統魔法と同じように核がある。そこを破壊すれば元の素材に戻ってしまう。

だが、この土人形相手ならばわざわざそんなことをする必要ない。

ミスティの言葉は人造人形師(ゴーレムサモナー)にとって挑発にも近かった。

「ならリクエストに応えよう! 『召喚・騎士人形(サモン・アースナイト)』」

再びルホルは指に口づけして魔法を唱える。

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今度はルホルの両脇から二の人造人形(ゴーレム)が現れた。

先程までの人型であるだけの造形とは違うしっかりと何かを模した造形。

鎧を著こみ、剣を持つ騎士を象った土人形が現れる。

「そしてこういう事もできる!」

召喚した二の人造人形(ゴーレム)に向けてルホルはその両手を向ける。

「『召喚・創造(サモン・クリエイション)』!」

の人造人形(ゴーレム)の下に創造される魔法陣。

その魔法陣から一本ずつ鉄の剣が現れた。

元々、この人造人形(ゴーレム)が持つものではない鉄の剣。

土の剣を持っていない片方の手で人造人形(ゴーレム)はその召喚された剣を握った。

「人造人形(ゴーレム)に武を……」

「地屬は便利でね、僕のように大したことのない魔法使いでも時間さえかければ鉱ることができる!」

ルホルの合図で人造人形(ゴーレム)の騎士はミスティに向けて走り出す。

先程の土人形とは比べるべくもない速度だ。

元が土なせいか。それとも人造人形(ゴーレム)だからか、足場が悪いことなど気にならないように全速力で突進してくる。

「『雪花の輝鎧(レフコスパノプリア)』」

ミスティはその突進の間に補助魔法を自にかける。

魔獣に襲われていたモーキスとマリーネを助けた際に使っていた水屬の強化魔法だ。

ミスティは騎士の速度を見てすぐさま接近戦へと切り替えた。

ぱきぱきと凍るような音を立てながら、水晶のように輝く鎧が、ミスティを包む。

「やれ!」

口の無い騎士が振り下ろす剣をミスティの纏う鎧が食い止める。

土の剣は鎧にれるとその先から徐々に凍っていった。

やがて土の剣を握る手まで凍ると、土の剣はその鎧からかせなくなる。

「……意外に厄介ですわね」

しかし、その騎士たちの腕まで凍っても騎士はきを止めない。

土の剣を持っていたほうの腕を自ら折って自由を取り戻す。

人造人形(ゴーレム)は人間を象っているだけで人間と同じような行をとるわけではない。

腕や腳は戦いやすく、かしやすい造形というだけだ。一本とれようが人造人形(ゴーレム)には痛覚もないのでかなくなれば取り外すのは當然である。

「……!」

ぶんぶんと振り回す鉄の剣をミスティはかわす。

とも片腕の無い騎士となったが、そのきに変化は見られない。むしろ軽になったのではと思うほどだ。

幸いなのはこの二の人造人形(ゴーレム)の騎士には技が無いこと。

ただ振り回してこちらに斬りつけることしかできず、剣なんてものは習得していない。

「く……!」

でたらめな剣閃をかいくぐって一れる。

狙うは

の非力な拳は騎士の人造人形(ゴーレム)には何のダメージも與えないが、その鎧の効果でった部位が凍りだした。

「きゃ!」

しかし、もう一方の人造人形(ゴーレム)が懐にいるミスティ目掛けて剣を振る。

ミスティはを低くしてかわすが、その剣が一方の人造人形(ゴーレム)に當たる、などということも起きず、當たる直前にピタリと止まった。

が凍ろうがそんな事は人造人形(ゴーレム)には関係ない。

相手が人間ならば悲鳴を上げて騒ぎ出すような現象も覚の無い人造人形(ゴーレム)には無駄なことだ。

ミスティの使う強化は生きにとっては脅威だが、無生にとってはただの変わった鎧に過ぎない。

「ああ、やっぱり。近いときにくいようですわね」

「くっ……! 召喚の弱いところを……!」

ミスティが目をやると人造人形(ゴーレム)同士での距離が近くなったせいか、きが鈍くなった二が視界にる。

ミスティが懐にったのは凍らせてきが止まることを期待したものでもあったが、この狀況を狙ったものでもあった。

召喚の事について學んだ際に 同じ魔法で複數召喚された召喚は同士討ちを防ぐようになっている、という知識をミスティは得ていたからだ。

ミスティの狙い通り人造人形(ゴーレム)のきはぎこちない。すぐにけばいいものの、互いが互いにれないようにゆっくりと離れていた。

「こういうのにはやはりこっちのほうがいいですわね。『海の抱擁(マリンエンブレイス)』」

離れようとする二の騎士の人造人形(ゴーレム)を水が包む。

ミスティの得意とする水で相手を拘束する魔法だ。

水のきにくさもあるが、水に包まれながらも人造人形(ゴーレム)同士の距離が近いからか、水の中でもがくようなきすら見せない。

「っ……!」

「あら、やはりこちらのほうが効果的なご様子」

ぱん、とミスティが一つ手を叩くと、人造人形(ゴーレム)を包んだ水は圧されるように小さくなっていく。

小さくなっていくにつれて中にいる人造人形(ゴーレム)は二ともが互いのにぶつかりあい、そして砕けていった。

の人造人形(ゴーレム)が持っていた鉄の剣だけが地面に刺さる。

「人造人形(ゴーレム)に新しく武を持たせるというのはし驚きました……それで」

笑顔を作りながらルホルへとゆっくり歩いていく。

人造人形(ゴーレム)と接近戦する際に使った鎧はいまだミスティを包んでおり、それにれればどうなるかは先程の騎士の人造人形(ゴーレム)が証明している。

「っ!」

あっさりと攻略された自分の人造人形(ゴーレム)。

々になった景が頭をよぎり、今度は自分がああなるのかとルホルは恐怖した。

「……」

足の震えるルホルをミスティはじっと見る。

ルホルの表からは余裕が失われ、魔法使いとは思えないほど怯えていた。

魔法使いの戦いに慣れていない証拠だ。プラホン家は金がある家なのだろう、恐らく國から出される依頼もまともにこなしたことがないのだ。

「次は何を出すのです?」

自分なりに用意していた戦法もあっさりとミスティに破られて弱気になっている。

その弱気を証明するかのようにルホルはミスティが近付くと、逃げるように一歩引く。

相手はまだ魔法使いになっていない卵だというのに。

「う……ぐ……!」

負ける。殺される……!

徐々に歩み寄ってくるミスティがそんなしたくもない確信をルホルにさせる。

今にも背中を向けて逃げ出そうな――その時。

大きな音が響く。

「これは……!」

「おお……!」

だにしなかった山のような巨人がき出したのだ。

巨人はまず一歩その足をベラルタに向かって進める。

四百メートル以上はあろう大きさの巨人が歩いたにしては予想以上に地響きが小さい。

だが、それでもこの巨人が歩を進めたとわかるには十分な揺れだった。

「……ぐずぐずしていられませんね」

「ふ、ふふ……は、はは!」

ついにき出した巨人を前にミスティはしの焦りを、そしてルホルは笑みをそれぞれ浮かべた。

ルホルは山の巨人からミスティへと視線を戻す。

その表には何か決意のようなものがあった。

「そうだ、もっと、もっと知りたい! 僕はもっとこの巨人の在り方を見なければいけないんだ!」

「!!」

すでに戦意を失っていたルホルの表が変わった事にミスティが気付く。

巨人はその一歩だけでルホルをい立たせた。

ルホルが今まで口づけしていた指に茶を燈す。

今までとは違う力強い魔力の輝き。

「『水針(アクアニードル)』!」

変化に気付いた瞬間、ミスティは魔法を唱える。

魔法使いの魔法はイメージが大きく影響する。魔法使いの恐怖や揺といった心の揺らぎは魔法をイメージする際の集中力を欠き、普段よりも現実への影響力が下がるものだ。

ゆえに戦意を失った魔法使いはその時點で生きていようが敗北している。自分の勝利や生存をイメージできない魔法使いが魔法など唱えられるはずもない。巨人がくまでのルホルはまさにその狀態だった。

しかし、戦意を取り戻したとなれば話は変わる。魔法使いは戦意を持ち続ける限り、死にだろうがその脅威が損なわれることはない。

「ぐっ……!」

ミスティの放った水の針がルホルのに刺さる。

下位魔法といえど當たれば皮は裂けるしだって出る。実際ルホルはその魔法をけた部分からを流し、自分の服を赤く染めていた。

それでもルホルは防するよりも、今唱えようとする魔法のほうを選択した。

「【永遠の令嬢(アヴェクトワ)】」

靜寂した山に魔法名の合唱が響く。

家名の原典。武勇の歴史。

ルホルが唱えたのは魔法使いの切り札、統魔法。

何かの存在をミスティはじ取る。

ルホルの足下に現れるは何かの出現を予告する魔法陣。

先程、鉄の剣を召喚した時の魔法陣とは比べにならない魔力がその魔法陣に走る。

そして魔法陣からゆっくりと、その何かは姿を現した。

『お呼びでしょうか、プラホン様』

出現と同時にそれはルホルに禮をする。その姿は貴族に長く仕える召使いのように優雅な所作。

そして、その場にいるミスティともルホルとも違う靜かな聲は、ルホルに向かって要求する。

『――ご命令をどうぞ』

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