《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》56.侵攻二日目5
「探せ探せー!」
「生徒が襲われた際に調査した第二寮周辺と學院は後に回せ! 調査してないところを最優先だ!」
憲兵達が互いに聲を掛け合いながら街を走る。
ベラルタは魔法使いの過ごしやすい環境の為に、街のあちこちに自然を多く殘している。
學院のある北の區畫は特に多く、植園のようになっている場所もある。
普段なら他の街に自慢するしい街並みだが、今は捜索の障害でしかない。
公園や庭に掘った後がないかと草木をかきわけながら地面を順に見ていく。
「ありません!」
「次だ!」
ここにいるのは三人の憲兵。
屋の上を見ながら探す一人と、庭や建を調べる二人で別れている。
庭を見終わると、今度は建だ。全ての建にっていては時間がいくらあっても足りない。を隠しやすそうな雑貨店や大きな家を中心に探していた。
捜索を擔當する憲兵の中で汗をかいていないものなど誰もいない。
本當ならば腰の剣すら捨てて捜索に専念したいが、見つけて終わりという仕事ではない。
魔法の核を守るものがいるかもしれない以上、最低限の抵抗できる裝備は必要だ。
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発見して他に伝えなければ口封じされて水の泡という可能もある。
「住民の避難は!?」
家屋を捜索していた憲兵の一人が聲を張り上げる。
屋に上った憲兵が東のほうに目をこらす。
住民はいまだ列を作ってゆっくりと進んでいた。
「六割ほどです! オウグス殿の言う通り住民はぎりぎり街を出できるかと!」
「わかった! 引き続き屋の上を探せ! 落ちるなよ! 骨折した仲間を擔いであの巨人から逃げるなんてごめんだぞ!」
「はい!」
「次はあっちを!」
指示を出す憲兵はベラルタにいる憲兵隊の隊長だ。
ベラルタに配屬されて七年になるが、自立した魔法が街に攻め込んでくるなどという事態は初めてだ。
魔法使いが潛するなんて出來事ですら珍しい。
二週間ほど前にダブラマの刺客が三人もベラルタにいた事に驚いたばかりだが、城壁から見た巨人は驚きを通して現実味が無い。
恐怖にが囚われないのはそれが理由だろうと自分で納得するほどだった。
「ちょっとそこの人!」
次の建を調べようと扉を開けたその憲兵達にかけられる聲。
憲兵二人が聲の方目掛けて走ってくる二人の。
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その恰好は見覚えがある。いや、ベラルタに住む者ならば知ってて當たり前。
ベラルタ魔法學院の制服だ。
「あんた達がオウグス殿が言っていた生徒か!?」
「エルミラ・ロードピス! 狀況を教えて!」
「ベネッタ・ニードロスですー!」
エルミラとベネッタは學院から出た後、オウグス達を探していた。
魔法の核を探すにも、狀況の確認が最優先と考えていたからだ。
同じ間隔でベラルタに屆く地響きがタイムリミットを告げている。
今あの山の巨人がどうなっているのかも知りたかった。
「憲兵隊隊長の"レムドア"だ。今オウグス殿とヴァン殿のペアを含めて七つの組で捜索している。西の區畫はあらかた終わっているが発見はできなかった」
「ここは南の區畫よね? 北は?」
「北は學院付近というのもあってオウグス殿とヴァン殿、そして二つの組がいっている。魔法使いが二人いるから捜索のペースは早いはずだ。今ここには四つの組が総當たりで捜索しているが進展は無い」
「學院の生徒が襲われた第二寮付近は?」
「第二寮周辺は學院の生徒が襲われた際に一度調べている。その時にはヴァン殿もいた。
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だが、細工されたような痕跡もおかしなものも見つからなかった。周囲の住民にも念の為話を聞いたが、特に変わったものは見當たらずいつも通りだという話だ」
アルムが襲われた時か、とエルミラは呟く。
確かに他國の刺客が潛んでいた場の捜索をおざなりにするわけがない。
エルミラも第二寮付近に魔法の核がある可能は脳で捨てた。
「學院近くと貴族の住居も捜索から外していいと思う。魔法使いが往來する場所に魔法の核を隠すのは難しいよ」
「それもそうだな、わかった」
「東の區畫は?」
「それが、まだ避難している住民が大勢いて難航している。それに我々が大勢で眼で探している姿は住民には不安になるだろうと一組しか向かえていないのだ」
「じゃあ、私達はそっちさがそっかー」
「そうね。私とベネッタは生徒だし、強化使えば早く移できる」
「任せてもいいか?」
隊長の言葉に二人は頷く。
「ええ、貴族として見過ごすわけにはいかない事態だもの。當然だわ」
「隊長、警笛のことも伝えた方が」
「おお、そうだな」
もう一人の憲兵が隊長に耳打ちする。
警笛が鳴った時にはエルミラとベネッタはまだ學院にいたせいで聞いていない。
「巨人を見張っているものが巨人のきに変化があった際に警笛を鳴らすことになっている。
音が大きいからすぐわかるはずだ。それが鳴ったら警戒してくれ」
「合図ね、わかった。巨人の様子は? もう見えてる?」
「ああ……信じられないでかさのがばっちりとね。若い頃に砂漠で見た蜃気樓ってやつなんじゃないかと目を疑ったがね」
「わかるわ、私も最初見た時は信じられなかった。あとどれくらいで著くかわかる?」
「見張りの目測だとあと一時間ほどだそうだ」
到著までの時間を聞いてエルミラはわかりやすく舌打ちする。
「早い……!」
「ドラーナにいた時はまだそんなじじゃなかったのに……」
「眠ってた時の魔力が戻ったんでしょうね」
二人がドラーナで馬の上から見た時にはまだ巨人はそんな速度で歩いてはいなかった。
ベラルタに到著した時もアルム達は巨人よりかなり早く著いたと思っていたほどだ。
「ならここで話し込んでる余裕はないわね、じゃあ私達は東の區畫に!」
「ああ、こちらは我々が!」
報を共有し終え、エルミラとベネッタは急いで東の區畫に向かおうとするが、エルミラが一つ聞き忘れた事を思い出して振り返る。
「そうだ! 報を伝えに來た生徒が私達以外にもう一人いるの! 見てない!?」
當然一緒に來たアルムのことだ。
エルミラの聲に建にろうとした憲兵二人は足を止める。
「いや、見ていない! 見たか?」
「いえ、この二人が初めてです」
隊長は部下の憲兵にも聞くが、その憲兵も首を振る。
その様子にエルミラはし気を落とす。
もしかすれば先に魔法の核を探しているのかも、と思っていたからだ。
街を捜索していた憲兵が見ていないのだからやはりアルムは住民と一緒に避難したのかもしれない。
「……そっか、ありがとう!」
「見かけたら君達と同じ報を話しておく! 君達が東の區畫に行ったことも伝えておこう! 健闘を祈る!」
「ありがとう!」
「おじさん達も頑張ってー!」
憲兵二人に手を振り、エルミラとベネッタは東の區畫に向かう。
今度こそ二人と別れ、隊長と部下の憲兵二人はまだ捜索していない建にった。
きぃ、と木製の扉が音を立てて開く。
「おじさんか……」
別れ際の言葉にしショックだったのか、隊長はため息をつく。
「ははは、まぁ、あれぐらいの子から見れば我々はもうおじさんですよ」
「まだ外見は若いつもりなんだが……さて、こんな話をしている場合ではない。急ぐぞ」
「はい!」
雑談もそこそこに家屋の床や、天井を調べていく。
それぞれ分擔して何か細工した後や不自然な地下や天井裏が無いかを確認していく。
「ありません!」
「下もない」
それが終わったら壁のチェックに移る。
ベラルタの建は壁が比較的厚い。
もしかすれば埋め込んでいる可能もある。
不自然に新しい壁の箇所が無いかをチェックする。
急ぎたいが、見逃しては意味が無い。
二人が変化が無いかを注意深く観察していたそんな時、
「ん?」
「む?」
もう一度、きぃ、と木製の扉が開く音が鳴った。
そこに立っていたのは先程の二人と同じベラルタ魔法學院の制服。
ぱたんと扉が閉まる。
「ああ、なんだ。あんたさっきの子らが言ってたもう一人の生徒さんか」
「お二人なら今さっき東の區畫に行きましたよ、今から追えばすぐ追いつけます」
隊長と部下の憲兵は先程エルミラとベネッタからもう一人生徒がいると聞かされている。
恐らくこの子の事を指していたのだろうと、つい今しがた話していた二人の事を伝える。
今は貓の手も借りたい狀況だ。
更に一人捜索する者が増えるのは心強い。それが魔法使いの卵なら尚更頼もしい。
「現狀を知るにも今なら二人を追ったほうが早い。こちらは我々に任せて――」
「『靜寂の箱(ネロスカトラ)』」
その口から魔法が唱えられるまで、憲兵二人はそう思っていた。
「な、なんだ!?」
「ひ!」
家屋全に魔力が走る。
聲とともに土だったはずの壁が黒く変わる。
よく見てみれば壁だけではない。
さっきまで調べていた天井もそして床も、黒く変わっている。
変わっていないのは窓からが差し込んだ場所だけ。
そして隊長は床に足が、壁を調べて手をついていた部下のほうは壁に手が呑み込まれ始めた。
「おい、どういうつもりだ!?」
二人は手足を抜こうと抵抗するが、魔力の無いそのでは出は難しい。
魔法の使い手は靜観するのみ。
表に変化はない。
ただ黒い壁に呑まれていく二人をただ見つめていた。
「うああ……呑まれる……! 呑まれちまう!!」
「くそ! くそ! くそ!!」
このまま呑まれてどうなるかわからない。
だが、魔法の知識が無くとも間違いなく捜索が続けられなくなるという確信があった。
それだけはいけないと隊長は足に力をれる。
ただでさえ時間が無い。
この狀況で捜索できる人間を二人失えば捜索のペースはかなり落ちる。
この黒い魔法から解放された時ベラルタはすでに更地になっていた、などという結果になっては後悔してもしきれない。
そしてこの黒い魔法で死ぬなんてのはもっとごめんだ。
「っ!」
部下のほうが肩まで、隊長が腰まで呑まれると、視線が低くなったおかげで屋を捜索している部下が視界にる。
屋から捜索していた部下は移したのか向かいの家の屋にいた。
ここの通りは道もさほど広くない。聲を張り上げれば十分屆く距離だ。
せめて巨人とは別の危機がいることを知らせなければと隊長は大きく息を吸った。
「逃げろおおお!! 敵の魔法使いがいるぞおおお!!!」
鍛えられたの肺活量がもたらす大聲。
間違いなく、向かいの家まで屆くであろう聲量だ。
容も簡潔に。敵の魔法使いがいると聞けばオウグスとヴァンが必ずくはずだと隊長は確信していた。
「無駄だよ」
しかし、屋の上の部下は気付く様子がない。
こちらを一瞥もせずにそのまま隣の屋に飛び移ってしまった。
「な……なぜ……?」
「すまないが、これも私の魔法の効果でね。諦めてくれたまえ」
為すなく、二人はそのまま呑み込まれていく。
扉の前に立つ魔法の使い手はきがとれないその二人に追い打ちをかけようとはしない。
その必要はないと言わんばかりにもがく二人をじっと見ていた。
「平民に不意打ちをする魔法使いだ。卑怯だと罵るのなら、その口が呑まれる前に早くしたほうがいい」
「う……おおおおおお……!」
「た、隊長! たいちょ……お……!」
魔法の使い手は二人の憲兵が呑み込まれるのを最後まで見屆ける。
二人はどこに行ったのか。
それがわかるのは魔法の使い手のみ。
魔法の使い手が纏っているのは間違いなくベラルタ魔法學院の制服。偽などではない。
その人は一つため息をつき、一人となったその建から、スカートを揺らして(・・・・・・・・・)扉を開けた。
「東の區畫、だったね」
建から出てきたそのの名はリニス・アーベント。
涼し気な印象を持たせる切れ長の目が東の區畫の方向へと向けられた。
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