ベネッタとダブラマの刺客トゴが地下で出くわしたのと時を同じくして、エルミラと話していたリニスがきを見せる。

「もう一人は魔法の核のほうに行っているのか」

「何？　やる気？」

リニスはもう一人がシャーフの怪奇通路に潛った事を察して懐から杖を抜く。

以前、エルミラとの魔法儀式(リチュア)で使った時と同じものだ。

エルミラもリニスが杖を構えると西の方角からリニスへとを向ける。

「元よりやる気だよ。私は邪魔する君達を倒す為にここにいる」

「邪魔するならあんたもあそこればいいじゃん」

そう言ってエルミラは顎でシャーフの怪奇通路のり口を指す。

當然、ってもベネッタを見つけ出せない事をわかっての言葉だ。

って無事に出れるのならとっくにリニスはり口へと向かっている。

「魔法の核を見つけ出せるような魔法は持っていなくてね、私がっても無意味だ」

「ふーん」

「ある程度、ベラルタ魔法學院に來た生徒の魔法の傾向は調べたはずだが……確かに數人調べられなかった生徒がいる。っていった君の知人はシャーフの怪奇通路でも問題なくけるような魔法を有していたのだろうね」

「じゃなきゃ行かせないわよ」

「それで……何故君はここにいるのだろうね？」

エルミラの眉がぴくっとく。

リニスがその反応に気付いた様子は無い。

だが、エルミラにとって気付かれては嫌な事にリニスがすでに気付いているのは明白だった。

「一緒に行けば魔法の核を守る者を排除しやすいだろうに……君はここにいる」

「……」

「察するに、っていった子の魔法は迷宮を踏破できるのではなく、魔法使いや魔力を辿るんじゃないのかな？　だから出口に近い場所に目印が無いと出できない」

「それで？」

「君をここで倒せば……中の子は出てこれないんじゃないのかい？」

「だからそれで？　何だっての？」

エルミラの語気が強くなる。

リニスがベネッタの魔法の効果に気付いたのを誤魔化す気はない。

これは自信だ。

図星を突かれた。それがどうした、という挑発。

リニスと遭遇した時點でこれから始まるそれは避けられない事だともエルミラは理解していた。

「何、難しい事はない。私はダブラマの通者……ならばしくらいは仕事しなければと思っただけの話だ」

その意味は敵対。

ここでエルミラを倒せばなくともベラルタ魔法學院の生徒が二人死ぬ。

ベラルタの生徒の報を流したとはいえ、それだけでは信頼されないのが裏切り者。

貴族の首二つは寢返った先に自分を信頼させるには十分な材料だ。

リニスは自の利の為杖を向ける。

「帰ってしっぽ振ってなよ裏切り者……ここで燃やされたくなければさ……！」

エルミラはリニスへの怒りをにする。

眉間に皺をよせ、その怒りを隠そうともしない。

沸き立つ怒りは殺意へと。

エルミラので炎のように荒れ狂う。

何せ目の前には、一方通行かもしれないシャーキの怪奇通路に潛ってくれた友人、ベネッタの決意を足蹴にしようとする者がいる。

「『炎熱魂(フュエル)』！」

それだけでエルミラが殺意を持つには十分だった。

エルミラが火屬の能力を向上させる補助魔法を唱える。

「『夢雲(ポップクラウド)』」

対してリニスも魔法を唱える。

リニスの周りに漂う三つの雲。

二人が唱えた魔法は魔法儀式(リチュア)の際に使った魔法だった。

二人だけの屋の上でその火蓋は突如切られる。

「『火矢(フレイムアロー)』！」

魔法を唱えると五本の火の矢が現れる。

エルミラが手を向けるとともにその矢はリニスに向かって飛んでいく。

リニスは屋を跳んでエルミラの放つ魔法をかわす。

相変わらずリニスの周囲に漂う雲が何かをするような様子は無い。

「相変わらず謎な雲ね！」

「ミステリアスだろう？」

「不気味っていうのよ！」

前回戦った時は雲で防ぐようなきを見せていたが、結局雲には一度も當たらなかった。

今回は防ぐ気すらないようで、ただ捌きだけでかわしている。

強化されたとはいえ下位の魔法な上にきも直線しかない単純な魔法だ。

しかし前回戦った時よりきがいい。

やはり前回は報収集の為に手加減をしていたという事か。

「いらつく……！」

それが怒りとは別にエルミラに火をつける。

確かに前回は不完全燃焼で終わった。

だが、手加減されていたとは思わなかった。

ただただどんな魔法を使うかを調べる為に戦ったのかと思うと腹が立つ。

「恥もいいとこだわ！」

何より、し恥ずかしい思いをしてまでアルムをったというのにそんなものを見せていたというその事実がエルミラの癇に障った。

リニスに対してだけではない。リニスの思通りにただ魔法を披していた自分の不甲斐なさにもだ。

「『蛇火鞭(フレイムスネイク)』！」

前回も使った火の鞭が左手に現れる。

エルミラの補助魔法は持続力が下がる。本來、武を作り上げるような魔法は不向きだ。

だが、下位の攻撃魔法でも魔法使いに有効なほど威力が上がる。

この魔法は下位の魔法だが、さっきの矢とは違ってきはエルミラがコントロールするものだ。

補助魔法によってきの読みにくい強力な攻撃と化す。

「ふむ……」

次々放たれる魔法に対してもリニスの表が変わることはない。

だが前回戦った時にも見たはずの魔法を前に、リニスの口からは何故か怪訝そうな聲。

その視線は魔法にではなくエルミラに注がれていた。

「その様子だと知らないらしいな」

「はぁ！？」

何か含みのあるような言葉にエルミラは苛立ちの聲を上げる。

いや、エルミラは今リニスが何を言ってもよくは思わないだろうが。

「『炎竜の息(ドラコブレス)』！」

自分が何を知らないというのか、そんな疑問を乗せて魔法を唱える。

リニスと魔法儀式(リチュア)をした際に使った中位の攻撃魔法。

今リニスは前回戦った時のようにこれを回避できる魔法を使っていない。

補助魔法で威力を上げた火屬魔法は生半可な魔法では防ぐ事は難しい。

かわしたのならば、そのかわした先に左手の鞭でリニスを拘束。

それがエルミラのプランだった。

魔法を唱え、エルミラは握った拳を振りぬく。

その拳から橫に走る火柱が放たれ、リニスへと突き進む。

「『消失の腕(ラディーレン)』」

だが、リニスはかわさない。

その場に立ち。ただ一つの魔法で迎え撃つ。

魔法を唱えたとともにリニスの片腕を黒く、何かが染め上げた。

「それなら……！」

かわさないならそれもいい。

左手をかし、エルミラは火の鞭を自在にる。

リニスが唱えた魔法が今放った『炎竜の息(ドラコブレス)』を防いでもこの鞭を防ぐ手段は周囲に漂う雲だけ。

だが、その雲のきをかわしてリニスに當てる自信がエルミラにはあった。

しかし――

「集まれ」

リニスの聲とともに雲が集まる。

「え――？」

雲は集まり、リニスの前面へ。

つまり、エルミラの放った魔法の正面。

強化された中位魔法をあんな頼りない魔法で防ごうというのか。

「馬鹿ね！」

火柱はリニスの正面の雲を、そして鞭はリニス本に。

リニスの周囲を漂うあの雲の魔法がどんな魔法かはわからない。

しかし、中位の攻撃魔法を防ぎきるほどの現実への影響力があるとはとても思えなかった。

本命を鞭とみて判斷を誤ったか。

だが、エルミラの魔法がリニスのその雲に當たった瞬間――

「え……？」

消えた。

空気を裂きながらリニスへと突き進んでいた火柱は何も無かったかのように。

見てみればリニスの周囲を漂っていた雲もない。

エルミラはあの雲の効果かと疑うが、自の左手に目をやるとその考えも違うのだと理解する。

「な……に……？」

火柱だけではない。

いつの間にか左手に握っていた鞭も無い。

そしてリニスが直前に使っていた魔法の効果もいつの間にか無くなっている。

リニスの腕はいつの間にか元に戻っていた。

(防がれた？)

いや、防がれた覚とは違う。

威力の相殺、持続力の限界、そういったものでは決してない。

魔法が、音も無くただ消えた。

「何を……したのよ……？」

エルミラの驚く姿に、リニスもまた意外そうに。

「やはり本當に教えていなかったのか……律義なやつだ」

そう言ってし申し訳なさそうな表に変わる。

一それは誰に対しての表か。

「あんた……闇じゃないわね？」

「その通りだ。あの時、魔法儀式(リチュア)の場にいた者は闇と勘違いしていたようだがな……気付いていたのはアルムだけだったよ」

「アルムが……？」

ならリニスが今言った律義な奴、という言葉はアルムの事を指しているのか。

あの時點でリニスの屬を看破していたアルムは自分の屬を偽るリニスを不審に思っていたに違いない。

「本當に馬鹿ねあいつ……」

しかし友人の隠し事だとして決して外にらさなかった。

そのせいで今自分が驚いている事にし腹が立ちもしたが、アルムらしいとも思って責められない。

あの日、頑なに何も言わなかったのはやはりこういった事があったようだ。

「アルムに免じて、君の疑問に答えよう。

私の魔法は"夜屬"……の特を持った屬を呑み込む時の形」

「は……？」

聞いた事の無い屬とその特徴ににエルミラはそれ以上言葉が出ない。

エルミラも當然、自の屬の特は理解している。

の特を持った屬を呑み込む？

それはつまり――

「助言しよう、エルミラ・ロードピス」

突きつけるように、リニスが続ける。

「諦めたまえ。君の屬はの特を持つ火屬……私は君の天敵だ」

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