《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》プロローグ ‐大通りにて‐

アルムの足にらかいが伝わる。

そのらかいの正は人の背中。

アルムは一人のを踏んでいた。

「あの……ごめんなさい」

良く晴れた朝の事。

過ごしやすい外気溫に、見上げれば気持ちの良い青空が広がっている。

【原初の巨神(ベルグリシ)】の侵攻から一月が経ち、研鑽街ベラルタの復興も順調に進んでいる。

元々ここに住む人々はベラルタ魔法學院の生徒達に不自由なく魔法を研鑽させるべく選ばれた鋭がほとんどだ。

魔法使いの補助が無くとも復興は迅速に進んでおり、外観だけならばとっくに修復を終えている。

休暇中だった魔法學院も再開し、この街にも日常が戻りつつある……はずだった。

「……あの、大丈夫ですか? 踏んでしまって申し訳ない」

今この狀態が日常であるというのなら、この男でなくてもノーと言うだろう。

その男は一月前に起きた【原初の巨神(ベルグリシ)】の侵攻を食い止めた張本人。

魔法使いが貴族にしかいないこの世界において、平民でありながら魔法學院に學し、良くも悪くも注目を浴び続けている新生。

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生まれはこの國マナリルのド田舎カレッラ。名をアルムという。

魔法學院が再開したとはいえ、登校の時間にはし早い。

彼は普段より早い時間に魔法學院の図書館に行こうと大通りを歩いていたところだった。

休暇中に王都の古書店で手にれたマイナー魔法集二巻を読み終わり、學院の図書館に一巻があるという報を昨日手した為である。

だが、そんな彼は予期せぬトラブルに出くわした。

突如路地から自分の足下にり込んできたを踏んでしまったのである。

正確に言うならば、踏まれに來た(・・・・・・)をかわせなかったのである。

「お構いなく」

「いや、この狀況は嫌でも構わないといけないと思います……」

はアルムが足をどけたにも関わらず立ち上がろうとしない。

アルムの制服と似た白い上著には足跡がくっきりと付いていてアルムの罪悪を加速させる。

平和な大通りで起きた出來事にアルムは揺を隠せない。

意図せず加害者にもなったに関わらず、アルムはの顔すら見えていない。わかるのは自分が著ている制服によく似た服を著ているのと、しい白い髪を持っているという事だけ。

揺はしていたものの、このままにしてはいけないとはわかっていたようで、アルムは恐る恐るを起き上がらせようと手をばす。

「むしろ」

「はい?」

手をばそうとしたその時、再びが口を開く。

「ありがとうございます」

「………」

あまりに予想外の出來事にアルムのきは直した。

差し出そうとしていた手は中途半端な位置で止まり、アルムの頭の中ではぐるぐると言葉の意味を確認しているところだ。

このしの間に訪れた靜寂は間違いなく、朝のせいなどではない。

「……は?」

しばしの直はアルムの疑問を晴らすことはなく、疑問として聲になる。

「おっと、いが足りてませんよ?」

「あ、すいません、その、足す気が無かったです」

當然のように訂正しようとしてくる事に改めて困するアルム。

しかし何故だろうか。

とともに、アルムは自の中にあった罪悪がすっと消えていくのをじた。

「その、聞き間違いだったら申し訳ないんですけど……何て言いました?」

念の為とアルムは改めてさっき何を言ったのかを彼に問う。

きっと、自分の聞き間違いだったのだと信じて。

「ですから……ありがとうございます、とお禮を言いました」

間違いなく、聞いてしまった。

さっきのは聞き間違いでは無いのだとわかり、アルムはわなわなと震えて後ずさる。

の返答でアルムはようやく倒れるの正を確信したのだ。

「……だ……!」

「え?」

「変態だ……! 変態だ!」

「え? ちょ……」

アルムは自分の苦手とする學院長オウグスと同じ人種だと斷定した。

アルムから下された自分への評価に流石に聞き捨てならなかったのか、はようやく起き上がる。

だが、時すでに遅し。

が起き上がった時にはすでに、アルムは一目散に走りだした後だった。

「ま、待ってください! 話を――」

「『強化』(ブースト)!」

制止の聲を振り切るようにアルムは自分の足に補助魔法をかける。

後ろを振り返ることもせず、アルムは全速力でその場から離した。

すでに遠くなりつつあるアルムの背中には屆かぬ手をばす。

「違います! 確かにしその気はあるけどこれは違うんですうううううう!」

弁明になっているかどうかもわからないの聲が早朝のベラルタに響き渡る。

しかし、例えその聲が屆いたとしてもアルムが止まることはないだろう。

なんだなんだと騒ぎを聞きつけた周囲の人々が注目する頃にはアルムの姿はもう見えない。

今のは何だったのかなど、アルムにわかるはずもない。

それがわかるのはし先の事である。

ここから第二部となります。

白の平民魔法使いを改めてよろしくお願いします。

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