《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》71.年
晝時のベラルタ魔法學院の食堂。
個々の訓練や実技を終えた生徒達のほとんどがこの時間にはここに集まる。未來を擔う魔法使いの卵達が集まる姿は見る者が見れば壯観かもしれない。
生徒達が集まるこの場所は裝飾の施されたバラストレードに、機に置いてある小、魔石を使った照明の形狀まで凝っている落ち著いた雰囲気を醸し出す生徒達の憩いの場でもある。
「アルムの噓吐き」
「いや、噓だったんならむしろ喜ばしいんだが……」
そんな落ち著いた雰囲気の一角でアルムはじとっと疑いの目を向けられていた。
今日の早朝に大通りであった出來事を話したのである。
真正面に座っているエルミラの視線がアルムに突き刺さっている。
「でも、アルムは誤魔化すことはあるけど、噓を吐く時はわかりやすいからこれは噓じゃないんじゃないかな?」
エルミラの隣に座るルクスからの援護。
普段アルムと過ごしていればアルムが噓をつくのが上手くないのはすぐにわかる。
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今のアルムはし疲れているようではあるが、噓をついている様子が無い。
「ええ、し疲れているようですけど、それ以外に変わった様子はありませんし……いつもわかりやすくて今日だけ流暢に噓をつくというのは不思議な話ではありません?」
アルムの隣に座るミスティもルクスの意見に賛のようだった。
隣でし疲れた様子のアルムの表をミスティは首を傾けるようにして伺う。
髪がし揺れ、薄っすらと花のような香りがアルムの鼻孔をくすぐった。
「アルムが用な方でないのはエルミラも十分わかっていますでしょう?」
「そりゃそうだけど……道端で足下にり込んでくるってどんな事よってならない?」
「確かにそのままけ止めるのもおかしな話ではあると思いますけれど……」
「故意に見えただけと考えればまだ納得いきそうな話なんだけどね」
一緒に座る三人はアルムの話にあーでもないこーでもない。
魔法を研鑽して競い合う魔法學院の生徒とは思えない何でもない會話が繰り広げられていた。
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そんな何でもない會話は聞き耳を立てられているようで、周りには耳を傾ける貴族が數人いた。
この場は魔法を高め合う場所とともに報収集や貴族の繋がりを作る絶好の場である。
何せ今雑談に參加しているのはマナリル一の大貴族の次ミスティ、魔法使いの名門オルリック家の長男ルクス、沒落したものの才能は顕在のエルミラ。
平民のアルムはさておいて、他三人は繋がりを持てば何かしらのメリットは確約されるような面子だ。このように何気ない會話からでも切り口を見つけようとする姿勢はむしろ褒められるべきだろう。
しかし、今の所果が得られるとは思えない。
彼らは魔法使いの卵で貴族だが、まだ年。
魔法とは関係無さそうな話題だって面白そうならば興味津々なのである。
「そういえばベネッタは?」
出來事の張本人にも関わらずあまり話にろうとしないアルムは一向に來ない友人の名前を出す。
晝の時間はこうしてカフェテリアで雑談に興じるのが日課のようになっていて普段ならばいるのが當たり前なのだが、今日はその姿を見せていない。
ついきょろきょろと周りを見てみるもののやはりそれらしき人は見當たらなかった。
「ああ、何か他所から來た魔法使いを案してるらしいわよ」
「他所から來た魔法使い?」
「ええ、ガザスから來てるんですって」
「ガザスってカレッラの近くにある國か」
「ええ。小さい國だけど、一応友好國だからたまにこういうのがあるのよ」
聞いたアルムの心はし複雑だ。
他國の魔法使いに興味はあるものの、その他國の魔法使いに複數で襲われた記憶があまりにも新しすぎる。
一月前の【原初の巨神(ベルグリシ)】の侵攻だってその魔法使い達によって起こされた災害だ。
ダブラマとガザスという國の違いはあれど、他國の魔法使いというのはアルムからするとトラブルのイメージが拭えない。
「やっぱり偶然転んでそうなったんじゃないかな?」
「あら、それでしたらその起き上がって謝罪するなり、アルムを責めたりしてもいいと思いますわ」
「ああ、そりゃそうだね」
「魔法使いなのかもわかりませんが、案外ただ強化魔法の練習をしていたというのはどうでしょう?」
「そうだとしても、わざわざ踏まれる意味はわからなくないかい?」
「そうですわね……考えれば考えるほどわかりませんわ」
そんなアルムを他所にミスティとルクスの議論は平行線。
どうでもいい話のはずではあるが、魔法使いという線を考慮しつつ真面目な意見を出し合っていた。
「お禮を言ったってのもおかしな話だね」
「そのにとって踏まれる事が何か利益になっていたという事でしょうか?」
「アルム、そのは他に何か言ってなかったのかい?」
「すまん、何か言っていた気もするが、恐くて禮を言われた後すぐに逃げてしまったんだ」
「ううん……踏まれる事に何の意味があったんだろう?」
「何かの風習なのでしょうか……?」
「そういう趣味なんでしょ」
予想以上に真面目に悩み始めた二人に対して面倒になったのかし投げやり気味なエルミラ。
スプーンで紅茶をくるくると回しながら特に何も考えず、てきとうな意見を投げれた。
「趣味?」
「どういうことだい?」
「え」
しかし、そのてきとうな意見がこの場においてはまずい事を言ってから知る。
「趣味とはどういうことですか?」
斜めに座るミスティからの予想外の追及にエルミラは突如追い詰められる。
墓を掘るとはまさにこの事。
濡れるように輝く純真な瞳がこんなにも殘酷だとじるのは初めての経験だった。
助けを乞うように隣を見れば、ミスティどころかルクスまで疑問の表を浮かべている。
そう、彼らは年。
面白そうな話題には興味津々だ。
そしてその面白そうな話題に一石を投じたとあれば追及も當然といえる。
「あ、アルムが知ってる……わよ……」
エルミラは追及をかわすためにアルムへと無責任なパスを投げる。
わざわざ他人に説明させるのもおかしな話ではあるが、特に何の疑いもなくミスティの瞳はアルムへと向けられた。
「本當ですか?」
「いや、わからん」
「わからないそうですよ?」
その無責任なパスもエルミラに二秒ほどの猶予しかもたらさなかった。
再び全員の瞳はエルミラを捉えて逃がさない。
正面には無知な田舎者。隣と斜め前には箱り貴族。
この場で中途半端に俗世の知識を持っているのは何を隠そうエルミラだけなのである。
「う……! そ、その……!」
説明しなければいけないのか?
真晝間にこんなにも大勢の貴族がいる中で?
"世の中には踏まれて的に気持ちよくなる人もいるのよ"
そんな事言えるはずがない。
想像するだけで恥ずかしい。
恥ずかしさでエルミラの顔はわずかに紅していた。
エルミラとて年相応の乙である。
周りの貴族達も聞き耳に余念がない。
無論、この會話を聞き耳している貴族達のほとんどはどういう意味か當然わかっている。
貴族といえど、いや、貴族だからこそ、そういった趣味にはある程度興味を持ち、理解があるものである。
數派なのはあくまでミスティやルクス。
そんな希な純粋さにエルミラは今追い詰められている。
「あ……う……」
エルミラは一緒に座っている三人どころか、この一角で最も注目されているといっても過言ではない。
どうにかこの場を切り抜けたい。
だが、誤魔化そうにも何も思いつかない。
長くじる時間が過ぎる中、
「あ、みんなー!」
そんなエルミラに救いの神が舞い降りる。
「ベネッタ」
「あら、ベネッタさん」
「よかったー、いたー」
ベネッタはいつも通り間延びした特徴的な聲で四人が座る場所へと小走りで駆け寄ってきた。
「ガザスからの魔法使いを案していたのでは?」
「うん、それはヴァン先生に引き継いでもらったのー。それでね、アルムくん見たいかなって探してたの!」
「見たい? 何をだ?」
「ガザスから來た魔法使いの魔法儀式(リチュア)ー。今からやるんだってー」
「なに……!」
ベネッタからの報にアルムは勢いよく立ち上がる。
アルムは魔法の知識に飢えている。今日の朝もその飢えを満たす為に早起きしていたといっていい。
さらに言うならば、アルムは結局今日の朝目的の本を読む事ができなかったのだ。
早朝に変なと出くわした上に目的の本すら読むことができない神的なダメージこそ今アルムが心なしか疲れている理由でもある。
そんなアルムがこんなおいしい話を見過ごすはずもない。
他國の魔法使いに対して微妙なはあるものの、見知らぬ魔法が見れるかもしれないとあれば些細な問題だ。
「とはいってもヴァン先生が見ながら軽くらしいんだけどねー」
「それでも見たい。すぐに行こう」
「私も興味ありますね……見れる機會も限られますし……」
「ねー、みんなで行こうよー」
「ならし急ごうか。著いたら終わってた、なんてのはし殘念だしね」
先程までの會話を切り上げ、アルム達は立ち上がる。
「ガザスの魔法……私見たことないかもしれません」
「ガザスはそこまで特殊な魔法は無かったはずだけど……それでも戦闘以外で他國の魔法使いの魔法を見れる機會なんて無いからね、僕も見るのは初めてだ」
「ダブラマとはまた違うよな?」
「ふふ。ええ、屬は同じでも國によって主要な魔法が違ったりしますから」
すでにアルム達の興味は他國の魔法使いへと移っていた。
逸るアルムとそれに並ぶミスティを先頭にルクスが一歩後ろにつく。
呼びに來たベネッタも楽しそうな三人を後ろから満足そうに見つめるとそれに著いていった。
「ベネッタ」
「なにー?」
ベネッタは自分のさらに後ろを歩くエルミラの聲に振り返る。
エルミラは振り返ったベネッタの手を強く握った。
「ありがとう。あなたが友達でよかったわ……」
「へ? 嬉しいけど……どしたの急に……?」
脈絡のない謝にし混するベネッタ。
エルミラの口から何に対してかが語られる事は無かった。
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