《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》幕間 -お出掛け先-

時系列が一部と二部の間となっています。

本編に関わるような伏線などは全く用意していない箸休め回です。

「お願いします……お願いします……どうか、どうか許してくださいまし……」

「諦めるんだなミスティちゃん……こいつはあんたの口にりたがってるんだぜ?」

「へっへっへっへ……」

とある店の片隅に、チンピラのよう臺詞を吐きながらに絡む二人がいた。

その意地の悪い二人に挾まれて座っているのはミスティ・トランス・カエシウスという名のだ。

この國マナリルの北方を支配する大貴族の次であり、ベラルタ魔法學院に通う優秀な魔法使いの卵である。

そんな彼は自分を挾んでくる二人から顔を背けて一杯の抵抗をしていた。

抵抗はしているものの、得意の魔法でこの場を切り抜けようとはしていない。

何故か?

「往生際が悪いな、お嬢ちゃん?」

「へっへっへ……えっと……へっへっへ……」

それもそのはず。

その意地の悪い二人は同じくベラルタ魔法學院に通うミスティの友人達。

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ミスティの右で串に刺さっているとある食べを眼前に差し出しているのがエルミラ。

ミスティの退路を斷つように座ってよくわからない笑いを続けているのがベネッタである。

「……僕達は何を見せられてるんだろうね」

「楽しそうだとは思う」

「まぁ、それは確かに……」

正面にはそんな茶番を見せられているアルムとルクス。

アルムはそんな景を見ながら皿に並べられた串を一本をとって刺さっている料理を口にれた。

【原初の巨神(ベルグリシ)】の侵攻によってベラルタ魔法學院は一月の休學となった。

その間を利用して遊びに行こうとミスティの家で行われえたお出かけ先プレゼン対決によって決まった場所にアルム達は來ていた。

結論から言うと、そのお出かけ先プレゼン対決に勝利したのはベネッタだった。

ここは王都にひっそりと構えつつも、近年コアな人気を獲得しているカエル料理店である。

刺繍の施された垂れ幕で仕切られた席に暖系の照明が異國の雰囲気を醸し出す灑落た裝だ。

晝時から外れている時間でも二十ほどある席には結構な數の客がっていて、その人気が窺える。

「食べます、食べますからせめて足は……足はおやめくださいまし……」

必死に抵抗するミスティ。

エルミラに差し出されている串には揚げられたカエルの足があった。

想像したまんまの形で出されたそれからミスティは必死に目をそらしている。

せめて他の部位をと。

「足はやめてくださいだあ!? 殘念だったなあ……! 足しかないんだよぉ!」

「へっへっへー!」

「あんたそれ以外何かないの?」

「えー……だってわかんないよー……」

オススメをと注文して出てきたのはカエル足の串焼き。

足と言っても通常のサイズではない。

この店が仕れるのは三十センチあるガザスの食用ガエルである。

その為、足だけでも結構なボリュームだ。

そして、この店のオススメメニューはカエル足の串焼きな為、あるのは足だけだ。

他の部位を選択する事はできない。

「予想はしてたけど、アルムは平気なんだね」

「大きさに驚きはしたが、まぁ、調理されてるし特には……口にれてしまえばうまいしな」

そう言いながらアルムは指で口から骨を引っ張り出し、自分用の小皿に置く。

その自然な所作は本當は食べ慣れているのではと錯覚するほどだ。

「でもミスティ殿の気持ちもわかるよ。流石に形が抵抗ある……」

ルクスもまだ一口も食べていない。

普段の食事とはかけはなれたその形狀は躊躇わせるには充分なほど足としての形を殘している。

出された串はご丁寧に五本。

しっかり人數分が用意されていた。

「意外に骨が細いから気を付けろ」

「……忠告ありがとう」

食べきった友人からのありがたい忠告にルクスは苦笑いを浮かべる。

そういう問題じゃないけど、とは言えなかった。

「そもそもこれどこの料理なんだ?」

「ガザスの料理らしいよ」

「あぁ、マナリルの友好國だったか……?」

「そうそう」

「よし、合ってた」

自信無さげに言うアルムにルクスは頷く。

ちらっと聞いた事のある知識を覚えていたのが嬉しかったのか、アルムはし誇らしげである。

「いけません!」

突然、意を決したように顔をそらしていたミスティが正面を向く。

眼前にはエルミラから突き出されているカエルの足。

小さく、ひっ、と聲を上げたのをアルムは聞き逃さなかった。

「こ、このように拒んでいてはお店の方、ひいてはこの料理を好むこのお店のお客さんに失禮です……一度お店にったのですから出された料理はしっかりと味わわなければ貴族の恥!」

言いながらミスティはエルミラから串をとる。

ぷるぷると小刻みに震える小さな手は生まれたての小鹿のようだ。

「あ、アルム……その、どのようなお味でしたか……?」

串をとったものの、覚悟が決まらないのか、ミスティは普段より弱々しい聲でアルムのほうを見る。

「え? ああ……何かし弾力のある魚みたいなじだったな。骨が細いからかボリュームもあって味しかった」

「あ、ありがとうございます……」

アルムから想を聞いたミスティは禮を言って串を徐々に口元へと近付ける。

「これはお魚……これはお魚……」

「何か暗示かけ始めた」

「必死だなミスティ……」

目を閉じ、祈るようにそれを続けた後、

「お」

再び目を開けると、小のような小さな口でミスティは串焼きへとかぶりつく。

「おー……!」

これには見ていた四人も小さく拍手。

四人が見ている中、もくもくとミスティは咀嚼する。

そしてそれを飲み込むと、

「……あら」

今まで怯えていた姿はどこへやら。

大変満足そうに串一本をしっかり食べきったのであった。

読んでくださってありがとうございます。

今回は箸休め回で一區切りです。

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想も隨時お待ちしております。

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