《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》幕間 -雇われた魔法使い-
俺は仕事はきっちりこなす。
俺は契約をきっちり守る。
命を捨てることはしないが、仕事をきっちりこなす為なら命は張る。
金を貰った分の務めはきっちり果たす。今までずっとそうだった。
「なぁ、ヤコウ。そういや俺が狩った魔獣はどうしてたんだ?」
「何を聞くかと思えば……しっかりと糧にさせてもらっておるぞ?」
だから俺は俺が提示した金額以上の金塊を出してきたこいつの下についている。
まるで自分には不要と言わんばかりにこいつは俺に惜しみなく金塊を差し出してきた。
今まで金を渋る奴ばかりで俺みたいな魔法使いを高値で雇おうなんてやつはいなかった。
だからこいつには謝している。
こいつに雇われてなければ俺は未だにカンパトーレの食客貴族としてガザスの端っこで小競り合いしてただろう。
あんな掃き溜めみたいな場所にいるより百倍楽な仕事だ。
若い魔法使いは殺さなくていいし、大は霊脈の見回りと魔獣の狩猟しかする必要は無い。
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ニヴァレ近くの倉の霊脈では予定外の戦闘でやられたが、まぁ、あそこでも戦闘は契約には含まれていない。
捕まったのは俺のへまで、ついにクビかと思えばこいつは捕虜にされた俺を奪還しに來てくれた。
謝はしてる……謝はしてるが……何故ナナを殺して俺は生かした?
「糧ってなんだよ?」
「糧は糧じゃ」
ヤコウはてきとうに答えながらミレルのる湖に興味津々だ。
こいつの目的は霊脈だから當然なのかもしれないが、ヴァレノの転移でミレルに著いたばかりだというのに俺達には目もくれず、る湖を見始めた。
湖の周りは何やら盛り上がっていて、木で組んだ屋臺や簡易の天幕住居のような店が並んでいる。
「ここ誰も來ないんだろうな?」
俺達がいるのは葡萄畑の中にあった小さな小屋。
葡萄の匂いが染みついている。収穫した葡萄を集める場所だろうか。それとも畑を管理する為の小屋か。
俺には全くわからん。
その隅でここに俺達を転移させたヴァレノが辛そうに座っていた。
「おいヴァレノ。大丈夫かよ」
「問題ない。祭りの間使われないことは確認済みだ」
「じゃなくておめえだよ」
「それも問題ない。僕の役目はあと數度だけだからな」
役目。
役目か。
ナナが殺されて俺は生きてる。
……つまり俺にはまだ役目があったから生かされたんだろうな。
ナナはダブラマの魔法使いでもう利用価値は無かった。
そういう事なんだろう。
俺も役目が終わったらああなるのか?
「ナナが殺されて儂が恐くなったか、マキビ?」
「――!」
る湖を見ながら背中越しにヤコウが語り掛けてくる。
こいつの魔法は鬼胎屬という今まで聞いた事もない屬。
人の恐怖を糧に現実の影響力を上げるけったいな屬だ。
俺は常世ノ國(とこよ)出だが、そんな屬は聞いたことがない。
もう戻って確認することもできない。
俺の疑念を見抜いたのもその屬の力だろうか。
「そりゃ隣でナナがあんな死に方すればな。俺は仕事はきっちりやるが、命もきっちり守りてえんだよ」
「安心せよ、そなたを手にかける気は無い。儂のことを祖國に報告していたナナと違ってそなたはここまで協力した同胞だ。それに、最後の仕事も殘っておるからのう」
「そろそろ聞かせろよ。今夜何かするんだろ?」
「ああ……そうじゃったな。お主にはまだ話しておらんかった」
ヤコウはそこで初めて俺の方を向いた。
ここに立ち寄る前、ニヴァレの倉にある滝の霊脈にずっといたこいつはさらに威圧が増した。
人と対峙してこんな威圧をじたことはない。
にやりと笑うその表はまるで首に刃を當てられたかのようにひやっとする。
「―――――。」
だが、そんな笑みは序の口だった。
本當に寒気がしたのはヤコウが何をしようとしているのかを聞かされたその時。
何を言っているのか、一瞬理解できずに俺は聲を上げてしまう。
「……は?」
「昂るじゃろう? そなたらには特等席で見せてやる」
ヤコウはくく、と笑う。
悪戯を想像するみたいな、しかしそれでいて悪意を煮込んだ邪悪な笑み。
無邪気で邪気な矛盾した表。
「ちょっと待て、霊脈のほうはまだわかるが……それに何の意味がある?」
「儂が儂を取り戻す。そなたらにはわからぬ理屈かもしれんがな、それだけで理由は充分じゃろう?」
「……それまじでやんのか……?」
「當たり前じゃろう。……この為に出來る限り我慢していたんじゃからなぁ」
ヤコウはぺろりと舌なめずりする。
それは俺への警告か。
それとも自の計畫への功を確信してか。
こいつの思考は俺にはもうわからない。
「ヴァレノは……知ってたのか?」
「當然だ。ヤコウ様からすでに聞かされてる」
「それでいいのかよお前」
「いいも何も私がんだことだ。これは私の復讐でもある」
「……そうかよ」
これ以上は言っても無駄だ。
何だこれは。
撤回だ。
こいつに謝などする必要は無い。
今までけた仕事の中で最も糞悪い仕事だこれは。
そしてその糞悪い事態を起こそうとしているヤコウは俺を品定めするように見つめている。
「怖気づいたのならここで逃げてみるか?」
わかってて言っている。
逃げられるはずがない。
勝てるはずがない。
そして、何よりこれは仕事だ。
糞悪くても仕事をこなさなきゃ飯は食えない。
「俺は、仕事はきっちりやる」
「それでこそお主を雇った甲斐がある。手筈が整った後のこの湖は頼んだぞ、マキビ……ここまで協力してきた同胞じゃからな、お主には期待しておる」
同胞。
それは罪を意識させる言葉か?
そんなもので縛らなくてもこいつと俺は金という契約ですでに縛られている。
「……ああ、それが最後の仕事なんだな?」
「そうじゃ。これで契約満了というやつじゃな。もちろん、契約が終わったからといってお主をどうこうする気は無い。その後は好きにするが良い」
好きにしろってそりゃそうだ。
こいつの言っている事が本當に起こるのなら好きにしたってもう手遅れになる。
……なあ、誰か教えてくれ。
俺はこの仕事……本當にきっちりこなしていいのか?
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