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大陸の南西に、小さなウラノス公國という國家がある。

その辺鄙な國の、さらに辺境の地に、修道院があった。周囲を山と森と誰も開拓しない平地に囲まれ、自然かと言えば聞こえはいいが、実際には厳しい修行のため男子制を掲げ、人里離れた土地に建てられた修道院だ。いや、だった。

もはや、修道院は屋も崩れ、禮拝堂は太のの下にある。椅子は朽ち、窓ガラスはくすむか割れ、周辺に人家がないため寄進もない。ウラノス公國が名目上管理しているはずだが、放置されているも同然だ。

そこに、一人のがいた。先年、指導してくれていた老修道がこの世を去り、一人で修道院を切り盛りしている。

エレーニ・ガラニスという十六歳のは、金の髪に母譲りの青い瞳を持っていた。顔立ちも田舎にこもっているにはもったいないほど整っており、修道の被る野暮ったい黒のヴェールやチュニックからはの隠しきれない高貴さが表れている。修道とは思えないがもしやどこかの貴族の令嬢か、そう問われれば、エレーニはこう返す。

「はい。私はウラノス公の娘、エレーニ・ウラノ・ガラニスと申します。ガラニスの姓のとおり、母は隣國ガラニシアの王でした。とはいえ、自ら命を絶った母の罪を償うべく、こうして神に仕えるとなりました」

エレーニは、それ以上は語らない。大陸の宗教において忌とされる自殺を選んだ母の不名譽、そしてその娘として父から謹慎ともいうべき修道院送りにされたこと——それらは、もはやエレーニにとって、とっくの昔に嘆き切ったことだからだ。

ただ一人、辺境の修道院で誰にも顧みられずに生涯を終える。その覚悟はとうにできていた。誰にも頼れない現実を知っていた。懐かしむ過去は忘れ、謳歌するはずだった未來をも失い、ただ生きている。

そんなの、ほんの數奇な運命が、回りはじめる。

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