《【電子書籍化】神託のせいで修道やめて嫁ぐことになりました〜聡明なる王子様は実のところ超溺してくるお方です〜》第三十四話 真価

人々の記憶にある、ということは、存在していた証拠となるのだ。

逆に人々の記憶になければ、それは存在していなかった、ということになる。

大國たるステュクス王國は古より確固たる存在証明がなされている。しかし、大陸の各地で興亡を繰り返す小國は、誰が憶えているだろう。ましてや、混の最中に何もかもが失われ、住んでいた人々が離散し、滅んだ國のことなど——誰も、憶えていない。忘れ去り、なかったこととなる。

エレーニの故郷は、誰が憶えているだろう。

いつしかこうなるのではないか?

アサナシオス王子の妻エレーニは、主神ステュクスの神託により遣わされた聖なる巫であり、この地上の生まれではないのだ、と。

だって、彼の故郷の名は、誰も憶えていないのだから。彼もまた、母を憶えてはいても、父や異母姉、故郷、いころの記憶も失いつつある。忘卻の神レテの加護によって、それらはゆっくりと、しかし確実にエレーニと人々の記憶から忘れられていくだろう。

あったものをなかったものとする、それが忘卻の神レテの真価であり、新たな世界のための禊なのだ。

「レテちゃんさ、普段から本気出さないから存在自忘れられるし、信徒もいい加減なのよ。もうちょっとお告げとか加護を大盤振る舞いしたら?」

「だって、神託の容、堅苦しくて、何を言えばいいか分からないし……」

「じゃあもうさ、エレーニに神殿を持たせたらどう? 私の巫やりながら、あなたの神殿の神長やれば解決じゃない! いいね! アサナシオスのためにもなるから、私が全力で応援するわ!」

「あっ、ちょっ、そ、それなら私がやる……お母様はあと! 私のほうがエレーニと縁が深いんだから!」

「そう? じゃあ先にやっちゃって! 終わったら神託出すから」

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