《【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺が待っていました》1話 プロローグ
新連載です。完結まで執筆済みです。
毎日2話ずつ投稿します。
「お嬢様」
き通った穏やかなテノールボイスが私の鼓を震わせた。
漆黒の燕尾服をまとった専屬執事は私を庇うように目の前に降り立つ。彼の腰から垂れているふたつに分かれた黒い布がふわりと揺れていた。
彼だと理解した途端に私の心が凪いでゆく。
たとえ背後に広がるのが瓦礫の山でも、崩れ落ちそうな王城でも、彼の背中はこんなにも頼もしい。
風になびく艶やかな濡羽の黒髪は太のをけて、深い青に輝いていた。振り返る彼の夜空のような瞳は、灼けつくような熱を孕んでいて目を逸らせない。
「お嬢様、私の幸せは貴の幸せです」
ええ、あなたはいつもそう言ってくれていた。
でも私は王太子殿下から離縁されるようななのよ?
得意なことと言ったら魔道の開発で、らしいところなんてひとつもないのよ? そんな私が幸せになれるというの?
「私はお嬢様の願いを葉えるために存在するのです」
お願い、そんなことを言わないで。
せっかく押さえ込んだ気持ちがあふれだしてしまうから。
「ロザリア様。私は貴の憂いをすべて取り払いたい。貴でないとダメなんです。貴だけがしい。貴が微笑(わら)ってくれるなら、この世界だって手にれます」
そう言って差し出された手はトレードマークだった白手袋をつけていない。
戸う私の手をすくい上げて、指先に艶めくを落とした。そのまま腕の中に囚われてしまえば、私の瞳に映るのはあなただけ。
離れなければいけないと頭では理解しているのに、歓喜に震える私のはピクリともかない。
このまま、私の心のまま選んでもいいの?
それでもあなたは後悔しないの?
私の揺れく心を見かしたように、彼は追い打ちをかける。
「俺はロザリア以外なにもいらない」
それは執事としてではなく、彼自の言葉。
「同じ気持ちなら、俺にキスして」
ずっと私を想ってくれていた。
ずっと私に気持ちを伝えてくれた。
本當は自分の気持ちなんてとっくにわかってた。
もうこの夜空の瞳から逃げられない。
違う、もう逃げたくない。
まだ間に合う?
一度は諦めようとしたけど、私はあなたをんでもいい?
「私…………私は————!」
私の脳裏に甦るのは初めて會ったあの日のことだった。
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