《【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺が待っていました》2話 専屬執事を拾いました

男の子を拾った。

彼の瞳はまるで星が煌めく夜空のようだった。

初めてあんなに綺麗な瞳を見た。

気がつけばその儚くしい瞳に一瞬で心奪われていた。

あの日、王太子の婚約者である私は王城で妃教育をけていた。

やっとすべての授業が終わり迎えの馬車で帰路につく。やがて太はオレンジに変わり馬車の中を照らしていた。

「はあ……帰ったら宿題を済ませて、明日の予習をして、それから來週が期限の刺繍も進めなくちゃ……うう、魔道の開発に充てる時間が取れない」

「ロザリア様、応援してますよ」

毎日付き添ってくれる護衛騎士セインの言葉にがっくりと項垂れる。

私、ロザリア・スレイドは十五歳でひとつ年下のウィルバート王太子殿下の婚約者となり、ちょうど一年たつ。

父が治める伯爵領では魔石鉱山があり、昔から魔石の採掘と魔道の開発で潤ってきた。父は魔道開発の第一人者で、我が家に訪れるいろんな國の學者から話を聞くのがとても楽しかった。

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そんな私が魔道の開発に手を出すのは當然の流れだと思う。

十二歳の頃たまたま父の目にった私が開発した魔道を売りに出してみたら大ヒットして、それからは好きにやらせてくれていた。

はただの魔道オタクなのに、なぜか魔道開発の天才と噂が広まり王家から婚約の打診がきてしまったのが運の盡きだ。

正直、王太子妃とか面倒くさい匂いしかしない話に魅力はじなかった。私としては家族や領民たちが喜ぶような魔道の開発をしていたかったのだ。

だけど王家からの打診に伯爵家が逆らえるわけもなく、家族や領民のことを考えたら頷くしかなかった。それでも父は最後まで「嫌なら斷ってもいい」と言ってくれていた。それだけで十分だった。

「やっぱり斷ればよかった……いやいや、今だけ頑張れば王家の名の下で魔道の開発ができるんだし、今さら斷ったら伯爵家なんてあっという間に沒落……!」

ブツブツと獨り言を吐き出しているが、いつものことなのでセインはまるっとスルーしている。

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「ううう、こうなったら早く妃教育を終わらせて開発の時間を作るしかな——」

その時、ガタンッと大きな音を立てて馬車が止まった。セインは瞬時に構えて腰に差した剣に手をかけている。

窓から外を覗くと、まだ王都にある伯爵家のタウンハウスに戻る途中だった。

「——っ! 〜〜い!! ……か!?」

者であるタイラーの焦ったような大聲が聞こえてくる。

「なにかあったのかしら……?」

「様子を見てきます。々お待ちいただけますか?」

し待っていても襲撃をける様子はない。わずかに聞き取れる聲からどうやら怪我人がいるようだった。

魔道ならいつも持ち歩いているから、役に立てることがあるかもしれないとスルリと馬車道に降り立つ。

聲の方へ向かうと地面に人が倒れているのが目にってきた。タイラーは焦ってオロオロと歩きまわり、セインが倒れている人の怪我の狀況を調べている。

「タイラー、何があったの? その方は怪我をされているの?」

「ロ、ロ、ロザリア様っ!! 申し訳ありませんっ!! そこの脇道から年が出てきて倒れてしまったんです! どうしよう……大怪我してたらどうしましょう!?」

「タイラー、落ち著け。馬に蹴られた怪我じゃない。ただ倒れた拍子に頭を打っているかもしれない」

「だったら救命用の魔道があるから大丈夫よ。それにしても……」

そこに倒れていたのは私よりも幾分く見える年だった。

著ているものはくたびれて所々破けているし魔力は枯渇狀態。髪は黒髪なのか濃いグレーなのかボサボサで埃にまみれていた。腕も足も枯枝のようで瀕死の狀態だ。ひどい狀況だったのが一目でわかる。

もしかしたら倒れたのは私たちの馬車のせいかもしれない。そうでなくともこの年をこのまま放っておけるわけがない。

セインとれ替わり、魔道袋の中から回復魔法が込められた指を取り出して使用した。淡いグリーンのに包まれて、細かい傷はみるみる治っていく。他に大きな怪我はないようだったので、抱き上げてひとまず聲をかけた。

「ねえ、大丈夫? 回復魔法をかけたけど他に痛むところはない?」

「……ぅ……ぁ……」

反応がある、よかったわ! 意識が戻ってきたみたい。はああ、本當に死んでなくてよかった!!

年がゆっくりと瞳を開く。

その瞳は深い青に金の粒が散りばめられていて、まるで満天の星空のように繊細でしい。私は惹き込まれるように見ってしまう。

一瞬で心を奪われた。

その瞳をずっと見ていたいと思った。

でも年は私を見て一瞬大きく目を見開いたあと、再び気を失ってしまった。閉じてしまった瞳にガッカリしたところでハッと我にかえる。

「あっ……気を失ってしまったわ……セイン、この年を屋敷に連れ帰ります。まだ使えそうな魔道があるから、屋敷に著くまで片っ端から試すわ」

「承知しました」

「タイラー、心配ないから屋敷まで急ぎでお願いね」

「はっ、はいっ! 最速で戻りますっ!!」

屋敷に著くなり醫者を手配して必要な処置をお願いする。命に別狀はないようだと聞いてホッとをなでおろした。

年を屋敷に連れてきてから三日後のことだ。

いつものように妃教育を終えて屋敷に戻ると、タウンハウスを統括管理する家令のブレスが出迎えの際に報告があると口にした。

「ロザリア様。例の年が目を覚ました」

「そう! 目覚めてよかったわ」

「ですが、魔力暴走を起こして怪我人はいませんが屋敷に々被害が出ております。いかがなさいますか?」

「魔力の暴走を起こしたの……? 狀況を確認したあと話を聞くから私室に連れてきてもらえる?」

「かしこまりました」

魔力を多く保有する者はが昂るとところ構わず魔力を放出することがある。これを魔力暴走と呼び、時には周りのものを破壊し盡くすほどの大きな被害が出ることがあった。

今この屋敷で判斷を下せるのは私しかいない。お母様は領地でい弟と暮らしているし、お父様は行ったり來たりだけど一週間前から領地に戻っている。いざとなればブレスが補助してくれるので、まずは話を聞いてみることにした。

被害が出た部屋を見てみると壁から天井までズタズタになっていて、誰も怪我をしていないのが奇跡的な狀況だった。

部屋に戻ってメイドに著替えを手伝ってもらい、一息ついたタイミングでブレスがあの年と一緒にやってきた。年は張した面持ちで部屋にってくる。

「元気になってよかったわ。それで、どうしてあのような狀況になったのか聞かせてもらえる?」

年はその問いかけに答えようと、私が腰を下ろすソファーの前までやってきて膝をついた。ここまでの作が流れるようにしくて思わず見惚れてしまう。

「助けていただいたのに、恩を仇で返すような真似をして本當に申し訳ありません。が昂ってしまって抑えることができませんでした」

「そうだったのね……もしかして使用人が何か無禮な対応をしたのかしら?」

「いえ、違います。とても良くしていただきました。これは俺の問題です。弁償するにもお恥ずかしいのですが手持ちがなく、よろしければこちらで働いてお返しできませんか?」

予想外の返答に困してしまう。のこなしやけ答えからある程度の教育をけているのは間違いない。

弁償の話も出てきたことから、どこかの貴族か商家のご子息なのかもしれない。それなのにここで働きたいという。

「それよりも貴方のお父様やお母様が心配されているでしょう?」

「父も母もはるか遠い場所にいて會うことは葉いませんし、旅の途中なので心配は無用です。このもあと二、三年経てば大きくなりますので必ずお役に立ってみせます!」

年はまっすぐに夜空の瞳を向けてくる。年をひとり旅に出すなんて、ご両親はなにかご事があるのかしら? あまり深りしない方がよさそうだし、ここはお斷りしましょう。

「……未年を屋敷の従業員として雇うわけにはいかないわ」

「こう見えて人の十五歳は超えております」

「噓でしょう!?」

思わず淑らしくない聲をあげてしまったけど、年はどう見たって私よりもい。

「俺の一族は長期がくれば一気に大きくなるんです。必要なら魔道を使って調べてください。決して噓は申しておりません」

年の意思は固いようで、何を言っても引く様子はない。この見た目が一族の特徴……つまり伝というなら、彼にはどうしようもないことだ。

「まあ、人しているなら問題ないわ」

「それでしたら俺は魔法も使えるし、護衛もかねてロザリア様の専屬執事として雇っていただけませんか?」

「専屬執事……?」

「はい、もし俺の出自が問題だというなら提示された條件で魔法契約を結びます。奴隷契約でも構いません。専屬執事の技量が足りないなら一年くだされば、すべてにつけます」

畳み掛けるようにグイグイとくるけれど、魔法契約だの奴隷契約だの余程でなければ使わないものだ。魔力を使った契約は絶対的な強制力を持つゆえ簡単に使うものではない。

「そこまでしなくてもいいのよ、こちらにも落ち度があったのだから……」

「いえ、最初から負っていた怪我も治療していただいたのです。これで恩返しができるなら安いものです。誠心誠意ロザリア様にお仕えいたします」

固い決意をめた夜空の瞳は、より一層煌めいていた。

何を言っても引く気がないのだと視線で訴えてくる。

「……わかったわ。あなた名前は?」

「アレスと申します」

「ではアレス。これからよろしくね」

アレスと名乗った年はたった四ヶ月で屋敷の護衛隊長まで倒して実力を示し、執事教育を完璧にマスターした。

こうして彼は私の専屬執事になった。

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