《【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺が待っていました》22話 特別な人
「お嬢様、お口に合いませんでしたか?」
「えっ、あ、違うの。疲れてボーッとしてただけよ。アレスの料理はとても味しいわ」
晝食中なのに、ついついアレスに見惚れて手が止まってしまっていた。
本當にこの前から自分がおかしいのはわかってる。気がつけばアレスを目で追って、その所作のしさやキリッとした橫顔に目を奪われてしまっていた。
どうしましょう。このままでは何も手がつかないわっ!
この前からずっと考えているのに、なんの答えも出せてない。アレスはますます苛烈にを伝えてくるし、ひとりで考える時間がしい……! そう、ほんのしだけひとりになりたいのよ!!
「アレス、素材の調達を頼みたいのだけどいいかしら?」
「はい、もちろんです。何が必要ですか?」
「本當に申し訳ないのだけど……黒水晶をお願いしたいの」
ちょうど竜王様から依頼されたところだから、今頼んでしまおう。そうしたら時間が稼げるはずだ。
「承知しました。おひとつでよろしいですか?」
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「竜王様にこの前の魔道のスペアがしいと依頼されていて、五個しいの」
「五個ですか……」
アレスは手を止めて思案している。十年に一度出るかどうかの素材だし、それを五個なんて無茶振りもいいところだとわかってるけど、これくらいしか思いつかなかった。
「集めることはできますが、數週間かかると思います。よろしいですか?」
「ええ、それは當然よね。アレスが素材を集めている間はちゃんと留守番しているから大丈夫よ」
「父上からの依頼ならばその間は城で世話してもらいましょう。最短で収集してきます」
「え、大丈夫よ。ひとりでもできるわ」
私を心配したアレスが王城で過ごせと提案してくる。それではひとりになれないから卻下したい。
「何日かかるかわかりませんし、食事の用意やその他諸々やらねばならないことがございます。本當におひとりでできますか?」
だけどアレスの言葉で現実を突きつけられる。
こんなでも貴族令嬢や王子妃だったから、お茶くらいしか淹れられない。今までアレスが長期間留守にすることがなかったから頭になかった。
一瞬で諦めてパーフェクトな専屬執事の言葉に素直に従うことにした。
「……ごめんなさい、王城で待ってます」
「はい、ではその様に手配して參ります」
* * *
翌日アレスに王城の魔道を開発した研究室まで送り屆けられた。そのまま名殘惜しそうにするアレスを見送って、せっかくだから魔石板の加工をしようと著替えをすませる。持ってきた黒いエプロンをつけたところで、ノックの音が部屋に響いた。
「ロザリア様ー! お會いできて嬉しいですわっ!」
「ジュリア様、お世話になります」
扉を開ければツヤツヤした頬をほんのり紅く染めたジュリア様が満面の笑みで抱きついてきた。
ラクテウスに戻ってきてからはお互いに行ったり來たりして、この二ヶ月ほどお茶を飲んだり食事を共にしたりと親を深めている。
そうだ、今なら話してもいいかもしれない。
今までも私の話をちゃんと聞いてくれていた。ハッキリと意見も言ってくれるし、相談相手に最適だと結論づけてお茶の準備をはじめる。
ソファーに並んで腰掛け、一息ついてから口を開いた。
「あの、ジュリア様。聞きたいことがあるのです」
「はい! 何でしょう? 何でも聞いてください!」
「実は、がどの様なものかわからないのです」
「?」
「はい……アレスに番として求婚されてますけど、自分の気持ちに自信がなくて返事できずにいるのです」
話していて段々と恥ずかしくなり俯いたまま顔が上げられない。こんな相談は今まで誰にもしたことがなくて、ちゃんと伝わっているか不安になる。
「なるほど、そういう事だったのですね」
「どうしたらしていると判斷できるのでしょうか?」
「ううーん……そうですね、わたしの場合はですけど」
ジュリア様はお茶を一口含んで優雅な仕草でカップを戻す。視線をじて顔を上げれば、金のが浮かぶヘーゼルの瞳が私を優しく見つめていた。
「その人のためなら、代償を払ってもいいと思えるかどうかですね」
「代償を……」
つまりその人のためなら、何かを失っても構わないかどうかだ。
「例えばですけど、家族のためにわたしは奴隷になってもそれでいいと思いました」
「それならわかります。私も家族の幸せを願ってここにやってきました」
「他にも友のためにを削って助けたり、親であれば子のために手間も時間もかけるでしょう。それから……」
そこで一旦言葉を區切ると、ジュリア様は激の炎を燈した瞳で艶やかに微笑んだ。
「わたしはカイルの幸せのためなら、この命すら差し出します」
カイル様に対する真摯で熱い想いを耳にして、番となった伴も竜人と同じように深く深くするのだと知る。
「難しく考える必要なんてないんです。ロザリア様はアレス様が幸せになるために何ができますか?」
「私ができることなら何でもするわ」
そんなのは考えるまでもない。アレスは大切な人だから。
「それは他の人たちにも同じ様にできますか?」
「他の人には……全員に同じ様にはできないわね」
頭に浮かんだのはウィルバート殿下だった。一応元夫だったけど、アレスと同じ様になんてとてもじゃないけど無理だ。
「例えばですけど、アレス様が他のと寄り添っているところを想像してみてください。どんな気分ですか?」
「…………それは、いい気分ではないわ」
そんな事ないとはわかっているけれど、想像しただけで悲しみと虛無と激しい獨占があふれかえる。自分の心がこんなにも反応するなんて気がつかなかった。
「それってアレス様だけ特別ということではないですか?」
「————っ!!」
特別。
そうだ、特別なんだ。
いつも側にいてくれて、一緒にいすぎて當たり前になっていたけどアレスは紛れもなく私の特別と言える。
いつからなのか……思い返してみれば、初めて會った時にあの夜空の様な瞳に心を奪われた。それからずっと側にいてくれて、変わらず大切にしてくれている。
それを他の人に向けられるなんて嫌だと、私だけ見ていてほしいと思ってしまった。
「確かに……そう言われると……これがしてるなの?」
「ええ、はたから見ててもわかりやすかったです」
「えっ!? そうなの!?」
「だってロザリア様はアレス様にだけは全然違う反応でしたから。だから番として伴になってないのが不思議でたまりませんでした」
ここに來て何という衝撃の事実だろう。そんなに態度に出ていたのだろうか? ということは、もしかして。
「まさか……みんな気がついて……?」
「はい、竜王様もサライア様もカイルも伴になられるのを楽しみにしてますよ」
「なんて事……もしかしてアレスも気がついていたのかしら!?」
「一生懸命考えてるロザリア様が可くてたまらないって惚気られました」
「噓でしょう!?」
こういう時にピッタリな表現を知っている。
があったらりたい、だ。
ジュリア様には相談のお禮に前からしがっていた魔道を渡してお帰りいただいた。その後ひとりになった部屋でのたうち回ったのは言うまでもない。
- 連載中121 章
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