《【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺が待っていました》24話 本當に盡くしてくれた人(ウィルバート視點)
『本當に殿下に盡くしていた方がどなたなのか、よく考えてください』
そう言い殘して宰相は頭を下げて執務室から去っていった。またひとりになったボクは、目の前に置かれたかつての友と婚約者の行く末に目を通していく。
読み進めていくほど反吐がでる容だった。
ボニータはハルクとゴードン、それから男爵家に出りしていた商人とも関係を持っていた。それは王立學院の頃からだ。何も気が付かなかった自分に笑いが込みあげる。
ボクが帝國に行っている間は寂しかろうと、あえてハルクもゴードンも殘していったがこれ幸いと楽しんでいたようだ。ハルクとゴードンは自でも避妊薬を飲んでいたのと、関係を持ったタイミングからして出りの商人が父親だろうと書かれていた。いずれも子が生まれればはっきりする事だ。
そもそもボニータがわざと懐妊して離縁するという計畫も、もとはファンク男爵が考えたものだそうだ。
ボニータたちは牢屋でも喚き散らして三人とも獨房に移されたと記されていた。この短時間で移されるとはよほどの醜態を曬したのだろうが、もう塵ほども興味がわかなかった。
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ハルクとゴードンはふたりともボニータに唆されただけだし、王太子の命令で寂しくないように相手をしていただけだと供述していた。相手をするのに関係をもつなど裏切り以外のなんだというのだ。
ファンク男爵一族は公開処刑。ボニータは出産後に同じく公開処刑。ハルクとゴードンは廃嫡の上、國外追放。
子には罪がないので地方都市の孤児院にかに預けられることになる。
『本當に殿下に盡くしていた方がどなたなのか、よく考えてください』
再び宰相の最後の言葉が浮かんできた。
ロザリアが?
あんな地味で生意気ながボクに盡くしていただって?
あんな————
『ウィルバート殿下、今日のドレスはどうでしょう? 気にっていただけると嬉しいのですが……』
『ウィルバート殿下。至らなくて申し訳ございません。次の夜會からは歩きやすいヒールにいたします』
『公爵様は私の実家が販売した魔道についてお尋ねになられたのです。後で手紙でもお答えできる容でしたのに、不快にさせて申し訳ございませんでした』
『ウィルバート殿下、伝言がございまして……』
『ウィルバート殿下』
思い浮かぶのは穏やかで優し気なロザリアばかりだ。ボニータのようにわがままを言うこともなく、いつもしだけ悲しそうに微笑んでいた。
そして唐突に宰相の言葉を理解する。
そうだ、ロザリアだけがずっと変わらずボクに盡くしてくれていた。それを跳ねのけていたのはボク自だ。
「ロザリア……ロザリア! そんな、ボクはなんていうことを……ロザリアッ!!」
どんなに後悔してロザリアの名前を呼んでも、靜まり返った部屋に消えていくだけだった。
* * *
「ちょっと、ハルク!! 聞こえてるんでしょう! 何とかしてよ! こんな時のためにアンタと寢てたのに、全然役に立たないじゃないっ!!」
「うるさいっ! お前の口車に乗らなければ、今頃は殿下の側近でいられたんだ! お前がってきたからだ!」
「そうだ! ボニータが絶対にバレないっていうから……だから! 約束が違うだろ!?」
「はっ! ハルクもゴードンもバカなの!? アンタたちが側近だから使い勝手良さそうだと思って相手をしてあげただけじゃない!」
「何だと!? 碌に政務もこなせない低能が何をいう!」
「オレの気持ちを弄んでたのか……ボニータ! お前、許さねえ!!」
獨房に移されてもなお三人は延々とお互いを罵り合っていた。真摯に自分の役目を全うしていれば、ここにいることはなかったのにそのことには誰も気がつかない。聞くに堪えない罵詈雑言に獨房の看守は辟易した。
「お前らうるさいぞ! そんなに元気があるなら飯は抜きだ! いいか、靜かになるまで飯は運んでこないからな!」
「そんなっ……ごめんなさい! 何でもしますから!」
「待てっ! それは規律違反だろう!?」
「飯は持ってきてくれよ! 頼むよ!」
「だったらその薄汚え口閉じて黙ってろ!!」
やっと喚き聲が聞こえなくなった獨房は、いつもの靜けさを取り戻した。そして刑は粛々と執行されたのだった。
* * *
あれから二ヶ月間、どうやったらロザリアが戻って來るか考え続けた。
まずは居場所がわからないので探すところからだ。
すぐ捜索を始めたがスレイド伯爵家にはいなかった。もしかすると他國に行ってしまったのかも知れない。だとすると捜索は困難だ。
こうなるとロザリアが実家に戻ってきたところを捕まえるしかない。
「だが……いつ戻ってくる? このままではダメだ。待つだけなど無理だ。今すぐにでもロザリアに會いたいんだ……!」
をかきむしる様な焦燥がボクを急き立てる。
もう一分一秒も待てないと、ロザリアを求めていた。
「ロザリア……どうすればお前に會えるのだ?」
そんなボクを見かねた父上と母上からある計畫を聞いたのは、雪が積もり窓の外が白銀に包まれた頃だ。心を打ちのめすような寂しさに寒さが追い打ちをかけて、眠れない日々が続いていた。
「ああ、ウィル! またやつれて……目の隈もひどいわ相変わらず眠れていないの?」
「それよりどうしたんですか? 急に朝食を一緒になんて……ロザリアの件で何かわかったのですか?」
珍しく朝食を一緒にと言ってきたから、ロザリアか政務についての話だと思った。ボクがロザリア捜索の時間を捻出するために、政務は父上と母上にも負擔してもらっている。
「いや、そちらは進展がないままだ。忽然と消えて消息がつかめない。だが、二日前にスレイド伯爵家に一通の手紙が屆いたと知らせがった」
「……その手紙が何なのですか?」
「ロザリアからの手紙だったそうだ」
「本當ですか!?」
朦朧としていた頭が一気に覚醒しはじめた。
直接的な報ではないがロザリアにつながるかもしれない、そう思うといても立ってもいられなくなる。ソワソワするボクに父上が言葉を続けた。
「そこでだ、ひとつ策を講じようと思っておる」
「実はね私たちも政務の負擔が大きくて、以前のように戻したいのよ。確実にロザリアを従わせるために手段を選んでいられないの」
「一どのような手を使うおつもりですか?」
なかなか策を口にしない父上と母上に苛立ちながらも問いかけた。
「スレイド伯爵を何かしらの理由をつけて投獄する。そうすればロザリアのことだ、必ず戻ってくるだろう」
「それはそうだと思いますが……どのような理由をつけるのですか?」
「今回のロザリアから來た手紙で報洩の嫌疑をかけて、調査中に証拠隠滅を防ぐためとすれば引っ張れる。今後のことも考えて罪は著せられないからな。あくまで疑いになるが、これで上手くやるしかない」
確かに家族思いのロザリアなら黙って見ていられないだろう。家族のために戻ってきたところで、妻になれば父親を釈放すると言えば嫌とは言わないはずだ。かなり強引な気もするが、行方がわからないのだから仕方ない。
「それからウィルバート、ロザリアを手元に置いたら確実にあなたのものにするのよ。方法はなんでもいいわ。ロザリアとはもともと夫婦なのだから子をなしても構わないわ」
「ボクのものに……子をなす……」
そうだ、もともと夫婦だったんだからボクのものにしてもおかしくないのだ。ずっとずっと妻として側にいたのだから、ロザリアだって嫌じゃないはずだ。
きっとボクが気持ちを向ければ、喜んで戻ってくる。あれだけボクに盡くしてくれたんだから間違いない。
ロザリアをボクのものにすればすべて解決するんだ!
ぱあっと視界が開けたようにじて、気力が湧きあがる。食もなくて弱っていたに喝をれスープを口に運んだ。やさしい味のはカラカラになった土に雨水が染み込むように、ボクのにゆきわたっていく。
そこから取り戻すように食事を口にしていった。
「まあ、ウィル! 食が戻ったのね! さあ、さあ、たくさんお食べなさい」
「よし、それではロザリアを取り戻すための計畫を開始しよう。ウィルバート上手くやるのだぞ」
「任せてください、ボクがちゃんとロザリアを大切にすればすぐに元通りになります」
ボクは信じて疑わなかった。
ロザリアに會ってボクが今度こそを示せば、前のように夫婦になれるのだと思っていた。実際に今まではほぼ全てのことが思い通りになってきたからだ。
だから人生では取り返しのつかないものがあるなんて、知りもしなかった。
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