《【電子書籍化へき中】辺境の魔城に嫁いだげられ令嬢が、冷徹と噂の暗黒騎士に溺されて幸せになるまで。》第二十六話 呪いを解くために

悪魔の心臓を貫くように、その剣は突き刺さっていた。悪魔は痛みをじていないのか、そのまま振り返ろうとする。だが剣が抉られ引き抜かれると、その場に倒れ伏し、そのまま消え去っていく。イダ以外、私たちはその場に腰を落としてしまった。

通路の向こうからヴァルがやってきた。私は言葉を出し、近づこうとするも、腰が抜けてしまって立ち上がることすらできなかった。けない……。

「大丈夫か、お前たち!」

ヴァルの後ろから、さらにリール男爵の姿が現れた。リリンは涙を流しながら男爵にしがみつく。私はと言うとそういうこともできず、ただ助けてくれたヴァルを眺めているしかなかった。

「ヴァル……」

「無事で何よりだ。よかった」

「うん、ありがとう……」

何とか立ち上がることができるようになったので、私はゆっくりと起き上がり、レイにも力を貸す。レイは「申し訳ございません……」と謝っていたけれど、それはお互い様だ。こんな危険な場所に連れてきた私も悪いのだから。

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「しかし、さっきの化けはなんだ。魔ですらあんな奴は見かけたことがないぞ」

「魔とは違うよ、馬鹿たれ」

と言うのはイダだ。ヴァルはイダがいることに今更驚きをみせた。イダはケッと悪態をついた後、通路を進みだす。私たちもそのあとを追った。

「あれはなんですか、呪師イダ」

「あれは呪師が間違って呼び出してしまった者……悪魔とも言われているが、そんな生易しいものじゃないさ」

「悪魔……おとぎ話に出てくる、あの?」

ヴァルがそう尋ねると、フンとイダは鼻から息を吐いて階段を上っていく。私もおとぎ話で見たことがない。先ほど実際に見たのが初めてだ。それでも恐ろしさをじたのだから、おとぎ話で人々を恐怖に陥れたのはもっと強大な存在だったはずだ。

「おとぎ話ねぇ。ワシが若いころには実際に現れたことがあったよ。馬鹿な連中が、國の民草を生贄にささげて、強大な力を手にれようとしたのさ。その結果は一瞬だけの召喚で、強大な力を手にれるどころか、その力で一瞬としてその國は地図からなくなったねぇ」

「……っ! そんな、恐ろしいものが……!」

私は恐怖で震いしてしまう。あの悪魔でさえ、まだ弱い部類にるという事なのだ。もし、イダが話すような悪魔を呼び出そうとしているのだとしたら、どうすることもできないのだろうか。私は、何も口に出せなかった。

「だが、その力を封じられるものもいる」

「それは、いったい?」

イダの言葉にヴァルが訊ね掛けると、突然彼は立ち止まり、私の方を向いた。

「本當の聖の力さね」

「本當の、聖の力?」

私にはよくわからなかった。聖というのは、魔法が使えるだけの存在ではないのだろうか。だからこそ、イダは初めて私と出會ったとき「魔法使いもどき」と言ったのだと思った。

イダはふんと鼻を鳴らすと、私に向かって杖を向ける。

「あんたたちはゆがんだ形で聖を伝承してきたのさ。本當の聖は魔法使いなんかじゃあない。『まじない』使いだよ」

「『まじない』使い……? それって、お願いをすることで葉えることをできるということですか?」

「最初にお前さんの魔法を見ておかしいと思ったんだ。なぜ『詠唱もなく』唱えられるのかとね」

確かに私の魔法は詠唱を必要としていない。姉が魔法を使うときはいつも詠唱をしていた。今更だけれど、それを思い出す。

「あんたの親や姉は出來損ないと言ったそうだけれど、それはまず間違いだ」

私は出來損ないじゃない? 私は、役立たずではない? 私のが、思いを募らせて震えてくる。イダは続けて言った。

「しかし、間違った『まじない』の仕方をしたから、あんたは『回復魔法』しか使えないと思われていたんだ。あんたが回復魔法とやらを使うとき、どう願っていた?」

「それは……傷が治りますようにって。誰かの役に立てますようにって」

「だから傷が治ったんだ。誰かの役に立ちたいという曖昧な願いが、たまたま傷や癒しにつながっていただけなんだよ。それも代償を小さくね」

「確かに、ガーランド城の兵士全員を癒したときも多の疲れだけで済みましたものね……」

「それに、回復魔法であるならば俺の呪いを退けるということはできなかったのかもしれない」

私は愕然としてしまった。今まで、なんで気づかなかったのだろうか? 気づいていれば、もっと別の人生を歩めたかもしれない。だけれど、それはただの後悔でしかないのかもしれない。今の私がいるのは、私が今まで歩んできた結果だ。

私はそう思いながら、首を橫に振って気を取り直す。

「私にそんな力があるんだとしたら……悪魔も倒せるかもしれない……!?」

「愚かだね、そんな力があるものか」

「でも、そういうことじゃ……?」

「お前さんにできるのはさっきの悪魔一匹封印することぐらいだろう。それもしっかりと魔法を使えたとして、じゃ。昔はそのレベルの聖が千人揃ってやっと追い払うことができたのだから」

「千!?」

千人の聖がいたなんて聞いたこともない。しかも今その聖け継がれていたのはカラディア公爵家だけだったのだ。ほとんどの聖筋は途絶えているのだろう。途絶えていなかったとしても、その力を正しく使えるものがいるかどうかもわからない。

「……あくまで、エドガーとやらがその規模の悪魔が召喚できたら、場合の話だよ。今は別に気にしなくてもいいだろう。この屋敷を見る限り、生み出せるのはあの小さな一匹だけだったはずじゃ」

「では、ひとまずエドガーを探させましょう。何かがあってからは遅い。きを封じるぐらいはしなければ」

ヴァルがそう言うと、リール男爵に命じてエドガーの探索へと行かせる。そして屋敷を出たのち、私たちは王宮へと向かった。怪しい老人がいることに訝しげな表を浮かべる使用人たちもいるが、イダは全くと言っていいほど気にしていなかった。

「だけど……、ヴァル。エドガーがこのまま何もせずに済むと思う?」

「……俺も同じことを考えていた。ヴェイラたちを捨てたことも気になる。何か、何かをしでかそうとしているんじゃないかと、俺にも……」

「……そうだね。ところで、姉さんたちは?」

「……すまない」

その一言で察することができた。でも、あの狀態から元に戻ることなんてできなかったのだろう。私にヴァルを責める事はできないし、するつもりもない。

「ヴァル、優しくなったね」

「……そうか?」

「そうだよ。昔だったら始末した、なんて一言で終わらせていたはずだもの。すまないなんて謝ることなんてなかった」

「……そうだったか。お前も、変わったな」

「え?」

「昔のお前だったら、今の聖の話を聞いて、自分には無理だと言っていただろう。それを、前向きにとらえられているのは強かになった証拠だ」

「そうかな」

「そうだよ」

お互いに褒めあうとなんだか恥ずかしくなってきた。そんな様子を見ていたのか、レイも笑みを浮かべていた。

私たちが出會って二年。怒濤の月日が流れていったのだと思う。苦しいこともあれば、悲しいこともあった。嬉しいこともあれば幸せなこともあった。

そんな日常を壊させてなるものか。

「なあにもう終わったかのような顔をしているんだい、まだまだだよ」

「え?」

「あんたには一人前の聖になってもわなきゃ困る。そのために力の使い方を學んでもらうよ」

予想外の言葉だった。私が驚いていると、イダは私の頭を杖でたたいた。いったっ! 何するの!

「魔法使いもどきから聖もどきになれたんだ、謝してもらわなきゃねぇ」

「でも使い方を學ぶってどういうことをするの?」

「その実験臺がここにいるってことさ」

「実験臺……って」

たどり著いたのは、國王陛下がいる寢室だった。イダは親衛隊が止めるのもにらみつける。

らせてくれ。今までの報告もしたい」

「はっ……」

ヴァルの言葉でようやく部屋にれてもらうと、部屋にはジェームズ國王が一人眠っていた。イダは構わずその傍に歩み寄り、聲を掛ける。

「まったく、あの馬鹿みたいに筋だるまだった男が、こうも細くなるとはね」

「……懐かしい聲だ。幾分、かすれているようだが」

まるで懐かしい知己に出會ったかのように二人は聲をおし合う。私たちはただ驚いて見守っていた。

「ふん、お前に言われたかないね、ジェームズ。クソ騎士が。王様だなんて偉ぶるようになって」

「……はは、あの時は魔と呼ばれていたのが懐かしいな、イダ。どうして戻ってきた」

しは借りを返してやろうと思ってねぇ。ほら、聖もどき、こっちに來な」

突如指名された。私は慌てて王様の近くへと歩み寄る。そして椅子に座ったのを見たイダは私にこう言った。

「この男の呪いをまず解くよ。そのために力を使いな」

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