《【電子書籍化へき中】辺境の魔城に嫁いだげられ令嬢が、冷徹と噂の暗黒騎士に溺されて幸せになるまで。》第二十七話 覚醒
ジェームズ國王の呪いを解く……ことをするって……私ができるのだろうか。いや、やってみせなければいけないのだろう。私はゆっくりと意識を高めて、いつもの魔法を使って見せる。ジェームズ國王のがに包まれたが、呪いが解ける事はなかった。
「……なるほどね、これはずいぶんと矯正が必要になりそうだよ」
イダの言葉に私はうなだれてしまう。これでも力をつけてきたと思ったのだけれど、それでも駄目なのだろうか。いや、へこたれている場合じゃない。私の力が聖として目覚めれば、ジェームズ國王だけではなく、ヴァルのだって治せる。元の人間に戻ることができるんだ。
「私はあきらめない……!」
私は何度も唱えた。今度は願うように。それでもなお呪いは解けない。
「さて、ジェームズ。あんたが隠したあれの居所も教えてもらおうか」
「……あれ? なんのことだ?」
「アルテミスの涙」
「……ああ……お前にプレゼントしようと思って、突っ返された奴だな」
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アルテミスの涙、とは何だろう。と思いながらも私は力を使い続けた。いつもと勝手が違って、し疲れが出てくる。
「あれならば、そうだな……どこにしまったか……」
「必死に思い出しな。あれがないと、今度はこの國が亡びる番かもしれないよ」
「……それは困るな」
ジェームズ國王はそう言って黙った。私は力を使い続ける。そうして、し経った後、ジェームズ國王は不意に起き上がり、私とヴァルを見つめた。
「……お前たちの思い出の場所の地下深くだな」
「私たちの……?」
「もしかして、ガーランド城……?」
「そうだ。あの寶石は凄まじい力を持っていた。だから、このイダに預けようと思っていたのだが、突っ返されてな。お前がしっかりと管理しろと。だから私はその時領地にしていたガーランド城の奧深くに隠すことにした」
「そんな話、聞いたこともありませぬが……」
「聞かれもしなかったし、今更あれが必要になるとは思っていなかったからな」
と、し冗談じりに言うところを見ると、元気になってきたのだろうか。私は汗をぬぐって、ジェームズ國王に訊ね掛ける。
「その寶石は一……?」
「さあ、そっちの婆さんが詳しいんじゃないかな」
「今はそれを話すときじゃない。が、今後もしかすれば必要となるかもしれないものだとだけ言っておくよ。あんたは力を使いな! 効率が悪いから疲れるんだ」
そんなこと言われてもどうすればいいのかわからない……。私はがむしゃらに力を使い続ける事にした。もうが倒れても構わない。とにかく今はやるしかない!
「わかりました、ともかく必要なものとあれば私が取ってきましょう。ガーランド城であれば地理にも詳しい」
「あそこには數々の罠が仕掛けられている。気を付けていくんだぞ」
「わかりました。……呪師イダ、どうかアリエスのことをよろしく頼みます」
そう言って、ヴァルは私の方を向き頷いてみせる。私もまた頷き返して力を使い続けた。そうして、三日、四日と経っていったけれど、ジェームズ國王の呪いは解除されない。とはいえ、すべてが無駄になったわけではなく、し歩いて外の空気を吸うことぐらいはできるようになった。イダは力の無駄遣いと怒っていたけれど。
そして、五日目。私の疲れも限界を迎えていた。イダはし休めと珍しくも優しい言葉をかけてくれた。私は外に出て、ひと眠りをした。なんで、私の力は変わらないのだろう。私は、何かを忘れているような気がする。
その時、夢を見た。とても懐かしい夢だった。まだ私が監される前のこと。父上が怪我をしてきたのを見て、私はびっくりしてしまったのだ。これぐらい何ともないさ、と言ってくれたことを私は憶えている。あの時は両親も優しかった。姉は相変わらずだったけれど。
あの時は何も知らなくて幸せだった。
私が初めて魔法を使ったのもその時だった。魔法の何かもわからないまま、使っていた。
何もわからないまま?
何もわからないまま、私はどうやって父の傷を治したのだろう?
『おとうさま、ケガをされてる!』
『し切ってしまったようだね。これぐらい何ともないさ』
『気を付けてくださいね、あなた』
『ああ、そうだな』
『いたいのいたいの、とんでけぇ!』
私はそう言って、緑のを照らした。父の傷が一瞬で治ったのだ。
ああ、そうか、私はわかってしまった。そう思った瞬間、起き上がる。急いでジェームズ國王の部屋を訪れ、眠っているイダとジェームズ國王を起こさないよう、ゆっくり近づいていく。
そして、私は『祈った』。ジェームズ國王の呪いが解けますように。そのためには、私の力を捧げます、と。
そうすると、薄いがジェームズ國王を包み込み、黒い靄を吸い取っていく。そしてが破れて、ジェームズ國王のは元に戻った。國王の呪いの紋章は確かのあたりにあったはずだ。私は恐る恐るそれを確かめる。
ない。紋章がない。功したのか、それともただの偶然か? 私は思い切って、ジェームズ國王のにれた。何も起こらない。ジェームズ國王の呪いが解けたんだ!
「い……やったっぁーーーー!」
私は思わずんで、その場に倒れこんでしまった。それからはもう憶えていない。気が付けば寢臺に寢かされていた。汗臭くなっていたドレスも変えられている。
「アリエス様、お目覚めになられましたか」
たまたま部屋にってきたレイがそう言って嬉しそうな笑みを浮かべる。私ははっきりしない意識の中で、確かにジェームズ國王の呪いを解いた。あれも夢だったのではないか、と思えるほどがない。
「……ジェームズ國王は!?」
「呪いが解け、今は元気にされてらっしゃいますよ。すべてはアリエス様のおかげです」
「……はぁ……よかったぁ、夢じゃなかった」
「はい、夢ではありません」
そう言って、レイは私に抱き著いてきた。私はし恥ずかしくなりながらも、レイを抱きしめ返した。
「もう、無理はしていけませんよ」
「わかっているって。でも約束はできないな」
「……承知の上です」
私たちは笑みをこぼしあった。そして、私はレイに手伝ってもらって真新しいドレスに著替え、ジェームズ國王の元へと行く。あの方は寢臺ではなく、今は王室の執務機で公務をしていた。隣ではイダが當然のようにいる。
「おお、聖よ。來たか」
「まったく、能力を覚醒したと思ったらぶっ倒れるとはけないね」
両者それぞれの言葉を私はける。イダはもうちょっと優しくしてくれてもいいじゃない。もう。
「まあでも、よくやったよ。おめでとう、聖」
と思ったら労ってくれた。私は嬉しくて涙が流れてきた。
「泣くな、馬鹿者」
「まあいいじゃないか。それよりも、お前を待っている者がいるぞ」
「え?」
ジェームズ國王が寢室のほうを指さす。私は恐る恐る扉を開けて中を確かめてみる。寢臺には誰かが眠っている。しかもボロボロな姿だ。
「……ヴァル?」
このじはヴァルの雰囲気だった。ヴァルはその聲に気づいたのか、起き上がる。
「む……眠ってしまっていたのか」
「ヴァルっ! 帰ってきていたのね!」
「……ああ、ただいま。アリエス」
ヴァルは微笑んでくれた。私は思わず抱き著きそうになったけれど、何とか踏ん張って、お辭儀をする。
「おかえりなさい、あなた」
「……そんなに恭しくしなくていいんだぞ」
「それでもです。だって、あちらには國王陛下もいらっしゃるのですから」
「いまさらだろうが。……まあいい、こっちに來てくれ」
ヴァルはそう言って私を呼んだ。なんだろう、と首をかしげて近づくと、ヴァルの手から一つの寶石が埋め込まれたブレスレットがこぼれてきた。
「これが、アルテミスの涙?」
「そうだ。本當に苦労したよ……まったく、イダの時といい、格が悪いんじゃないか、あの二人は」
「ふふ、ふふふ。不敬だよ、それは」
「はは、そうかもな」
私たちは笑いあう。お互いに無事に帰って來られて、本當によかった。
しかし、そんな平穏はすぐに破られた。
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