二百年間で一番発展したのは上下水道だ。蛇口を捻れば出るそれに、アリシアは生まれてすぐのときにして大泣きした。

魔法で水も出せたが、大量となるととても疲れるし、井戸で水を汲むのも疲れた。基本、二百年前は疲れることばっかりだった。

自由に水が出せるって素晴らしい。アリシアは改めて実する。

しかし、同時に絶もした。

「水を溫かくする技があればよかったのに……」

殘念ながらそこまでの発展はしていなかった。なので風呂でお湯を使うときは、薪をくべる必要がある。

あるはずなのだが、薪をれる部分が見つからない。

「まさか、私の実家が時代に取り殘されていたのでは……」

ありえる。大いにありえる。

アリシアの実家はとても田舎だ。未だに豬を自分で獲って食べている。

「お風呂の使い方を訊きましょう……」

なるべく煩わせたくないが、こればかりは訊かなければわからない。

昨日は旅路で疲れていたので、水でを拭いて寢てしまったが、今日は風呂にりたい。できれば湯船で肩まで浸かりたい。

アリシアはヴィンセントの部屋をノックした。

「どうした？」

出てきたヴィンセントに、アリシアは申し訳なく思いながら訊ねた。

「あの、お風呂にりたいのですが、お湯の使い方がわからないのです」

しょげるアリシアに、ヴィンセントは、ああ、と聲をらす。

「悪かった。説明を忘れていた」

そう言うと部屋を出て歩き出したヴィンセントの後を、アリシアは慌てて追いかける。浴室に來たヴィンセントは、アリシアが溜めた浴槽の水に手をかざす。ほわり、ほわり、とらかいがヴィンセントの手の平から出ている。

魔法だ。

アリシアは二百年ぶりに見た魔法から目を離せなかった。

「浴するときは今後、俺を呼んでくれればいい。わざわざ部屋に來るのは面倒だろうから、この鈴を鳴らしてくれ」

浴室に置いてあったし大ぶりの鈴をけ取り、アリシアは頷いた。

「……説明を忘れて悪かった。スープですっかり忘れて――」

そこでヴィンセントは口を押えた。余計なことを言ったと思っているのだろう。きっとらすつもりがなかった言葉だ。

「……もう寢る。おやすみ」

「……おやすみなさい」

ヴィンセントはアリシアを振り返ることなく部屋に戻って行った。

アリシアはヴィンセントが溫めてくれたお湯に手をれる。

「あったかい……」

相変わらず、魔法の使い方が上手だ。

アリシアはヴィンセントの魔法をじ取るように、しの間、手を浸していた。