あの子が、痛いと言ったから。

あの子が怪我を怖がるから。

だから。

だから、祈っただけなのに。

「化け！」

ごめんなさい。

化けで、ごめんなさい。

いアリシアが、泣いた。

◇◇◇

嫌な夢を見た。

アリシアは重たい瞼を開けた。

頭が痛い。もだるい。この癥狀には覚えがある。

風邪だ。

どうも重癥らしく、起き上がれそうもない。

どうしたものかと考えているところに、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

自分の聲ながらひどいガラガラ聲だった。

扉を叩いた張本人であるヴィンセントは、恐る恐るという様子で、部屋にってきた。思えばヴィンセントがアリシアの部屋にるのは、最初に案をしてくれたとき以來である。

「起きてこないから様子を見に來たんだが」

おそらくいつもの朝食の時間を過ぎていたのだろう。アリシアには今が何時かということを確かめる気力もなかった。

「風邪を引いたようで……」

鳴じりに答えると、ヴィンセントがし狼狽えているのがわかる。

「そうか。あとで簡単な食事を屆けよう」

「ありがとうございます」

辛うじてお禮を述べると、アリシアは再び瞼を閉じた。目を開けているのも億劫だ。

ふわりふらりと漂う意識の中、ふいにを揺さぶられ、渋々目を開ける。

「ミルク粥を持ってきた」

どうやら目を瞑っていただけではなく、しっかり眠っていたらしい。

出來立てだろうミルク粥は、ほこほこと湯気が出ていた。

「ありがとうございます」

先ほどより幾分か聲が出る。眠って力を回復させたのがよかったのだろう。

アリシアは差し出されたミルク粥をけ取り、ふうふうと息を吹きかけてし冷ますと、そのままパクリと口にれた。

「おいしい」

暖かなミルク粥が痛いによく沁みる。アリシアはもう一口食べた。空腹をじはしなかったが、どうやらは栄養を必要としていたらしい。そのままがするままに黙々と口に運んだ。

あっという間に完食し、禮を述べるアリシアに、ヴィンセントは水を差し出した。け取り一息に飲み干す。

「水瓶をここに置いておくから、適度に水を飲みなさい」

「はい」

まるで小さな子供に言い聞かせるみたいだとアリシアは思ったが、それもそうかと思い直す。

二百年生き続けたヴィンセントにとって、十八年しか生きていない自分は、子供のようなものだろう。

ああ、いつもはこんなことを思ってもなんともじないのに、今はそれを寂しくじる。

それに、弱っているときは、々なことを思い出す。

気付いたら、退室しようとしたヴィンセントの袖を握っていた。

「し」

未だ掠れた聲で言った。

「し、話を聞いていただけませんか」

前世でも今世でも、誰にもできなかった話を。