《【書籍化】萬能スキルの劣等聖 〜用すぎるので貧乏にはなりませんでした》諦めなかった男(ゼノン視點)

「勇者ゼノン……面を上げよ」

威圧的な聲が僕の頭上から響き渡る。

アルバニア王國の謁見に僕と三人の仲間は國王陛下から呼び出しをけた。

氷の魔城攻略に二十を超える回數も失敗して、アルバニア王室の予算をかなり浪費したこともあり僕のこの國の立場は相當悪くなっている。

こんなはずじゃあ無かった。未だに何が悪かったのか分からない。

Sランクスキルに目覚めし者だけで組んだ天才のみを集めたパーティー。

こんなにも豪華メンバーを揃えているパーティーは世界中探してもそう幾つもないだろう。

ひと度、戦場に舞い降りれば魔たちの大群を一気に殲滅せしめる火力の強さ。

傷付いても直ぐに回復する打たれ強さ。

最高の仲間たちと最高の冒険をしているにも関わらず、僕たちは氷の魔城に巣食う魔王の幹部に敗北を喫している。

正確に言えば、魔王の幹部と相対することが出來たのはたったの一度のみで、そのときもまるで戦いにならず大怪我を負って敗走した。

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――あの日ほど屈辱だったことはない。

「どうした? ゼノンよ、頭を上げよ……」

「も、申し訳ございません。陛下のご期待に添えることも出來ずに僕は――」

「ああ、いいから。いいから。そういうのは聞き飽きたから」

「うぐ……!」

とりあえず謝罪のポーズを取ろうと頭を更に深く下げて言葉を口にすると陛下はそれを制する。

最初の頃は謝罪すると労ってくれたのだが、既に信用はガタ落ちみたいだ。

「お主らが炎の魔城を攻略したときは、それは気分が良かったものじゃ。近隣諸國の為政者の誰もが大當たりのパーティーを召抱えたと羨ましがっとったからのう」

「…………」

「そして、このたらくを誰が予測出來たじゃろうか! 不良債権と呼ばれるようになるとは! アルバニアの恥とまで言われるとは! 誰が予測出來たのか!? 言うてみよ!!」

陛下から発せられるのは罵倒。

僕たちは命懸けで戦っているが、結果が伴わないだけで罵倒されているのだ。

ボコボコにやられても幾度も諦めずにチャレンジする神は一切認めないなど陛下も狹量ではないか。

「ここまで何度も失敗を見逃すとは、アルバニア國王は心が広いですね、と嫌味まで言われたわ!」

「そ、それはご不快だったでしょう」

「當たり前だ! 馬鹿者!」

僕らはただ、ただ、罵られる。

まるでサンドバッグのように屈辱の時間が続く。

クソッタレ。あの平凡な聖であるソアラが羨ましいよ。

僕が追放してやったから、こんな屈辱をけずに済んだのだからな。忌々しい。

「先日、ジルベルタ國王と會食してな。お前らが追放した、あの聖――ソアラ・イースフィルの自慢をされたわい! いい人材を送ってくれてありがとうとな! 近々、正式に召し抱えるとのことだ。ギルドとの契約が切れたらどうとか言っとったわ!」

「「――っ!?」」

――はァァァァァァァァァァァァァ!?

な、な、なんでソアラが……、あの凡庸で矮小な力しか持たないAランク止まりの聖がジルベルタ王室に宮仕えすることになっているのだ!?

噓だろ? あり得ぬ。あり得ぬ話だ……。

だって、あのが宮仕えなどになったら……僕たちのパーティーと同列のところに自力で上がったことになる。

それどころか僕が勇者の稱號を剝奪されれば――あのよりも下?

この選ばれしエリートの僕が、あの平凡なよりも下?

バカな、バカな、バカな、バカな、そんなバカなことってあるかーーーーーーーッッッッ!!

自我が保てないよ。そんなことになったら僕は……。

ソアラ以下などという狀況だけは到底れられない……。

「勇者ゼノンよ。お前らにラストチャンスをやろう。あと、半年じゃ! あと半年の間に氷の魔城でも何でも良い! 魔王の幹部を一で良いから討伐してみよ! それが葉わぬなら――分かるな?」

「――はっ! この勇者ゼノン! この命に変えましても、必ずや陛下のご期待に応えてみせます!!」

首の皮一枚繋がった……。

何とか半年の猶予をもらえた――。

そうだ。焦っても仕方ない。今度はこの期間を有効活用して必ずや魔王の幹部の討伐をし遂げよう。

よーし、よし。僕はまだ冷靜だ……。

どうせ、ソアラに魔王の幹部を撃破など無理なのだから……。僕はまだまだ格上だ。安心しろ……。

とにかく、ここは仲間たちと意志を統一して一丸となり目標達に向わねば――。

◆ ◆ ◆

「わたくし、このパーティーを抜けさせて貰いますわ」

「「――っ!?」」

城を出て、開口一番にエリスは栄譽ある勇者のパーティーを抜けたいと言い出した。

ちょっと待ってくれ。ここに來てエリスという戦力が抜けるのは痛すぎるなんてもんじゃない。

「おいおい、エリス。そりゃあないんじゃないか。確かに君が來てから連戦連敗だが、もうし我慢すれば――」

「我慢ならもうしました! 數え切れないくらい死の恐怖と戦いましたし、辭めたいと思った自分を幾度も起させましたわ!」

「うっ……!」

エリスはそのギラギラとるルビーのような赤い瞳で僕の顔を睨みながら大聲を出した。

王室のを引く貴族のお嬢様には、パーティーでの戦いはしだけ厳しかったらしい。

まさか、ここでこんな泣き事を聞かされるとは――。

「だがなぁ、エリス。よく聞いてくれ……」

「噓つき!」

「へっ……?」

僕がエリスに弁明をしようとすると、彼は大聲で僕を噓つき呼ばわりした。

何のことだ? 噓つきとは穏やかじゃないが……。

「ソアラ先輩のことですわ! いつか帰ってくる。彼の調子が悪いから敢えてギルドで楽な仕事をしながらリハビリさせている。そんな事をわたくしには説明していましたのに!」

「ええーっと、それはだなぁ」

あー、しまった。そういえば、エリスってソアラのことを慕ってこのパーティーにったんだっけな。

國王陛下の言葉を聞いてあのが永久にここに帰らないことに気付いてしまったのか。

面倒なことを言いやがって。どうやって、誤魔化そうか……。

「本當は追放されていたんですね!? リハビリ中の方がジルベルタ王室に宮仕えなさるはずがないじゃありませんか!」

「だから、誤解だって。痛っ――!?」

「人を小馬鹿にするのも大概にして下さいまし!」

僕は思いっきり頬を叩かれて――エリスは最近修得してくれて逃げることが楽になった“空間移魔法(テレポーテーション)”を使って消えてしまう。

う、噓だろ? 貴重なSランクスキル覚醒者がいなくなるなんて――。

あと、半年で魔王の幹部を倒せなかったら僕は勇者じゃなくなるのに……。

悪夢だ……、ゆ、夢なら覚めてくれ――。

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