《【書籍化】萬能スキルの劣等聖 〜用すぎるので貧乏にはなりませんでした》それでも、諦めなかった男(ゼノン視點)
さぁ、やって來たぞ。今日は逆転の狼煙を上げる日。
僕が勝利の雄びを上げ、勇者として確固たる地位を死守した日となるのだ。
――最難関ダンジョン・氷の魔城。
この僕、勇者ゼノンのパーティーは初めての敗北を喫した。
世界中から貴重なSランクスキルに覚醒した者たちを集めた究極のスター集団である僕たちが、幾度となく全滅に追い込まれたのである。
おかげで、以前に炎の魔城を攻略した際に“最も魔王討伐に近いパーティー”というような名聲をもらったが、それが過去の栄となり今は勇者の稱號剝奪寸前となってしまっていた――。
敗北し続けた理由――それを見つけるのは簡単だった。
聖エリスのせいである。
あの、Sランクスキルに覚醒した選ばれし者だったはずなのに平凡で矮小なスキルしか持たぬソアラなどに憧れを抱いてるとか常日頃から言っていた。
よく考えたら、それだけで知能が足りない馬鹿ってことが証明出來る。
――だって、普通に考えたらさー、憧れるのは僕でしょう?
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顔も頭も良いし、強いし、Sランクスキル持ちだし、それに僕は勇者だよ?
見る目がないの本に気付かずに、當てにしていたことが、背中を預けたことが、まず間違いだった。
とはいえ、だ。三人で氷の魔城を攻略するのはちょっと厳しい。
なので僕はアルバニア國王から期限を切られたにも関わらず、まずは仲間探しから始めた。
こういう時にこそ、冷靜じゃなきゃな。そこが僕と凡人共の違いだ。
今度はSランクスキル持ちで、更に僕のことを尊敬してる人間を探さなくては――。
「ウィーッス、ゼノン先輩! メロンパン買ってきやした! いやー、メロンパンって凄いっすね。メロンってねーのに、メロンパンっていうらしんすよ。ヤバくねぇっすか? いちごミルクにいちごって無かったら、オレぶちまかしに行きますからね」
そして、仲間にしたのがこのマルサスだ。
この男、Sランクスキルに覚醒したにも関わらず、フリーターなどをやっている変わり者でな。
勇者である僕のことを尊敬してるみたいなんだ。
だから、こうやって自ら僕のためにメロンパンを買ってきてくれた。まぁ、頼んだのはカレーパンであるが……。
「ねぇ、ゼノン。あいつみたいなので本當に良いの? あいつ、初対面で私のをってきたんだけど」
「お前が出度の高い服を著てるからだろうが。いつも注意してるだろ?」
「某の楽しみにしていたチョコレートを勝手に食べた……」
「菓子くらいで男がみっともない顔するな!」
ったく、リルカもアーノルドも弛んでる。このマルサスはSランクスキル、“バーサクゾーン”という超戦闘力アップが可能なスキルがあるのだ。
噂によるとたった一人であの強力なビッグドラゴンの群れを全滅させたのだとか。
これはエリスにも出來ない蕓當だ。ヒーラーはリルカ頼りになるが、そもそもエリスは聖のクセに治癒魔法は下手くそだったからな。
僕たちのパーティーはこれで確実にパワーアップしたはずだ。
「うっひょーーーー、あの雲、カニみてぇな形してるぜー! ハンパねー!!」
「「…………」」
なんだ、なんだ、リルカもアーノルドも不安そうな顔で僕の方を見るな。
パーティーの強さってのは才能と火力なんだ。
今、この瞬間に最強のパーティーが出來上がったんだぞ。
安心しろ、今度こそあの憎き氷の魔城を攻略してやるっ――!!
◆ ◆ ◆
「ギャハハハハハハハハハッッッッ―――!!」
す、凄い……、なんて凄まじい力なんだ……!
僕の目の前で衝撃の景が繰り広げられていた。
Sランクスキル――バーサクゾーンの凄まじい力に僕は驚愕している。
次々と躙されていくアイスゴーレムやブリザードスネークなどの氷の魔城で出現する厄介な上に強力な魔たち。
もう、「全部あいつに任せたらいいんじゃないか?」ってくらいの活躍ぶりである。
まぁ、一つだけ問題點を上げるとしたら――。
「はぁ、はぁ……、私たちまで攻撃してるじゃないのよ! 頭(あったま)おかしいわよ! あいつ!」
「斬るわけにいかない分、魔よりも厄介だ……」
そう、バーサクゾーンを使うとマルサスはアホみたいに強くなるけど、アホになった。
いやはや、計算外である。まさか、敵味方の判別がつかなくなるとは――。
「ゲギャギャギャギャギャギャ! ギャハーーーーーーーーーーーッ!」
僕たちはマルサスに思いきり毆られたり蹴られたりして、大ダメージを負う。
おかげでリルカが無駄に治癒魔法を使う羽目になり、彼の機嫌がすこぶる悪い。
魔力回復アイテムも底をつき、僕らも傷だらけで力も余りない。
このままでは、味方であるマルサスにパーティーが全滅させられる――。
撤退するか? そう思ったとき――。
「ガハハハハハハッ――、ガハッ……?」
マルサスのきが止まった。
良かったー、聞いてた制限時間よりも隨分と早かったが、どうやら力を使い果たしたらしい。
ん? それにしても、何かおかしいぞ……。
「こ、凍ってるぞ……! うっ……!!」
「な、なんですって!? きゃあっ!?」
突如として氷漬けになるリルカとアーノルド……。
空間呪法によるトラップか……!? マルサスに気を取られて気が付かなかった――。
「何度も、何度も、ご苦労なことじゃ。さすがの妾も飽きてしもうたので、な。罠を張ることにした。わざと逃がす戯れも、もう終わりにしようと思うてのう」
「お、お前は氷の王ケルフィテレサ!」
まさか、ターゲットの方から赴くとは思わなかった。
あいつさえ倒せば僕の栄は蘇るのだ。
仲間は凍ってしまったが、僕があいつを倒せば問題ない――。
「聖炎領域(セントバーナード)ッッッ!!」
僕は懸命に戦った。
一人でも、力盡きそうになっていても、奇跡ってやつが僕に味方してくれると信じて――。
そして、僕は――
「下らぬ。他もないことこの上ない」
気付けば、氷の中に閉じ込められていた――。
う、けない。そして寒い、寒い、寒い……。
ほ、本當にし、死んでしまう――。
こんな慘めな死に方ってあるか? 僕は勇者だぞ……。
こんな屈辱ってあるか? 諦めずに頑張り続けたのに―― 一、何が間違っていたというのだ?
片目が潰れて、右手の小指が千切れてしまっているが、もう痛いという覚がない。このまま死ねば、僕は勇者として三流だったと笑われてしまう。
慘めだよ……、本當に慘めだ……、クソッ、クソッ、クソッ――。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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