《【書籍化】萬能スキルの劣等聖 〜用すぎるので貧乏にはなりませんでした》やっぱり、諦めない男(ゼノン視點)

「おい、聞いたか? 大聖様のパーティーが難攻不落の氷の魔城を攻略したんだそうだ」

「へぇ、そりゃ凄い。この國の勇者が二十回以上失敗してるっていう難関なんだろう?」

「単純に勇者が弱すぎたんじゃねーの?」

「かもしれないわ。だって、大聖様って元々勇者様のパーティーにいたらしいし」

何なんだ、この地獄みたいな世間の噂は……。

まるで、氷の魔城が大したダンジョンじゃなくって、僕が弱いから全滅しまくってたみたいじゃあないか。

そして、ソアラが僕よりも有能で強いみたいじゃないか――。

「理不盡すぎるっ!!」

「「――っ!?」」

「お、おい……、あいつ勇者ゼノンじゃないか?」

「今の話を聞かれた?」

「構うことはねーよ。本當のことだし」

「そ、そうね。弱い勇者が悪いのよ。私たちの稅金を使って冒険してるんだし」

「はは、そりゃあそうだ」

酒場の噂好きのクズ共は僕の存在に気付いても口を叩かなくなるどころか、嘲笑してきた。

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こいつら、その辺のギルドに所屬してる底辺冒険者だろ? 宮仕えである、この僕が絶好調のときはペコペコしてたのに、調子が落ちるとこの態度か……。

畜生! 畜生! 畜生! 畜生! チクショー! チクショー! チクショー! チクショー! ちっくしょおおおおおおおおおっ!!

底辺のクセに僕を見下しやがって!

まるでソアラの方が僕よりも上みたいな噂を流しやがって!

こんなにも屈辱的なことってあるのか!?

こんなにも勇者たる僕が貶められてもいいと思ってるのか!?

リルカも、アーノルドも、僕のことを見限って裏切りやがった。

ソアラに謝りたいと手のひらをひっくり返しやがった。

Sランクスキル持ちというのは選ばれし特別な存在なのに、凡庸な才能しか持たんに頭を下げたいだのと、日和ったことを言うとは思わんかったぞ。

「イライラする……」

「まぁ、お兄さん。求不満って顔をしてるじゃなぁい。私が良いことしてあげよっか?」

マズい酒を延々と飲んでいたら、如何にも娼婦でございますっていう出度の高いドレスを著た赤髪のが話しかけてきた。

気に食わないな。僕がそれだけ溜まってるように見られていることが……。

「ったく、間に合ってる。それにを抱く気分じゃない」

「まぁ、お兄さんったら、エッチなんだからぁ。そうじゃなくてぇ、力がしくないのかって聞いているのよぉ。Sランクスキル何かよりも素敵な力に興味なぁい?」

「……Sランクスキル以上の力?」

なんだ、この娼婦。Sランクスキルよりも強力な能力などあるはずがなかろう。

口説き文句ならもっと整合の取れたものにしてもらえないか……。

それとも、ただの酔っぱらいか? 馴れ馴れしく肩を抱くな……。

「悪いが酔っぱらいの戯言は――」

「死神ノ唄(デスボイス)……!」

「なっ――!? あ、頭が締めつけられる……!」

僕が赤髪のを振払おうとすると、この――不快な音をいきなり放ってきた。

どう形容していいのか。言葉のようで、言葉ではない、聲。

それが途轍もなく不快なのだ。頭が締めつけられて、壊れてしまうような……。

「がはっ……」

「ぐふっ……」

「ごほっ……」

酒場の人間はれなく頭を手で押さえながら、悶苦しみ一人殘らずその場に倒れる。

耐えているのは僕だけだが、僕の意識もそろそろ限界を迎えそうだ……。

「うふふ、お兄さんの悪口を言ってた人たちを〜〜、全員殺しちゃったぁ。どぉ? 私のBランクスキル、死神ノ唄(デスボイス)の力は。これでも私ってぇ、遊詩人として冒険者をやってたのよぉ」

「び、Bランクスキルだと……!? 今のスキルは確実にSランク級の潛在能力があったはずだ……!」

この、まだ本気を出していない。

僕の意識もその気になれば奪えたはずだ。

あくまでも、酒を飲んで油斷していた僕のって意味だが……。

聲を聞かせるだけで人間の命を奪う能力――Bランクの範疇を超えている。

Bランクスキルは中級魔法や剣技の応用技レベルだからな……。

「そうよぉ、非力な私でもこれだけの力を手にれたの。お兄さんが同じように力を得たらぁ……」

「ぼ、僕のスキルが更に強くなるってことか。全能力が二倍に上昇する聖炎領域(セントバーナード)もパワーアップするかもしれない、と」

「そういうことぉ」

パワーアップ――なんて甘な言葉だろうか?

Sランクスキル以上の力なんて考えてもみなかった。

今よりもずっと強くなれば誰も僕のことをバカにしない。

ソアラよりも、あの平凡な聖よりも、上だってことは死んでも証明せねばならぬし。

「面白い……! そんな力が本當にあるなら――そんな力が本當に貰えるなら、貰ってやる」

「うふふ、いい返事貰っちゃったぁ。じゃあ人間やめる覚悟あるかしらぁ?」

「はぁ……?」

人間をやめるだと? 何言ってるんだ、この……。

いや、本當は気付いていた。このは――。

「だってぇ、私ってばぁ。人殺しを厭わないの子なんだぞ。普通の人間じゃないってことくらい分かってるでしょ?」

「…………」

「魔王様に魂を売りなさぁい。魔族として人間の限界を超えれば、あなたなら確実に強くなる。バカにした連中、見下した連中、全部ぶっ壊してぇ……世界中にあなたの力を知らしめてやりましょう」

は僕に人間をやめろと、魔族になれと、囁いてきた。

笑えるよ。魔も、魔族も、殺しまくってきた勇者である僕が――魔族になるようにわれるなんて。

――だが、それでも僕は諦めたくなかった。

あいつらを、僕をバカにした奴らを――見返してやるってことを。

だから、僕はこのを利用する。

魔王、お前に魂を売るつもりはないぞ。あくまでも、パワーアップするためにいに乗ったフリをしてやるだけだ。

「ふふふ、人類の敵としての貴方に期待するわぁ」

だが、全部ぶっ壊すのも悪くないかもな……。

馬鹿にした連中に復讐するのも――。

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