《【書籍化】萬能スキルの劣等聖 〜用すぎるので貧乏にはなりませんでした》まだまだ、諦めない男(ゼノン視點)

「汚い場所に案しやがって。パワーアップの話が噓だったら承知しないからな」

「ふふふふ、大丈夫よぉ。の隠れ家だからぁ。目立つ訳にはいかないのぉ」

はムカつく聲を出しながら僕を連れて行く。

この場所は人間を魔族に変化させる実験を行っているらしい。

なんだそれは? 気持ち悪い……。

「博士ぇ、連れてきたわよぉ。博士ぇ、ねぇ、博士ってばぁ」

「ああ、分かってる。ジルはいい素を連れてきたね。Sランクスキル持ちの勇者か」

博士と呼ばれた白い服を著た痩せた黒髪の男は、をジルと呼んだ。

なんだ、こいつは? 本當にこんなガリガリに痩せた奴が僕のことを強く出來るのか?

「お前が僕に力を與えると言っていたが、本當か?」

「ああ、うん。まぁ、それは本當だね。魔族の能力を飛躍的に上げているコアというを移植するだけで、君の能力は今よりも何倍も強くなる」

「コア……? 移植……? なんだそれは……?」

訳が分からんことを口にする博士とやら。

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これは騙されたか? どう見てもこいつが僕を強く出來るように見えないぞ。

「ああ、コアってのは、これのことさ」

「ぎゃっ――!!」

「――っ!?」

博士と呼ばれた男は目にも止まらぬスピードでジルのを手刀で貫き、緑輝く球狀のを取り出した。

まるで、鼓のようにドクンドクンと脈打つそれは心臓のようにも見える。

「し、死んでる……。こ、このはお前らの仲間じゃないのか?」

「うーん。別に仲間意識は無かったよ。このは自分を歌しか取り柄のない無能だと馬鹿にした連中に仕返しがしたいって理由で実験になることを志願したからね。願いを葉えてやったのだ。死んでも本だろう」

「……………」

なんだ、この

歌しか取り柄のなかった癖に無能だとか當たり前のことを言われて復讐にを染めたクズか。

それで、力を手にれて増長して死ぬとは――やはり無能は無能のままだったというわけか。

「こいつを君のれてもらう。そして、僕が開発した新薬を飲めばパワーアップは完了だ。――この以上の効果は保証するよ」

「僕を利用するだけ利用して殺すつもりだろうが、僕はそうはいかないぞ」

「うん。別にそれはどうでもいい。やるのか、やらないのか、それを決めてくれ。怖いなら別に帰ってもいいよ」

怖いなら、帰っても良いだと!? 勇者であるこの僕に怖いだと!?

こいつ、僕のことを馬鹿にしやがって――。

「ふざけるな! 誰が怖がっているだって!? 良いだろう! そんなに言うのならやってやろうじゃないか!」

「そうか。なら、力を與えよう」

「――っ!?」

この男は今度は緑の球を僕のに押し込む。

痛みはない……。だが、気持ち悪い。吐きそうなくらい気持ち悪い。

「あと、この薬を飲んでくれ」

「むごごごご……」

マズい! マズい! マズい!

不味い! 不味い! 不味い!

――鼻をつままれて飲まされる紫がクソ不味い!

「がはっ! がはっ! 中が熱い! し、死ぬっ! 死んでしまう……! ぐぐっ……!」

僕はたまらず床に倒れて転げ回る。

気持ち悪いし、は熱いし、は不味くて吐き気がするし、本當に死んでしまいそうなくらい苦しい――。

――があああああああああーーーーーーッッ!!

◆ ◆ ◆

「ようやく目覚めたかい? 勇者ゼノン……いや、元勇者、かな?」

「う、うう……、な、なんだこれは……」

目が覚めると、は不思議と軽かった。

そして、気持ちがいい。生まれ変わったと言っていいほど清々しい気分なのだ。

腕を軽く床に振り下ろしてみる。

床が激しく揺れ、大きなが空いた。

くっくっく、これはいい。確かに人間の限界は超えているかもな……。

だが、気になることがある――。

「この吸盤みたいなのはなんだ!? 僕の腕と足にへんな吸盤みたいなものがくっついているのだが――!」

「魔族の力を分け與えるついでに、クラーケンのから魔の特も加えてあげたよ。イカ特有のがさらなる膂力を高めるんだ」

「い、イカだとぉぉぉぉぉっ!!」

た、確かにイカの足にそっくりだ。僕の手足が――。

噓だろ……? 端正で整った顔立ちだと言われていた、この僕にイカの手足?

臺無しだろーが! 「どうもー、勇者ゼノンです。よろしく」って、手を出したらイカの足みたいなのがニュルっと出てきたらドン引きされるじゃないか!

「君のみは葉えてやった。Sランクスキルも遙かに威力を増しているだろうし。魔族の中でも、相當強い方にるんじゃないかな」

「ふざけるな〜〜〜〜!!」

僕がぶと空気が震えて、壁にヒビがる。

凄く強くなったのは、そのとおりだと認めてやろう。

だが、僕はあのジルと同様に人の見た目のまま強くなりたかったのだ。この男を許すわけにはいかない。

「はぁ、悪いけど、苦は後で聞くよ。私はちょっと地獄島に応援を頼まれているんだ。君も來たければ、お好きにどうぞ。クラーゴンの能力を持っているから、泳いで行くことも出來るだろうし」

「お、おい! お前! どこに行く!?」

痩せた男はそう言って、消えてしまった。

地獄島に……、だと? クソッタレ、このままの姿で平気なはずがないじゃないか。

絶対に許さん! 元の姿に戻しやがれ!

あー、イライラする。全部何もかも壊してやりたい気分だ――!!

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