《【書籍化】婚約者が明日、結婚するそうです。》28
その翌日のこと。
メアリーからいよいよドレスが仕上がったという話を聞いて、三人でメアリーの店に向かおうとしていた。
けれどそのとき、王城からの使いが、慌ただしく駆けつけてきた。
火急の用件だということで、外出を取りやめ、アレクは応接間で使者の話を聞いている。
ラネとリィネは、ふたりで別室に待機していた。
迫した雰囲気に、リィネが不安そうにラネの手を握る。
「また、魔退治かな」
「……そうかもしれないわ」
魔王が倒されたというのに、魔は各地に出沒している。
アレクはまだ、戦い続けなくてはならないのだ。
用件を告げた使者が帰ったあと、ふたりが予想していたように、アレクは急いで旅支度を始めていた。
やはり魔が出沒して、アレクが出向くことになったのだろう。
「兄さん?」
アレクは手を止めないまま、短く答えた。
「隣國に、ドラゴンが出たようだ」
「ドラゴン?」
それは、ふたりの予想以上の事態だった。
ドラゴンは魔の中でも最上位であり、狂暴さも強さも他の魔とは一線を畫している。
Advertisement
またその強さ故に、魔王には従わずに孤高の存在であった。
だが人に害をなすのであれば、いずれ倒さねばならない。
そう思っていたところで、魔王が封印ではなく滅ぼされ、自分よりも強い魔がいなくなったことを知ったドラゴンが暴れ出したということである。
もちろん隣國でも冒険者を集めて討伐しようとしたが、まったく歯が立たない。そこで正式に勇者を派遣してほしいと申し出たようだ。
「隣國では相當な被害が出ているようだ。今すぐに向かわなくてはならない」
強い瞳でそう言ったアレクに、リィネも頷く。
「わかった。……兄さん、気を付けてね」
彼は勇者であるからこそ、たとえ隣國であっても人々が苦しんでいる以上、救わなくてはならない。リィネもそれがわかっているから、引き留めたりはしない。
だがドラゴン退治となれば、そう簡単には終わらないだろう。
不安を押し殺して兄を送り出そうとしているリィネを、アレクはしっかりと抱きしめる。
「すまない。行ってくる。何かあればいつも通り、ギルド長のイロイドに」
「私なら大丈夫。ラネがいてくれるから」
リィネがそう言うと、アレクはラネに向き直り、大切な妹と同じように、ラネのことも抱きしめる。
「ラネもすまない。留守にしてしまうが、頼む」
大きな力強い腕で、壊れのように優しく包まれて、がどきりとした。
「ええ。リィネのことは任せて」
何とか平靜を裝ってそう答える。
アレクは優しい瞳でふたりを見つめ、行ってくる、と言って背を向けると、もう振り返ることなく屋敷を出ていった。
その後ろ姿を靜かに見送る。
(アレクさん。どうか、無事で……)
抱きしめられたは、まだ彼の溫もりを宿しているかのようだ。ラネは、心を落ち著かせるようにゆっくりと深呼吸をする。
「リィネ」
そうして兄を見送ったあとも、震える両手を握りしめて、兄が旅立った方向を見つめているリィネの肩を優しく抱く。
アレクの代わりにはなれないかもしれないが、それでも彼に頼まれたのだから、しっかりと守らなくては。
そう決意して、伝える。
「わたしが一緒にいるから」
「うん、ありがとう」
夜會はもう明後日だ。
予定通りに開催されるとは思えなかったが、メアリーはきっとドレスを完璧に仕上げて待っているはずだ。取りに行かなくてはと、護衛のとともにメアリーの店に向かうことにした。
「あら、アレクは一緒ではなかったの?」
にこやかに迎えてくれたメアリーは、ラネとリィネだけだと気が付いて、不思議そうに尋ねた。
「……実は」
隣國にドラゴンが出沒したこと。アレクはそれを討伐するために旅立ったことを伝えると、悲痛そうな顔をして両手を握りしめる。
「そうだったの。アレクのお蔭で、私達はこうして平穏を手にれた。彼はまさしく勇者よ。でも、あなたにとってはたったひとりの家族だわ。つらいでしょう。ごめんなさいね」
「大丈夫です。兄さんは強いもの。きっと無事に帰ってきますから」
リィネはラネの手を握りしめながら、自分に言い聞かせるようにそう答える。
そう、彼は強い。
何と言っても、魔王を倒した勇者なのだから。
メアリーが全力で仕立て上げてくれたドレスは、とてもしいものだった。
ラネのドレスは薄紫で、上品ながらもレースがたくさん使われていて、清楚な雰囲気ながらもしく仕上がっている。
リィネのドレスは深緑で、彼の華々しい貌にも負けないような、豪奢だけど、どこかかわいらしさも殘した、リィネに相応しいドレスだった。
サイズなどを確かめるために試著してみたが、互いによく似合っていると稱え合った。
もしアレクがここにいたら、きっと絶賛してくれたに違いない。
「アレクさんが帰ってきたら、このドレスを見てもらいましょう」
リィネを元気づけようと、そう言う。
「そうね。きっと兄さんは、ラネに見惚れると思うわ」
「そんなことは……」
彼の顔を思い浮かべた途端、優しく抱きしめられたことを思い出して、恥ずかしくなる。
俯いたラネを見て、リィネはようやく笑みを浮かべた。
「ふふ。兄さんが帰ってくるのが楽しみだね」
「……うん、そうね」
何かを企んでいるような、からかうような、そんな顔をしていたのは気になったけれど、リィネが笑ってくれるならそれでいいと、ラネも笑顔で頷いた。
【完結】「お前の嫉妬に耐えられない」と婚約破棄された令嬢の醫療革命〜宮廷醫療魔術師に推薦されて、何故か王國の次期騎士団長様に守られる生活が始まりました〜【書籍化】
《エンジェライト文庫様より発売中!》 サクラ・オーラルはメイル王國の子爵令嬢だ。 そんなサクラにはウィンという婚約者がいた。 しかし、ウィンは幼馴染のモミジのことをサクラより大切にしていた。 そのことについて指摘したらウィンはいつも『モミジは妹みたいなもの』としか言わなかった。 そんなウィンにサクラは徐々に耐えられなくなっていた。 そしてついにウィンから「お前の嫉妬に耐えられない」と婚約破棄をされる。 サクラはこれに文句がなかったので少し癪だが受け入れた。 そして、しばらくはゆっくりしようと思っていたサクラに宮廷魔術師への推薦の話がやってきた。 これは婚約破棄された子爵令嬢が王國トップの癒しの魔術師に成り上がり、幸せになる物語。 ※電子書籍化しました
8 160僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー溫泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
僕の故郷には、狼の言い伝えがある。 東京から、帰郷したその日は十五夜。 まんまるなお月様が登る夜。銀色の狼様に會った。妖艶な、狼の姉様に。 「ここに人の子が來ることは、久しく無かったのう……かかっ」 彼女は艶やかな銀の髪の先から湯を滴らせ、どこか愉快げに笑っていた。 僕は、幻想物語が大好きだ。でもまさか、そんな僕がその幻想物語の登場人物になるなんて……夢にも思っていなかったんだ。 《他サイト、カクヨムにて重複掲載しています》
8 195引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
毎日引きこもっていただけでLv.999になっていた―― ちょっと前まで引きこもりだったのに、王女様やら幼女やらが近寄ってきてハーレムも起きてしまう。 成り行きで勇者をぶっ飛ばし、代わりに魔王の娘、ロニンを助けることになった主人公・シュン。 みなが驚く。 引きこもっていたくせにこんなに強いなんてありえないと―― 魔王の娘と関わっていくうち、シュンはすこしずつ変わっていく。 ――平和な國を作るとか、そんなめんどくせえことやりたくねえ。 ――でも誰かがやらないと、またロニンが不幸な目に遭う。だったら、俺が…… いつまでも自分の世界にこもっていられない。 引きこもりによる國づくりである。 皇女セレスティアとの爭い、國王エルノスとの政治的駆け引きなど、さまざまな試練を乗り越えながら、シュンは自分の國を育てていく―― 全力で書いております。 読んで後悔はさせません。 ぜひお立ち寄りくださいませ。 *キャラクター人気投票を実施しております。よりよい作品にするため、ぜひご協力をお願い致します。リンクは目次と各話の一番下にございます。 *アルファポリスにも掲載しております。
8 122七つの大罪全て犯した俺は異世界で無雙する
俺はニートだ自墮落な生活を送っていた。 そんな俺はある日コンビニに出かけていると、奇妙な貓に會い時空の狹間に飲み込まれてしまう。
8 71神話の神とモテない天才~異世界で神となる~
成績優秀、スポーツ萬能の高校生、服部豊佳は何故かモテなかった。このつまらない現実世界に 飽きていて、ハーレムな異世界に行きたいと思っていたら、 神の手違いで死んでしまい、異世界に転生した! そして転生した先は何と、神様たちがいる世界だった。そこの神様は神力という 特殊な能力を持っていて、服部豊佳も神力を授かることに!? ※実際の神話とは家系、神徳などが異なることがあります。 ※この小説では古事記を參考にしております。 ※この小説は気分次第で書いてるのであらすじが変わるかもしれません。 ※基本的にご都合主義なのでご了承を。 この小説の更新情報についてはこちらですhttps://twitter.com/minarin_narou
8 108ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?
最強にして至高。冷酷にして無比。従順にして高潔。人間の間でそう伝わるのは、天魔將軍が一人《瞬刻のヴィルヘルム》。これまでにステータスオールSSSの勇者達を一瞬で敗北へと追い込み、魔王の領土に一切近付けさせなかった男である。 (……え? 俺その話全然聞いてないんだけど) ……しかしその実態は、ステータスオールE−というあり得ないほど低レベルな、平凡な一市民であった。 スキルと勘違い、あと少々の見栄によって気付けばとんでもないところまでのし上がっていたヴィルヘルム。人間なのに魔王軍に入れられた、哀れな彼の明日はどっちだ。 表紙は藤原都斗さんから頂きました! ありがとうございます!
8 157