《【書籍化作品】離婚屆を出す朝に…》15、那人、由人を叱る
オムライスを作った。
久しぶりに作ったから、卵がし破れてしまった。
でも味はいいはずだ。
ケチャップで顔を描いて、わかめスープをつけた。
由人の一人分だけだ。
那人さんは今日も遅くなるとメールがあったし、私は……。
……由人が手付かずで殘した弁當を食べていた。
卵焼きに、ウインナー、唐揚げに、ちょっと手抜きをして冷凍食品のグラタンをれてみた。
「冷凍食品ってどうかと思ってたけど、結構味しい。
しかも食べ終わるとカップの底に占いが書いてあって面白いのね」
見た目も華やかで、味しくて、楽しい。
食わず嫌いというけれど、本當にそうだった。
ボスママに見つかったら「信じられないわ! 大切な子供にそんな手抜き!」と詰られそうだけど、朝から作れるものには限界がある。
便利で子供も喜ぶなら、しぐらい手抜きしてもいいんじゃないかと思った。
ボスママは用な人で、言うだけの事はちゃんとやる人だった。
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無添加、無農薬でしかも味しくて手の込んだ弁當を朝から作れる人だ。
でも私のように不用な人もいる。
朝からこだわりの食材で、見事な弁當を作れない人もいる。
だったら無理せず、頼れるものは頼ろう。
大事なのは由人が食《しょく》に興味を失わない事だ。
(もっとも……まだ一度も食べてもらってないけどね……)
由人の席には手付かずのオムライスとわかめスープが置いてある。
さっき部屋に呼びに行ったが「いらない」と言われた。
でも戻ってから三日一緒に過ごして分かるようになった。
本當は食べたいのだ。
朝ご飯も夕ご飯も、遠目にしそうに見ている事がある。
かなりやせ我慢しているみたいだ。
お弁當も初日は開いた形跡もなかったが、昨日は弁當袋の紐が結び直してあった。
今日は弁當のフタの向きが反対になっていた。
きっと大好きなグラタンを食べたい思いを必死で堪えてフタをしたのだ。
意固地になってしまって、素直に食べるきっかけを摑めない僕を助けてと言っている。
こんな時にどんな聲をかければいいのか、5年も母親をやってたくせに私は分からなかった。
まだ叩いた事を謝ってもいなかった。
「ごめんなさい」の一言だけれど、安易に言ってはいけない言葉のような気がした。
謝れば私の罪悪はしでも薄れるかもしれない。
私はそれでし楽になれるだろう。
でもけ取った由人は、まだ許せないと思っていても許さねばならない。
そして心から許せない自分を責める事になるだろう。
だから……。
由人が心から許せる気持ちになるまで待とうと思っていた。
「ただいま」
考え込んでいた私の前に、突然リビングのドアを開いて那人さんが帰ってきた。
「那人さん。今日は遅くなるって言ってなかった?」
晝過ぎのメールで、いつもと同じように先に寢ててくれと送ってきたはずだ。
「うん。そのつもりだったんだけど書類を忘れたから取りに帰ってきた。
今日はオムライス? うまそう」
那人さんは食卓の由人のオムライスを見ながら答えた。
「あ、良かったらそれ食べて行く?
由人はたぶん食べないだろうから」
「……」
那人さんは驚いたように、私の食べている弁當に目を移した。
「由人はまだ意地を張ってたのか。弁當もまだ……?」
「うん。しずつ心は開いてくれてるように思うんだけど……。
えへへ。ごめんなさい。
長い間ちゃんと母親をやって來なかったから、こんな時どうすればいいのか全然分からなくて……っ……」
久しぶりに那人さんの顔を見たら涙が溢れそうになった。
一人で抱え込んでいたものを聞いてくれる人がいるだけで心が安らいだ。
「いや、俺の方こそ仕事が忙しくてすっかり任せたままになって悪かった。
てっきりもう仲直りしたのかと思ってた。
そうだな。由人の頑固さを忘れてた。ごめんな」
私は慌てて頭を左右に振った。
「那人さんが謝ることなんて……」
でも崖っぷちで心強い味方が現れたようで嬉しかった。
「紫奈、一度きちんと話そうと思ってた」
那人さんは決心したように私の向かいの食卓の椅子に座った。
「離婚に関して言うなら、紫奈は何も悪くない。
悪いのは全部俺だ。
俺がふがいないばかりに……」
「でも私があまりにわがままでダメな悪妻だったから……」
「関係ないよ」
私の言葉を遮るように那人さんが強く言った。
「え?」
「そうじゃないから。そういう事じゃないから。
俺は……。
いや、今はただすべて俺のせいだとだけ思ってくれていればいい。
だから紫奈は何も引け目をじる必要はない」
「……」
ただ優華に心変わりしたという事だろうか……。
それはそれで、チクリと心が痛んだ。
「なあ、紫奈。俺は最近ずっと考えてたんだ。
俺は自分のせいで紫奈と由人に背負わなくていい荷を背負わせてしまう。
そんな俺が、紫奈にかける言葉はあるのか?
由人を叱る資格はあるのか?」
やはり那人さんは同じ事を考えていた。
「こんな時、本來なら父親である俺が強く叱らなければならないはずだ。
でも……みんなを不幸にするお前になんか言われたくないと思われるのが怖かった。
自分が詰られるのが怖くて、人任せにしていた。
由人がなあなあで流されてくれる子なら、をで下ろして何もなかったように過ごしていただろう。流れに任せてごまかそうとする俺を由人は試しているのかもしれない」
「試す……?」
「俺は確かに由人を叱る資格なんかない人間だろうと思う。
こんな俺が何を言っても説得力なんか無いのは分かってる。
でもこれだけは言える。
俺は地面を這いつくばっても、親として由人を幸せにしたいと願ってる。
これ以上、由人から何も奪いたくないと思ってる。
だから……。
だから由人から叱られる権利まで奪わないでおこうと思う」
「叱られる権利……?」
「本當に親になって自分を叱ってくれる人間なんて、簡単に出會えるもんじゃない。
両親と祖父母と……、あとは運が良ければ片手に収まる程度出會えるぐらいだ。
その僅かにしかいない一人である俺が、放棄してはダメだと思う。
俺はたとえ人から、自分を棚に上げてよく言えたものだと詰られようが、そんな資格があるのかと罵られようが、意地でも放棄しない。
図々しく自分を棚の高い所にあげて、ダメだと思った事は叱り続ける。
それが由人の幸せを願っての事である限り、躊躇《ちゅうちょ》しない事にした」
「那人さん……」
那人さんはにこりと微笑んで立ち上がった。
「由人の部屋に行って話してくるよ。
紫奈は、出來たら俺のオムライスも作っててくれるか?
みんなで久しぶりの夕食にしよう」
ああ。
そうだ。
こんな心強い人がそばにいたんだ。
一人で抱え込む必要なんてなかった。
自分一人で解決しようとして結局由人に辛い思いをさせてるなら意味がない。
手に負えないなら、周りのたくさんの手にすがってもいいんだ。
完璧にしようとしたって出來ないんだから。
大事なのは由人を不幸にしないことなのだから……。
次話タイトルは「紫奈、父親の夢を見る」です
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