《【書籍化作品】離婚屆を出す朝に…》18、紫奈、自分の無力を知る
お母さんは結婚前に私が使ってた部屋を自分の部屋にして使っていた。
ベッドは以前のまま。
そこに自分用のテレビと鏡臺とタンスを置いていた。
「お母さん、るね」
「……」
ノックをしてっても返事はなかった。
布団をかぶって、こちらに背中を向けていた。
「この間はきつい言い方に聞こえたかもしれないけど、ごめんね。
お母さんが私の事を心配していろいろ言ってくれてるのは分かってるの。
でも、やっぱり自分の事は自分で決めたいの」
「……」
じろぎ一つしないが、寢ているわけではないのは分かった。
「三日ほど泊まっていくわね。
部屋が散らかってるし、掃除していくから。
夕ご飯は何か作ろうか?
お母さんはじゃがが好きだったよね」
「……」
「じゃあ……由人と買いに行ってくるから……」
仕方なく會話を打ち切って立ち上がった。
そして部屋を出ようとしたところで……。
「親不幸者っっ!!」
突然背中に罵聲が飛んだ。
「え?」
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驚いて振り返ったが、お母さんは背中を向けた同じ勢のままでんでいた。
「今まで育ててもらった恩も忘れて自分一人で大人になった気でいるんでしょ!
あんたみたいな恩知らずは地獄に落ちるわよ!」
確かに地獄には落ちる所だったけれど……。
「私はあんたのために晝も夜もパートを掛け持ちして、自分のすべてを犠牲にして育ててきたっていうのに! 分かったような事言ってんじゃないわよっ!!」
どこかで聞いたようなセリフだ。
いや、紛れもなく以前の私がお母さんに思っていた事だ。
私はお母さんのために犠牲になったと責任転嫁していた。
そしてお母さんは私のために自分の人生を犠牲にしたと思っている。
こういうのを共依存というのだろうか。
私達はお互いに相手のために犠牲になったと自分を正當化していた。
そうして自分の責任を逃れ続けていたのだ。
「お母さん、私は自分の事は自分で決めるとは言ったけど、お母さんの言葉を全部無視すると言ったわけじゃないのよ。お母さんのおかげで今があるのだと謝してるわ」
「見えいた綺麗事で誤魔化すんじゃないよ!
那人なんかと結婚したから、あんたはおかしくなったんだ!
もっと結婚に反対するべきだった!」
激高すると言葉遣いが暴になってくるのはいつもの事だ。
「なに言ってるのよ。
那人さんを紹介した時は、あんなに喜んでたくせに」
「いーや、本當は最初っから気に食わなかったんだ。
私はあんたが康介と結婚して、この家で一緒に暮らすのが夢だったんだ!」
「こ、康介?」
そんな話は初耳だ。
康介は近すぎて家族のようなものだったし、いいかげんでちゃらんぽらんな出來の悪い、でも憎めない弟のような気持ちで付き合ってきた。
まさかお母さんがそんな事をんでたなんて、思いもしなかった。
お母さんは突然、がばりと起き上がった。
そしてひどく老けた顔で私の両手をとった。
それは狂気の様相に見えた。
「紫奈、今からでも遅くないわよ。
謝料もらって、康介とやり直せばいいわ。
最初の夢通りに、ここでみんなで仲良く暮らすのよ」
最初の夢って……、いったい誰の夢なの……?
だいたいやり直すのに、どうして謝料が必要なの?
言ってる事がおかしい。
めちゃくちゃだ。
「お母さん、落ち著いて。
私は一度だって康介と結婚したいなんて思った事もないし、お母さんの描く夢の通りに生きる事なんて出來ないの。これは私の人生なんだから」
「どうしてよっ!!
前のあんたなら言う通りにしてくれたわ!
いつも私と同じ夢を追いかけてくれたじゃない!」
「同じ夢なんかじゃない!
私はそんな夢なんか持ってない!」
「親不幸者っっ! この恩知らずっ!!」
話が通じない……。
何を言っても話が通じない。
お母さんの囚われた闇は深すぎて、聲が屆かない。
ひどく自分が無力に思えた。
もっと楽に生きられる世界が、ほんの目先に広がっているのに、どんなに言葉を盡くしてもこちらに連れてくる事が出來ない。
ああ、きっとこの無力をお父さんも那人さんもじていた。
どんな寶石のような言葉も、け取る側にけ皿がなければ伝わらないのだ。
救いたいのに救えない。
ただ……。
待つ事しか出來ないのだ……。
激しい喪失と共にお母さんの部屋を出ると、リビングには誰もいなかった。
そしてソファテーブルの上に『由人を連れて本屋さんに行ってきます』という父のメモが殘っていた。
ゆっくり二人で話し合えるように由人を連れ出してくれたらしい。
でも、とても話し合える狀態ではなかった。
今まで何一つ逆らわなかった私が、言う通りにしないのが余程ショックだったんだろう。
私は見えない解決策を考えながら、とにかく散らかった部屋を片付ける事にした。
お母さんは今、自分の葉うはずもない夢に囚われて、思い通りにならないすべてを呪っている。
ちょうど私が出來るはずもない、完璧なセレブ妻になろうと何も見えなかったように。
どうすれば分かってくれるんだろうか。
どうすればお母さんを変えられるだろうか。
ううん。
自分が人を変えられるなんて驕《おご》りだ。
そんな事が出來るなら、お父さんがとっくにしていた。
すべてをけれて、待つしかないのだ。
お父さんや那人さんが、そうして私を待っていてくれたように……。
次話タイトルは「紫奈、康介に會う」です
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