《【電子書籍化決定】わたしの婚約者の瞳に映るのはわたしではないということ》聖地巡禮の旅イコリス
「……え?旅に出た?と、突然?」
「わざわざ醫務室(ここ)まで出向かれたのにゴメンなさいね。ルリユルったら、急に心を落ち著かせる旅に出るといって聖地巡禮に行ってしまったんですよ」
「聖地巡禮……」
「推し()を巡る旅です」
「……えっと、貴は確か……」
「オレリー=ルロイと申します。ルリユルとは同期です」
「ああ、貴がルロイ史か。よろしく、ルリユルの婚約者である……」
「知ってます。シューター=ブラック卿ですよね。お(・)噂(・)は予々。それで、ルリユルにはどういったご用件で?」
「貴は確か、昨日ルリがサバラン家の長子と面會した時に付き添って下さったです方よね?」
「はいそうです。ですので大の話はわかっています」
「実は昨夜、彼が私の所にも來ましてね、事の些細を全て聞きました」
「もうとにかく災難だったとしか言い様がありませんね、モテる男は辛いですよねー」
「……それを聞かされた時のルリの様子はどうでしたか?」
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「かなり混してましたね。なんせあの子、この半年間はエラの噓を信じ込んでずーーっと思い悩んでいましたから」
「やっぱりあの噓を信じたんですね……」
「はい。単純で純粋なムスメですから」
「………私が義姉(あね)に誓いを立てたと?」
「はい」
「義姉をしていると?」
「はい」
「~~~~~っ……」
「ルリルリが悩んでいる事、全然気付かなかったんですか?」
「………はい」
「婚約した事を後悔していた事も?」
「うっ……はい……」
「なんとか婚約解消したいと思い悩んでいたのにそれも出來ず、結果に逃げていた事も?」
「はい……」
「失禮ですが脳筋でいらっしゃいますね」
「返す言葉もありません……」
「剣技の事ばかり考えているからこうなるんですよ。いつもルリユルを目で追っていたって、肝心な所が見れていないんじゃ意味がないでしょう。これからは乙ゴコロもしは學んで下さい」
「肝に銘じておきます」
「それで?どうされるんですか?」
「もちろん、追いかけます」
「ランダムに聖地を巡ると言ってましたよ?よほど運が良くないと捕まえられないと思いますよ?」
「それでも捜す他ない。一刻も早く彼と話さねば」
「そうですよね、わかりました。直ぐに簡単なマップを作ります。“うしオトコ”聖地巡禮マップ。しかもルリルリ思考バージョンで」
「有り難い……!助かります!」
「ではしお待ち下さい」
「よろしくお願いします!」
……………と、そんな會話がシューターとオレリーの間でされているとは知らず、わたしは聖地イコリスの地を踏んでいた。
“うしオトコ”のわたしの最推し、バックス=ビーフ様の故郷だ。
言わずもがな胃袋最の推し、イコリス牛の産地である。
わたしはまずバックス=ビーフの名前の由來となった、かつてイコリス騎士団の総団長であったバックス=テューダー卿の墓へと參った。
それからイコリス牛の供養塔へ。
きっとイコリス國民よりもイコリス牛を食しているであろう自覚のあるわたしとしては、その霊が祀られる供養塔は參らねばならないだろう。
その後は“うしオトコ”記念館と小説でバックスが活躍したイコリスの名所の數々を巡る……!
もちろん生産者の牧場を巡って、真のバックス様のご尊顔を拝する事を忘れてはいけない。
赤できゃわいいバックス牛ちゃま。
食牛の中ではかなり牛の大きなバックスちゃんだけど、お顔はとっても可いのだ。
ハエを追い払う如くシッポでべしべし叩かれながらも、わたしは大人しいバックスちゃんにしがみつき、そのおに五投地…五投牛をした。
そしてとうとう……聖地巡禮のメインイベント!
産地でのイコリス牛の食い倒れ……!!
各名店の料理を片っ端から食べまくるのだ。
『あぁ……聖地巡禮の旅、最高……!次はどこの聖地に行こうかしら』
しのイコリス牛を食しながら次の計畫を練る。
ここはやはり、バックス様の次に好きなジェルマン様にお會いしにオリオル王國へ行こうか。
質としてはハイラム牛が好きなんだけど、
まずは“うしオトコ”ファンとして好きなキャラの順で巡って行こう。
でもやっぱりそれじゃ捻りがないかな……?
せっかく休みを取り発して転移魔道もレンタルしたんだから、最も遠い國から攻める……?
よし決めた。
わたしはこの聖地巡禮の旅をいつもの自分と逆の選択をする旅と決めた。
その方が面白いかもしれない。
休暇の申請は一週間。
シューターと向き合う為の冷靜さとパワーがしくて思わず飛び出して來たけど、こうなったらとことん楽しんでやるもんねー!
そう決めたわたしは、まずはこの尊いおを推し頂かねばと、食事に集中する事にした。
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