《【電子書籍化】婚約破棄のため冷酷騎士に決闘を挑んでみましたが、溺されるとか誰か予想できました?》2.5 無敗神話なんて君が壊してくれたから。

決闘後のゼフィー様sideストーリーです。

俺は、決闘で負けたことがない。

それは、騎士としての誇りであり、同時に冷酷騎士であることの証明でもある忌まわしいものでもあった。

そんな俺が、剣を持つ姿さえおぼつかない、たった一人の貴族令嬢に決闘で負けた。

転びかけたリアスティアを助けようと、手を差しのべ抱きしめた時に模擬剣は、まるで何としても負けたくない俺のことを笑うかのように、頭の上に落ちてきた。

リアスティアは、もう一度剣を摑もうと手をばす。

そんな、素直な姿も……本當に好きで。

気がつけば、その手をそっと握りしめていた。

「あの」

誰もがこの瞳のことを、誰にも負けない戦神の加護だといった。

そして同時に、決して誰とも相いれない冷酷なを宿した瞳だと。

だけど……誰にも負けないという俺にとっては呪縛のような加護を、リアスティアは、いとも簡単に溶かしてしまった。

リアスティアに救われるのは、もう二度目になる。

「負けは負けだ」

思わず口から、正直な思いが零れ落ちていた。

「えっ。困ります」

「決闘を挑んできたのは、君じゃないのか」

「……え、どうしよう」

不思議なことに、決闘を挑んで勝ったら願いを葉えてしいと言っていたくせに、いざとなったらリアスティアはうろたえてしまう。

「――――何か、俺に葉えてしい願いがあったのではないのか?」

――――この婚約が嫌だとか。

「……あの」

「何でも言うといい」

どんなことでも、れようと決めている。

でも、もしできるならもう一度、チャンスを與えてもらえないだろうか。

「それに、婚約者の願いなら、こんなことをしなくてもどんなことでも葉えようと思っている」

「え……?」

そんなに、驚いた顔をするなんて。

やはり彼にとって、俺は恐怖を與えるだけの存在なのだろうか。

それでも……。

フローリア殿に「娘を守ってほしい」と深く頭を下げられた。

リアスティアの瞳に宿る加護。

おそらくそれはリアスティアの母親が持っていた、魅了の力なのだと。

その瞳の影響をけることがない、數ない人間のはずの俺は、不思議なことに誰よりもリアスティアに魅了されているけれど。

「君は、俺の婚約者だ。俺のすべてをかけてその願いを葉えるのは當たり前のことだ」

「え……?」

沈黙が痛いほど長くじる。

リアスティアは、呆然と俺のことを見つめた。

心の奧底では、いつも思っていた。

でも、お茶會の席でリアスティアに會ってしまえば、その瞳を見てしまって、拒絶されるのが恐ろしくて話すこともできなかった。

決闘に負けた今、ようやくその事実を認めることが出來た。

「――――婚約破棄してもらえませんか?」

死刑宣告のような、リアスティアからのその言葉。

それでも、この瞬間、リアスティアの春の神のように優しげな瞳は、確かに恐れることなく、俺の凍てつく風のような瞳を真っすぐに見つめていた。

「それは、決闘の勝利としての願いか?」

「……あ」

何でも、願いを葉えるから。

どうか、今はそばでそのしい瞳を守ることを許してしい。

「それは、それだけは葉えられない」

「っ……どうしてですか」

そんなの答えは決まっている。

でも、臆病だった俺は、それすらまだ伝えることが出來ていない。

「リアスティアも、俺のことが怖い? そこまで、俺のことが嫌いかな」

「そんなこと……」

自分のずるさが嫌になる。

リアスティアは優しくて、弱った姿を見せたらきっと斷らない。

それでも、この手を離すことだけは出來なくて。

「じゃあ、もうしばらく婚約者でいて」

その時、優しい風が春の訪れを告げる花のようにしい、リアスティアの髪を揺らした。

「……私が婚約者だったら、何かお役に立つんですか?」

「役に……? そんなことよりただ」

たぶん、リアスティアは誰にでも優しい。

そばにいてくれることだけをんでいると言ったら、どんな表をするのだろうか。

それにむしろ、リアスティアの役に立ちたいと願うのは、俺の方なのに。

「……ゼフィー様?」

手の甲に口づけを落とす。

これは、誓いだ。

リアスティアをすべてから守る。

「なんでも願いを葉えてあげたいと思っていたのにごめんね」

「いえ……。私の方こそ神聖な決闘を」

その決闘が、逃れることができない加護に囚われ続けていた俺の心を、今一度救ってくれたことなんて、きっと君は知らない。

「――――リアスティア。リアと呼んでもいいかな」

「はい……」

こんなにたくさん、リアスティアと會話したのは初めてだ。

リアが、しだけ微笑んだように見えた。

「リア」

リアの瞳が、真っすぐに俺を見つめる。

それだけで、自分の心すら凍らせてしまうようだった、冷たいこの瞳が、春の日差しをけた分厚い氷のように、徐々に解けていくのをじた。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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