《【書籍化】王宮を追放された聖ですが、実は本の悪は妹だと気づいてももう遅い 私は価値を認めてくれる公爵と幸せになります【コミカライズ】》プロローグ ~『婚約破棄されたクラリス』~
本作は書籍化済みです!またコミカライズもやります!
書籍版は皆さんから頂いたアドバイスを反映し、ストーリーを大幅に変更しています!
容もかなり違いますので、
本作を気にっていただけたら、書籍版の方も、お試しください!
「クラリス、お前のような悪名高き聖とは一緒に暮らせない。俺との婚約を破棄してくれ」
黒髪黒目の麗人であるハラルド王子が冷たい言葉を放つと、クラリスの瞳から涙が零れた。
王子との出會いを思い返す。戦爭で怪我をした兵士たちを治療するために、聖として診療所へ派遣されたことがキッカケだった。
王子はお忍びで兵士たちのお見舞いに來ていた。クラリスが魔で治療をしている間、瀕死の兵士たちの手を取り、必死に勵ましていたことが印象に殘っている。
彼はそれからも毎日のように診療所に顔を出し、彼を見つけると年のように無邪気な笑顔を浮かべた。
兵士たちのを拭いてやり、一緒に傷の手當てをする。共同作業は二人の心の距離をめ、半年後には婚約を申し込まれた。
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プロポーズの言葉は忘れたくても忘れられない。
『クラリスは他人の幸せが生き甲斐だろ。だからお前を幸せにする役目は俺に任せてくれ』
頬を紅させながらのの告白は何よりも嬉しい贈りだ。この人と一生を共にしよう。彼はそう心に誓った。
「あ、あの、私……ぐすっ……」
嗚咽が邪魔をして、言葉が聲にならない。王子の怒りを鎮めようと必死に作り笑いを浮かべる。
「……っ……わ、私、きっと何か怒らせるようなことをしたのですよね。謝りますから……どうか傍に置いてください。私はあなたさえ傍にいてくれれば、それだけで幸せなのです」
他人の幸せばかりを求めてきたクラリスが唯一したみだった。だがばした救いを求める手は、払いのけられてしまう。
「ふん、白々しいだ。お前の悪名を俺が知らないとでも思っているのか!?」
「悪評とはまさか……」
「お前が男たちをベッドに連れ込んでいる件だ」
「――――ッ」
王子の口にした悪名とは、王宮に流れるも葉もない噂の事だ。
聖は男なら誰にでもび、夜を共にした異の數は両手でも數えきれない。事実無の悪評が流れていることは知っていたが、王子なら噂話の一つや二つ、笑い飛ばしてくれると期待していた。
だが現実は違った。に覚えのない噂を剣にして、クラリスを切り捨てようとしていた。
「わ、私はあなた一筋です。浮気なんて絶対にしません」
「信じられるかッ」
「本當です。私がしているのは世界でただ一人。あなただけなんです」
信じてもらおうと必死に聲を張り上げる。しかし王子の冷笑は消えない。
「ふん、噂話だけではない。俺はお前がスラムで男と手を取り合っている景を目撃したのだ!」
「それは怪我人を治療していただけです」
貧困街に暮らす人々は治療費がないため、怪我や病気をただ耐えることしかできなかった。そんな彼らを救うために、街で無償の治療活を行っていたのだ。
「苦しい言い訳だな」
「噓ではありません……本當なのです……ぅ……信じて……くださいっ」
「ふん、どちらでも構わん。俺には新しい婚約者がいるからな」
「ま、待ってください……何でもしますから……だから私を捨てないでください」
「鬱陶しいだ。やはり俺の婚約者にはあいつこそが相応しいな。お前も知っているだから、きっと驚くぞ」
王子の婚約者と聞いて、大商家の令嬢や、帝國の姫の顔が頭に浮かぶ。しかし彼らが婚約者であれば、そこに驚きはない。順當すぎる結果だ。
ではいったい誰なのか。その答えを王子が呼びかける名前で知る。
「リーシャ、俺の元へと來い」
「はーい♪」
部屋の外で待機していたのか、は扉を勢いよく開けて駆け寄ってくる。紺のドレスで著飾った彼は、黃金を溶かしたような金髪と、海のように澄んだ青い瞳に加えて、クラリスと瓜二つの容貌をしていた。見間違えるはずもない。雙子の妹であるリーシャであった。
だが雙子でありながらもクラリスの印象は大きく異なる。痛んで艶を失った金髪、疲れで目の下に隈のできた瞳、そして何より農民のようなボロの洋服。負傷した人たちを助けるために奔走してきたが故の見窄らしさであった。
「どうしてリーシャが……」
「ごめんなさい、お姉様。王子様は私が貰うことにしたの♪」
「う、噓ですよね。あなたがこんな酷いことをするなんて……」
クラリスとリーシャの格は真逆であった。どちらかといえば向的なクラリスと、明るくて天真爛漫な格のリーシャ。両親はよりの子らしいという理由から妹のリーシャを溺した。
両親から十分なを與えられずに育ったクラリスであったが、彼の心が曲がることはなかった。
それもすべて妹のリーシャのおかげであった。彼はいつも一人ぼっちのクラリスを心配し、聲をかけてくれたのだ。
自分もリーシャのように人に優しく生きたいとの願いが、彼の人格を形したのである。
だが尊敬する妹のリーシャが裏切り、自分の最の人を奪い取ろうとしている。理解できない現実に視界がグラグラと歪む。
「リーシャはお前と同じ聖だ。大臣たちも婚約には賛するだろう。誰もがむしい花嫁になる」
「王子様、好きッ♪」
「ははは、い奴だ」
二人はおしげに視線を差する。その眼はかつての自分に向けられていたモノで、クラリスへのが失われたことを実させられた。
「リーシャ、しているぞ」
「私もです♪」
二人はよりにもよってクラリスの眼の前でを重ねる。ストレスが心臓に早鐘を打たせ、胃の中から吐瀉を吐き出していた。
「……ぅぇ……こんなのって、いくらなんでもあんまりです……」
心の傷は聖の回復魔法でも癒せない。目から涙が零れ、頬を伝った。
「そう泣くな。お前には代わりの婚約者を紹介してやる。俺の弟で地位は公爵だ。顔があまりにも醜いために、嫁のり手がいなくて困っていたのだ」
「王子様ったら優しい♪」
二人は恐悅の笑みを浮かべながら、泣き崩れるクラリスを見下ろす。彼はただ泣きぶことしかできなかった。
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