ハラルド視點のざまぁ回です

王族は十歳になったタイミングで國王より寶刀を授與される。鞘には寶石が散りばめられ、抜くと刀には白い波のような刀紋が浮かぶ。ハラルドの自慢の刀であり、見ているだけで自分が王族だと実できた。

「さすがは代々王家に伝わる寶刀だ。一流、それこそが俺に相応しい」

上機嫌で刀を太のに翳す。強調された刀紋のしさに、うっとりとしてしまう。

「俺はしいものはすべて手にれる。クラリスもすぐに俺のになる」

負傷兵を押し付けたことにより、アルトは私財を失う予定である。クラリスが貧乏な生活を過ごしているところへ、白馬に乗った自分が現れるのだ。きっと彼は振り向いてくれる。愉快な妄想に口元のニヤニヤが止まらなくなった。

「王子、失禮します。商人のフェルです」

「おう、れ」

「では失禮して」

恭しく頭を下げるのは、ハラルドの馴染みの商人であるフェルだ。のような顔立ちをしている男で、軍隊時代の戦友でもある。小さな顔に似合わない大型のトランク鞄を運ぶ様はらしさをじさせた。

「本日は隨分と上機嫌ですね」

「分かるか？」

「長い付き合いですから」

「良きことがあったのだ。これからバラの結婚生活が始まる。結婚式にはお前も招待してやるからな。ありがたく思えよ」

「それは栄です。ですが王子がそれほどまでに惚れこむとは。よほどのなのでしょうね？」

「結婚式で會うのを楽しみにしていろ」

フェルはハラルドと長い付き合いだ。だからこそに惚れこむ彼を意外だと思う。

（リーシャ様と婚約していた時は、どこか本気さをじませんでした。それ以前のクラリス様も最終的には婚約を破棄されましたし、どのようなが彼の心を止めたのでしょうか）

疑問は膨らんでいくが、結婚式までの楽しみに取っておくことにする。それよりも商人としてやるべきことがあった。

「それで本日は向けの商品をお探しとか？」

「贈りにしたくてな」

「王子の寵をけられるとは。幸せなですね」

「そうだろうとも。今頃はきっと貧しい暮らしで苦しんでいるだろうからな。俺が優しくしてやるのだ」

「それは素晴らしい。では、そのが涙を流して喜ぶような品を用意せねばなりませんね」

トランク鞄から銀の沢を放つ皮の外套を取り出す。ハラルドはその素材に心當たりがあったのか、ハッとするような表を浮かべる。

「まさかそれはシルバータイガーの皮か？」

「ご明察です」

「おおっ、凄腕の冒険者でも複數人で挑まねば討伐できない魔ではないか。そのような良品をどのようにして手にれたのだ？」

「エリス商會から買い付けました」

「そんな商會が王都にあったか？」

「いえ、王都ではなく、アルト様が治める商業都市リアにある商會です」

「あいつの領地にそんな優良な商會があるのか……」

「魔ビジネスで名前を売り始めたのは最近の話ですからね。知らないのも無理はありません」

「魔ビジネス？」

「その名の通りです。魔を狩って、素材を加工して輸出しているのです。このシルバータイガーの外套もその一つです」

「お、おい、待て。では商會がシルバータイガーを討伐できる戦力を保持しているということか？」

王國軍の強者たちが束になってようやく倒せる魔を、名も知らぬ商會が討伐できるはずがないと驚く。しかし続けられた言葉で、それ以上の衝撃をけた。

「負傷兵のおかげだそうですよ」

「ふ、負傷兵だとおおおっ！」

「急にどうしたのですか、王子？」

「い、いや、取りしてしまった。続けてくれ」

「アルト領にけれられた負傷兵たちが魔を狩っているそうです。千人の強者が徒黨を組んでいるせいか、魔相手に負け知らずだそうで、アルト領の経済は魔バブルで湧いています」

「は、はははっ……な、何を言っているんだ、お前は……負傷兵が魔と戦えるはずがないだろ。あいつらはの欠損者や重傷者の集まりなんだぞ！」

「なんでも、クラリス様の回復魔法で癒したそうですよ。やはり聖の力は凄まじいですね」

「ク、クラリスが……ならあいつは……アルトは貧乏貴族に落ちぶれてはいないのか？」

「むしろ魔バブルのおかげで、絶好調だと思いますよ」

「クソオオオオッ」

ハラルドは恥も外聞も捨てて、魂の雄びをあげる。彼の計畫は失敗したどころか、上手く利用されてしまったのだ。

「クソッ、クソッ、なんだこれは。まるで俺がアルトよりも無能だと言わんばかりではないかっ」

「王子、どうか落ち著いてください」

「これが落ち著いていられるかっ！」

ハラルドは怒りを発散するように、刀で目につく家を切り刻む。機は真っ二つにされ、椅子は腳を失った。

だが怒りは収まらない。勢いをそのままに、大理石の壁を斬りつける。その瞬間、悲劇が起きた。

鉄さえバターのように切り裂くとの伝説が殘る寶刀は、大理石のさに耐えられなかったのか、刃が折れて、宙を舞う。伝説は眉唾だったと、無殘な結果が教えてくれた。

「お、王家に伝わる寶刀がああああっ！」

ショックで膝から崩れ落ち、呆然と刃の欠けた寶刀を見つめる。戦場で折れたのならまだ納得できた。しかし弟への妬心から八つ當たりで振るった結果、大切な寶刀を失ってしまったのだ。先祖たちに顔向けできないと、ハラルドの目には涙が浮かんでいた。

「わ、私はこれで失禮いたします」

フェルは刺激しないように部屋を後にする。商談は崩れたと、彼は本能で察したのだ。

「……ぐすっ……ク、クラリスがいてくれれば……」

きっと優しくめてくれたはずだ。だが彼は傍にはいない。婚約破棄した自分の愚かさを悔やむように、殘された部屋で咽び泣くのだった。