《【書籍化】王宮を追放された聖ですが、実は本の悪は妹だと気づいてももう遅い 私は価値を認めてくれる公爵と幸せになります【コミカライズ】》第四章 ~『リーシャの』~

リーシャに連れられて、アルトは客室へと案される。貓足の長椅子や化粧臺、レースのカーテンが目につく。置かれている家のグレードは男爵家とは思えないほどに高く、違和を覚えさせた。

「隨分と豪華な客室だな」

「私の自室として使っていた部屋ですからね。狹くなったので、今は別の部屋に移りましたが」

「……空き部屋があったということか?」

「家族だけで暮らしていましたからねぇ。空き部屋の方が多いくらいです」

「……クラリスは置で育ったと聞いたが?」

「あれはお姉様の趣味ですよぉ。でなければ、置で寢る貴族の令嬢などおりません」

「…………」

アルトは怒りを通り越して、黙り込んでしまう。クラリスが自分で不遇な立場をんだとする言葉は卑怯者のそれだ。加害者が自分を正當化するために、めの理由まで被害者に押し付けたのだ。

「クラリスは……」

「お姉様がなにか?」

「いや、何でもない……」

怒りを我慢するために、ふぅと息を吐き出す。婚約破棄が正式に立したのだ。クラリスは自由のだ。家族に縛られる鎖はない。

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ならば過去の不遇の分だけ、幸せにしてやればいい。アルトは前向きな態度で未來を見據える。

「そうだわっ、お姉様のことを知りたいのなら、あれを用意しないと」

「あれ?」

「見てからのお楽しみですよぉ」

リーシャが部屋の外へと何かを取りに行く。數分後、戻ってきた彼の手にはカップが握られていた。

「この紅茶はお姉様が育てた茶葉から淹れたのですよぉ。興味ありますよね?」

「クラリスに茶葉を育てる趣味があったとはな。知らなかったよ」

「飲みますよね?」

「無駄にはできないからな」

無骨な答えだが、アルトの口元には笑みが浮かんでいた。クラリスが手料理を振舞う度に、手帳に想い出を記すほどの妻家だ。彼の育てた茶葉に興味を示さないはずがない。

リーシャから渡されたカップをけ取り、口を付ける。甘みが舌の上で広がり、を鳴らした。

「お味はどうですかぁ?」

「最高だ。さすがはクラリスの育てた茶葉だな」

「アルト様はお姉様をしているのですね……」

「私の右に出る者はいないとを張れるほどにな」

「お姉様がこれほどにされるなんて驚きですぅ。知っていますか? 子供の頃のお姉様は私に懐いていたんですよぉ。話しかけると駆け寄ってくる姿はそれはもう……うふふ……まるで犬みたい♪」

リーシャの言葉を耳にするたびに、アルトのが粟立つ。彼心でクラリスを見下していた。それがありありと伝わってくるのだ。

「アルト様は私の事をどう思いますか?」

「クラリスの妹だな」

「はぐらかさないでくださいよぉ。個人的にどう思っているかという話です」

びるように、潤んだ瞳でジッと見つめてくる。男を手の平で転がすことに慣れた表も、するような甘い吐息も、アルトにとっては嫌悪の対象でしかなかった。

「私に惚れたりしませんかぁ」

「するはずがない。私はクラリス一筋だからな」

「それは私に魅力がないからですかぁ?」

「魅力の問題ではない。君の瞳は人を映していないのだ」

「え~、ちゃんとアルト様のしい顔が映っていますよぉ」

「そこだよ。君が好きなのは私の顔や金や地位で、私自には興味がないだろ。だがクラリスは違う。私という一人の人間をしてくれている。だから私も彼するようになったのだ」

地位も名譽も金も、アルトよりハラルドの方が優れていた。しかしクラリスは彼を選んでくれた。面を好きになってくれたのだと、自信を持つことができた。

「何度でも言う。私はクラリス以外のには興味がない。リーシャ、君に対してもだ。その気持ちが変わることはない」

「それは殘念です。ですがまぁいいでしょう。どうせすぐに心変わりしますから」

「いいや、私は――」

否定の言葉を口にしようとした瞬間、眩暈が起きる。ユラユラと揺れる視界で、リーシャは恐悅の笑みを浮かべていた。

「ふふふ、ようやく効いてきたようですねぇ」

「どういう……ことだ?」

「実は先ほど淹れた紅茶ですが、茶葉をお姉様が育てた話は噓なのです」

「な、なら私に何を飲ませた?」

薬ですよ。効き目が強すぎて、帝國では販売が止されているほどです。王子様もこれで私にメロメロになったのですよぉ」

汗が止まらなくなり、が熱くてかない。意識を保つのが一杯だった。

「この薬を飲んで、私を襲ってこないなんて、本當にお姉様のことをしているのですねぇ」

「當たり前だ!」

「ですが事実は噓で塗り潰せます。こうやってね」

リーシャは抵抗できないアルトに抱き著く。元をはだけさせた彼と、顔を火照らせる彼が寄り添う景は立派な浮気現場だ。

「これでアルト様は言い逃れできませんよ。後はお姉様に目撃させるだけ。これで二人の絆は崩れ去ります」

「や、やめろ」

「だーめっ。それより意識を保つのも大変でしょう。さぁ、眠りましょう。婚約者の私が、あなたの傍にいてあげますから」

リーシャは甘い言葉を耳元で囁く。靡な瞳を輝かせる彼は、悪魔のように笑うのだった。

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