クラリスが監されてから數日が経過した。救助が來る気配はなく、ハラルドも外出したまま姿を見せない。

「私はこのまま外に出られないのでしょうか」

椅子に腰掛けながら、部屋を見渡す。扉に鍵は掛けられており、窓も天井近くにあるため手が屆くことはない。

出することはできないが、死ぬことはない。食住は提供されているし、お風呂とお手洗いまで完備されている。

「焦っても問題は解決しませんし、心を落ち著かせるとしましょう。孤獨は慣れっこですから。負けたりしません」

時代から一人で暮らしてきたクラリスは孤獨に慣れていた。目を閉じて、心を空っぽにする。

「あれ……おかしいですね……」

以前のクラリスなら頭に浮かんだのは、果てのない暗闇だった。だが彼の脳裏にはり輝くアルトとの思い出が広がっていた。

和な笑みを浮かべる彼を思い出し、會いたいとの焦燥がを焼く。寂しさは募り、目から涙が零れた。

「私も弱くなってしまいましたね……いえ、違いますね。これは長です」

孤獨を耐え忍ぶことができなくなった。しかしそれは弱さではない。我慢しているだけでは現狀を変えられないからだ。

アルトに會いたいと焦がれるからこそ、頑張ろうと意が湧いてくる。クラリスは立ち上がり、部屋の中で使えるモノがないかと探す。

「この木箱はなんでしょうか……」

部屋の隅に置かれた箱に近づく。そのあまりの不自然さに罠だと疑っていたが、監されている狀況で罠を仕掛ける意味もない。

木箱の上には手紙が置かれていた。封蠟を外して、中を確認する。

『サプライズプレゼントだ。喜べ、そして俺をするのだ！』

ハラルドらしいと、クスリと笑みが零れる。ゆっくりと木箱の蓋を外す。中には檻に閉じ込められたシルバータイガーの子供の姿があった。

玩用として調教されているのか、クラリスの顔を見ると、びるような聲をあげる。その姿が過去の自分と重なってしまう。

「いますぐ出してあげますからね」

シルバータイガーを檻から出して抱き上げる。銀のはモフモフとらかい。本來あるはずの鋭い爪は、玩として育てられる過程で切られていた。

「うふふ、可いですね♪」

クリッとした瞳に、貓のようなで聲。長すれば恐ろしい魔になるとは想像できないほど、くるしい外見だった。

「魔でもきっとお腹は空きますよね。ご飯にしましょうか」

砕いたクッキーをシルバータイガーの口元まで運ぶと、舌を出して、ペロリと飲み込む。甘いが好なのか、嬉しさを示すようにスリスリとを寄せる。その姿がらしくて、菓子を食べさせる手が止まらなかった。

「いけませんね。これでは時間がいくらあっても足りません」

クラリスはシルバータイガーを下ろすと、出するためにき始める。

実質的に出り可能なのは扉だけ。何とか開けることができないかと、押してみるがビクともしない。

「私の重では壊せそうにありませんね」

次に目にったのは丸椅子だ。重さで震える手で、何とか持ち上げる。

「えいっ」

投げつけてみるが、部屋の扉はビクともしない。見た目よりも遙かに頑丈な扉だった。

「椅子の重さでも無理ですか」

打開策はないものかと、肩を落とした時、ガリガリと音が鳴る。シルバータイガーが扉を壊そうと引っ掻いていたのだ。

だが爪は切られているため、鋭さがない。傷痕を殘すので一杯だった。

「爪さえあれば、壊せるのでしょうが……」

ないものねだりをしても仕方がないと諦めようとした時、閃きが頭を過った。

「回復魔法を使えば治せるかもしれませんね」

無くした腕さえ復元できるのだ。爪を元に戻せないはずがない。クラリスが回復魔法を発させると、爪が鋭さを取り戻す。

「お願いします」

クラリスの頼みが屆いたのか、シルバータイガーは頑丈な扉を切り裂き、外への出り口を開く。數日振りの自由に、口元に笑みが浮かんだ。

「これで逃げられます。ありがとうございますね」

クラリスが微笑むと、それに応えるように貓で聲を返してくれる。解放されても、シルバータイガーは彼の傍から離れようとしなかった。

「私の傍にいてくれるのですか？」

「にゃ～～」

「ふふふ、ではあなたと私は友人です。名前は――シルバータイガーですし、ギン様で如何ですか？」

「にゃぉ～～♪」

「気にってもらえたようですね」

會話をすることはできなくてもコミュニケーションはできる。クラリスとギンは逃げ出すため、山荘から飛び出すのだった。